日本エネルギー会議

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「名門・県立浦和高校の白熱エネルギー講座」を読んで 岩瀬昇(エネルギーアナリスト)

 この春、『名門・県立浦和高校の白熱エネルギー講座』(株式会社エネルギーフォーラム、平成29年3月1日)という本が出版された。埼玉県立浦和高校(浦高)は筆者の母校である。我が母校の後輩たちが「エネルギー講座」で何をどう学んだのか、興味をもってこの本を読み終えた。
 率直な感想は「後輩たち、頼もしいぞ、ガンバレ、もう一歩だ」である。

 明治28(1895)年創設の旧制浦和中学を前身とする我が浦高は、平成26年に制度化されたスーパー・グローバル・ハイスクール(SGH)の一校に指定されている。SGH制度とは、グローバル化が進む時代要請に応え、国際的に活躍できる人材育成を重点的に行うことを目的として文部科学省が始めたものだ。
浦和高校の英語教師だった岡田直人氏(現、埼玉県立総合教育センター指導主事)たちが平成27(2015)年、「総合的な学習時間」を利用して「徹底研究! 日本の電力問題」講座を企画し、受講した生徒たちと共に行ったアクテイブ・ラーニング実践の記録をまとめたのがこの本だ。
 詳細は本書をお読みいただきたいが、後輩たちは驚くほどの感受性と知的好奇心をもって課題に挑み、学び、吸収している。また、1年間の締めくくりとして行われたSGH総合報告会では、英語でプレゼンを実行しており、まさに頼もしい後輩たちである。

 だが、筆者は「もう一歩」と若干の不満を覚えた。
残念ながら、一次エネルギーについての学習が不十分だからだ。一次エネルギーとは、石油、天然ガス、石炭、ウラン(原子力)および水力を含む再生可能エネルギーのことだ。
日本の電力問題という重要課題に取り組むにあたり、世界および日本の一次エネルギーの事情について、もう少しきちんと理解を深めて貰いたかった。後輩たちには、世の中の多くの人たちと同じ誤解、すなわち「エネルギーとは電気、電力のことだ」と誤解してほしくなかった。

電気あるいは電力は、ガソリンと同じように、一次エネルギーを使いやすいように変換した二次エネルギーである。もちろん電気もガソリンも大事だ。だが、一次エネルギーがなければ、これらの二次エネルギーは作りだせないことを忘れてはならない。
日本のエネルギー問題にとってもっとも大事なことは、日本での埋蔵量、産出量が少ないこれらの一次エネルギーを、どのような割合でどのように確保するか、ということではないだろうか。

 1年間にわたる学習で、後輩たちが一次エネルギーの問題をまったく耳にしなかったわけ
ではない。だが、一度耳に入った情報がそのまま反対の耳から出て行ってしまったのでは
ないかと危惧している。

後輩たちは春から半年以上、電力に関する基礎知識を多角的に学び、さらに理解を深め
るために、外部から電力問題のエキスパートを招き講義を受けた。
3人の外部エキスパートは、それぞれ次のような講義を行った。
 2015年11月18日「日本の再生可能エネルギーの導入状況と今後の展望」
 坂西欣也氏(国立研究開発法人産業技術総合研究所・福島再生可能エネルギー研究所所長代理・日本大学工学部客員教授)
 2015年11月25日「2030年エネルギーミックスにおける『原子力発電』のあり方」
 木村浩氏(特定非営利活動法人パブリック・アウトリーチ研究統括)
 2015年12月2日「2030年における電源構成」
 橘川武郎教授(東京理科大学大学院)
これら3人の外部エキスパートは、講義を始めるにあたり一次エネルギーのことについて簡単に触れている。だが、話の重点は電力に関わる問題だ。
もし後輩たちが一次エネルギーの基本的知識を身に付けていれば、この程度の触れ方でも問題はないのだろう。だが、本書の最後に掲載されている後輩たちの「最終論文」の中に「ウランや化石燃料はいずれ枯渇する」という記載があり、筆者は脱力感に襲われたのだった。現時点において、化石燃料(石油、天然ガス、石炭)が「枯渇する」とは考えられていないからだ。たとえばかつての石油「ピーク・オイル論」は、いまや「需要のピーク論」として語られている。

 一次エネルギーと二次エネルギーの関係については、資源エネルギー庁が公表している「平成27年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2016)」に記載されている「我が国のエネルギーバランス・フロー概要(2014年度)」(第2部エネルギー動向、第1章国内エネルギー動向)を見ると容易に理解ができるだろう。

 この図の左側をみると、2014年度に一次エネルギーとして供給されたものの比率は次のとおりとなっている。
   原子力    0.0%
   水力、再生  7.8%
   天然ガス   25.2%
石油     41.4%
   石炭 25.5%
さらに一次エネルギーとして発電用(自家発を含む)に投入されたのは全体の44.4%となっていることも分かる。
また、電源燃料別にみると、
原子力     0.0%
水力、再生  13.5%
ガス     40.3% (都市ガスを含む)
石油     12.4%
石炭     33.9%
となっている。
 一方、一番右側に記載されている最終エネルギー消費を見ると、電力は家庭用、企業・事業用等を合わせても全体の25.7%に留まっている。投入量に比し消費量が少ないのは、技術的理由により発電時および送電時のロスが大きいことなどが主因だ。
 このように、電気、電力が日本のエネルギーに占める比率は、投入ベースで半分以下、消費ベースでは約4分の1でしかないのである。
 国民生活にとって電気、電力の問題が大事であることに異論はないが、それがエネルギー問題のすべてではないということには同意いただけるであろう。

 「エネルギー=電気、電力」との誤解は一例だが、筆者は、日本人のエネルギーリテラシーがなぜ低いのか、考え続けている。

 石油大国であるサウジアラビアの日本大使も務めた岡崎久彦氏の著作『戦略的思考とは何か』(中公新書、1983年)の「はじめに」のなかに次のような記載がある。
 「日本人というのは(中略)肌で感じないとなかなか理解しない国民なので、何もないところに論理的な整合性のある構築物を作り上げるということになると、はたと当惑してしまうところがある」
 岡崎氏は国家戦略について述べているのだが、エネルギー問題についても同じことがいえるのではないのだろうか。
 東北大震災は、我々すべての日本人にとって「肌で感じた」などという以上の、未曾有の大災害であった。この惨事を経験した多くの日本人が、電気、電力こそがエネルギーの最重要問題だ、と考えることは理解できる。だが、電気、電力以外のエネルギーも、目に見えないところでしっかりと我々の生活を支えているのだ。我々が毎日の生活の中で使用している各種エネルギーの存在は、なかなか「肌で感じにくい」ものなのである。

 また、2年ほど前に出演した『久米書店』というテレビ番組の収録のおり、「店主」久米宏氏が、「日本人のエネルギーリテラシーが低いのは、日本に停電がないからですよ」と喝破されていた。久米さんは平壌に出かけられたさい、夕食時にレストランで焼肉を食べていたとき突然のブラックアウトを経験され、エネルギーの重要性を実感したそうだ。
 停電がないことは幸せなことだ。だが、それが日本人のエネルギーリテラシーが低い理由だとしたら、なかなか困った問題である。

 この度、本ページに寄稿をさせていただくことになった。本ページの記事は、「日本エネルギー会議」の創立趣旨に鑑み、原子力発電を中心とした電気、電力の問題に集中している感がある。筆者は、主に石油および天然ガスの分野のトピックスを紹介していくことにしたい。微力ながら少しでも多くの人に、エネルギーの基本事項を総合的に、正しく理解し、自らの判断で我が国にとって望ましいエネルギー政策とは何かを考えるお手伝いをさせていただきたいと思う。

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