日本エネルギー会議

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メタンハイドレートで未来はあるか? 小野章昌(エネルギーコンサルタント) 2017.7.3

 2013年の第1回産出試験に引き続いて今年5月にも地球深部探査船「ちきゅう」を使ったメタンハイドレートの産出試験が愛知県渥美半島沖で行われた。試験海域だけで日本で使う天然ガスの10年分の埋蔵量があるという触れ込みで、いやが上にも期待は高いものがあるが、実態はどうであろうか?

 結果から先に言えば、今回は12日間の産出試験で35,000立方メートルのガスを回収した。2013年の試験では6日間の操業で12万立方メートルのガスを回収できたので、それを下回ったわけである。両方とも、もっと長い期間の操業を期待したのであるが、いずれも沢山の砂粒がボーリング孔に入り込んでくる出砂現象で産出が止まってしまったのである。

 自然が相手だけに予想できないことも生じるのが、海底資源からのエネルギー生産の特徴だが、それにしてもメタンハイドレートはエネルギー資源としての質が悪すぎると言えよう。メタンハイドレートは天然ガスの主成分であるメタンの分子と水の分子が格子状に絡まってできた固体で、低温で高圧という環境があって初めて存在するもの。
 つまりこの環境を壊してやれば分解して元のメタンガスと水に戻るわけであるが、逆に言うと、現在の環境下では頑としてその姿を変えないものであり、取り出すのがはなはだ厄介な代物とも言える。

 在来型資源と呼ばれる通常の油田やガス田では地表からボーリング孔を打つと地下の高い圧力のために原油やガスが自然に吹き出てくるが、シェール資源やこのメタンハイドレートなどは吹き出てこない。
 非在来型資源と呼ばれるゆえんで、人工の手を加えて回収することになる。例えばシェール資源では大量の水を超高圧にしてボーリング孔を通じて地下に押し込み、周囲の岩石に割れ目を作って原油やガスを回収する。メタンハイドレートの場合には熱を加えるか、減圧して、水とメタンガスに分解し回収を図ることになる(図1)。

 加熱法を取る場合には、地表から蒸気などを作って熱を送る必要があり、蒸気を作るためのエネルギー量を考えると、回収できるメタンガスのエネルギー量との比較で、エネルギー収支面でも、経済収支の面でも事業が成立しないおそれが強い。
 したがって減圧法が今回も採用されている。これはボーリング孔(生産井)からポンプで水を抜き取ることによって地下のメタンハイドレート層を減圧状態に導き、メタンガスを回収しようというものである(図2)

図1 メタンハイドレートは加熱するか減圧することによって分解する

出所:MH21(開発研究コンソーシアム)パンフレット

図2 ボーリング孔から水をくみあげ減圧法によりメタンガスを回収

出所:MH21パンフレット

 メタンハイドレートが分解するとガスと水になるため、周囲の砂が動きやすくなってガスと同じようにボーリング孔に向かって動くことは当然予想されることで、今回の操業でも砂がボーリング孔に入り込むことを防ぐための新しい仕組みを採り入れていた。井戸の鋼管の周りに厚さ5~6センチメートルの形状記憶ポリマーを装着して砂の侵入を防ぐ装置であった。
 しかし前回と同じように砂が井戸内に入り込むのを防ぐことができなかった。これは技術的問題ゆえ行く行くは対策が考えられようが、ハイドレートいう固体が支えていた地層の中でその柱ともいうべき固体が消えて、水とガスと砂というようなぐずぐずの状態になるという本質的な問題は残るであろう。
 採掘の過程で生じる色々な自然現象が心配になるであろう。例えば、上部の地層の崩落(落盤)が生じないか? 崩落が生じれば、それが邪魔となり、減圧の範囲が計画通りには進まなくなるのではないか? 採掘範囲の途中に断層があったり、頁岩層などの固い岩層があったら、減圧がそれ以上先には進まないのではないか? などなどである。

一番の問題は吸熱反応
 
 自然を相手にすることに加えて、メタンハイドレートからメタンガスを回収する際の一番の問題は「メタンハイドレートがメタンガス(気体)と水(液体)に分解する反応は周囲から熱を奪う吸熱反応(400kj/kg)」であることがある。
 つまり分解・回収を続けていると地層の温度が低下し、分解が止まり、生産レートが下がる特徴があるのである。何らかの方法で熱を供給してやらねば分解が止まるわけで、渥美半島沖などの砂層型と呼ばれる資源の採掘では周囲(特に上下の)泥岩層からの熱補給が可能と考えられている。これは地球熱の利用というわけであるが、果たしてどこまでそのような熱補給が可能であるかは長期の操業をやって見なければ分からないであろう。

 上記のように崩落が生じれば、上部泥岩層からの熱補給は中断されるであろうし、途中に断層が存在したり、泥岩層が途中で消え失せて熱伝導度の異なる地層に熱の供給を依存する場合も考えられよう。自然任せということは、生産のコントロールがそれだけ難しくなることを物語るものと言えよう。

日本海の表層型資源はどうか?

 渥美半島沖の資源は砂層型と呼ばれ、1000m近くの海底から300mほど掘り下げたところに水平方向に広範囲に存在するもので、資源量は大きなものが期待されるが、日本海を中心に存在する表層型資源は「ガスチムニー」とも呼ばれる海底面近くに塊状で存在する資源で、個別に採掘する必要があり、逆に回収が難しいものと言えよう。

 一案としては、じょうごを逆さまにしたような鋼鉄製の大型容器を海底面に降ろし、ノズルから高圧の水流を出してメタンハイドレートの塊を砕き、水と攪拌して水に溶かしたメタンハイドレートを水ごと海上に運んでガスを回収する方法などが考えられている(青山繁晴「希望の現場メタンハイドレート」より)。
 しかし個別の断続的な操業であるだけに、回収されるガスのエネルギー量と装置の製造や作業船を含めた操業のための投入エネルギー量を比較する「エネルギー収支比」が経済的に成り立つかという問題があろう。いずれにしても表層型資源はその存在を確かめる段階にあり、採掘方法の検討はまだまだこれからという段階にある。1か所での大量生産が望めないという点で経済的には砂層型に劣ることは否めないであろう。

天然ガスの価値はなんぼのもの?

 今年5月の試験操業で回収できたメタンガスの量は35,000立方メートルであった。これを金額に直すと約130万円ということができる。探査船ちきゅう号を含めた今回の試験操業の予算はおそらく100億円を越えるものであったろうと思われる。1000mという深海からのガス生産はそれほど高コストであり、解決しなければならない問題は山ほど残っている。

「夢がさめて現実の難しさを知った」これは第1回産出試験に携わったある担当者の言葉である。

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