日本エネルギー会議

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トランプ政権の環境・エネルギー政策予算案と「パリ協定」離脱問題  松本真由美(東京大学教養学部客員准教授)

このたび日本エネルギー会議のウェブサイトで連載する有意義な機会をいただいた。環境・エネルギー問題を、さまざまな観点から、読者の皆様と情報共有しながら考えていきたいと思う。筆者は、ワシントンD.C.で2月上旬、米商工会議所、シンクタンク、産業界などにヒアリング調査を行った。第一回目のコラムのテーマは、4月29日に発足100日目を迎えるトランプ政権の環境・エネルギー政策、および「パリ協定」離脱問題の行方を探りたい。

◆環境・エネルギー予算は削減へ
 トランプ政権は、3月16日に2018年会計年度(2017年10月〜18年9月)の予算案骨子(America first: A Budget Blueprint to Make America Great Again)を議会に提出した。トランプ大統領は、国民の安全を第一優先に掲げ、防衛予算を540億ドルに引き上げるため、その他の部門の連邦予算の削減を図っている。環境保護局(EPA)の予算は、地球温暖化対策費を削り31%減の58億ドル(過去40年で最低レベル)で、3200人の職員を削減する計画だ。一方、エネルギー省(DOE)の予算は280億ドルで、前年度予算から17億ドル削減の5.6%である。オバマ前政権が立ち上げたエネルギー高等研究計画局(ARPA-E)による革新的エネルギー研究開発などが廃止や大幅な予算削減の対象となっている。

 2月のヒアリングでも、トランプ政権は市場ベースで競争力あるエネルギーの支援を行い、製造業の復活を図る一方、多額の補助金が必要な実証事業や先端科学技術への支援は行わないだろうとの意見が多く聞かれた。おおかた予想通りの予算措置とも言えるが、革新的エネルギーの研究開発予算の打ち切りは、米国の国際競争力の低下や科学技術の進展を阻むとの批判の声が原子力やクリーンエネルギー関連団体、メディアなどから相次いでいる。ちなみに原子力発電については、原子力設備増強とユッカマウンテン最終処分場の承認手続きの再開に予算を充てる一方、先端技術の開発予算はカットされている。

◆温暖化対策の柱「クリーンパワープラン」撤廃へ
 トランプ大統領は、3月28日、「米国のエネルギー自給率向上と経済成長促進」の大統領令に署名した。その中で注目されたのは、炭鉱関係者たちが立ち会う中、オバマ前政権が策定した地球温暖化対策の柱「クリーンパワープラン」の見直しに向けた正式な手続きを直ちに開始するよう、EPAに命じたことだ。この会見で、トランプ大統領は、地球温暖化対策より産業振興、雇用創出を優先させる方針を強調した。


    出典:Wall Street Journal

 クリーンパワープランは、2030年までに発電所からの温室効果ガスの排出を2005年比全米で合計32%削減の目標を達成するよう、各州政府にそれぞれの状況に応じた削減案策定を義務づけるものだ。クリーンパワープランにより、米国内の老朽化した低効率の石炭火力発電所の閉鎖の加速が予測されていた。米国は2025年に2005年比25〜28%削減、2050年に80%削減の温室効果ガス排出削減目標を約束しているが、トランプ政権のもと大きく政策転換し、温暖化対策を後退させることになる。

 トランプが公約に掲げるエネルギー政策、「米国第一エネルギー計画(An America First Energy Plan)」の中核は、国内の化石エネルギー生産拡大と米国のエネルギー自給率を100%にすることだ(現在の米国のエネルギー自給率は85%)。地球温暖化への影響を懸念し、オバマ前政権が建設申請を却下していた「キーストーンXL」と「ダコタ・アクセス」の2つの石油パイプラインの承認迅速化を促す大統領令を1月24日に出すなど、化石エネルギーの生産拡大に向けて素早いアクションを起こした。計画では、米国内で衰退しつつある石炭産業の復活も盛り込まれている。石炭業界にもヒアリングしたが、クリーンパワープランの撤廃により、米国内の石炭需要が増えると楽観的には捉えていなかったが、生産拡大した分は輸出への期待を持っていた。ある石炭業界幹部は、「日本は石炭火力を増やす計画なんだろう?」とこちらに逆質問し、含みを持たせた。

◆「パリ協定」離脱問題はどうなる?
1月20日の大統領就任当日、ホワイトハウスのホームページから、地球温暖化問題に関する情報はすべて削除された。オバマ前大統領がCOP21で国連の緑の気候基金(GCF)に米国による約30億ドルの拠出を約束し、10億ドルを拠出したが、トランプ大統領は「残りの約20億ドルの支払いはしない。その分は米国の水・環境インフラ整備に充てる」と発言している。2020年以降の温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」離脱問題については、現在トランプ政権内で議論中だが、ヒアリングでは「米国はパリ協定を離脱しないだろう。しかし国際ルールは守らない」という意見が多く聞かれた。パリ協定の約束草案を守らなくても罰則はないため、遵守しないという見方だ。

仮に米国がパリ協定を離脱したとしても、世界への政治的な影響は限定的ではないかと思われる。その理由の一つは、温室効果ガス最大排出国の中国ではPM2.5問題が深刻化しており、二酸化炭素(CO2)の排出削減以上に大気汚染対策として、石炭火力から原子力と再生可能エネルギー等のゼロ・エミッション電源へのシフトを進めており、この流れが大きく変わることはないのではないか。これまで温暖化対策に熱心だった英国はEU離脱により、メイ首相が打ち出した施策は温暖化対策より製造業重視であり、米国と同じく保護主義の方向に向かっているが、EU全体としては世界における温暖化対策のリーダーシップを取り続けると思われる。

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