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ASTRIDとはどんな原子炉か? 高木直行(東京都市大学 大学院 共同原子力専攻 主任教授) 2017.7.10

1 はじめに
 政府は昨年末、高速増殖原型炉「もんじゅ」の廃炉を決定する一方で、核燃料サイクルと高速炉については今後も開発を継続する方針を明確にした。今年3月に安倍首相がパリでオランド前仏大統領と会談した際には、両国間の原子力分野での協力関係が改めて確認され、仏に建設予定の高速実証炉「ASTRID(アストリッド)」について新たな協力の枠組みを検討することが合意された。
 東日本大震災以前、日本では2025年頃の実証炉建設や2050年頃の商業化を目指した高速炉開発プログラムFaCT(Fast Reactor Cycle Technology Development Project)が推進されていた。FaCTでは、実験炉「常陽」や原型炉「もんじゅ」で培ったノウハウをベースとした日本独自の高速炉であるJSFR (Japan Sodium Cooled Fast Reactor)の研究開発が行われていたが、震災後は事実上凍結状態にある。
 こうした中、日本政府はJSFRとは基本設計を異にする、仏が提唱するASTRIDへの協力体制を強化しようとしている。そこで本稿では、ASTRIDとはそもそもどのような高速炉であるのか、JSFRと比較しながらその技術的特徴を述べ、今後の日本における高速炉開発のあり方を考える一助としたい。

2 ASTRIDとは
 ASTRIDとはAdvanced Sodium Technological Reactor for Industrial Demonstrationの略で、1998年に閉鎖を正式決定したSuperphenixの後継炉に位置づけられる、電気出力600MWのナトリウム冷却・酸化物燃料高速実証炉である。マルクール原子力施設へ建設し、2030年頃に初臨界とすることが提案されており、その最終決定は2019年になされる予定である。
 ASTRIDの開発目的として、ウラン資源の有効利用のためのプルトニウム多重リサイクル、長寿命放射性廃棄物量の削減を狙ったマイナーアクチニドの核変換、そして第3世代原子炉に比した更なる安全性強化などが掲げられており、2050年頃の高速炉実用化へ向けた技術実証を行う役割を持つ炉である。
 日本のJSFRも持続可能性、安全性、核拡散抵抗性、経済性を開発目標としており、目指す方向性は大きく異なるものではないが、ASTRIDとJSFRの炉心設計上の特徴的相違点として炉型、低ボイド炉心、炉停止系や過酷事故対策等が挙げられる。ここでは文字数の制約から、この内の3点について焦点を当て、両炉を比較してみる。

3 タンク型とループ型
 ASTRIDでは、中間熱交換器や一次ポンプといった主要大型機器が大口径の原子炉容器内に原子炉とともに配置されるタンク型を採用している。500℃超の高温Naを保持する大口径原子炉容器では、熱応力を緩和するため薄肉構造とする必要があるが、これは耐震性の裕度を小さくする。一方のループ型は、耐震設計に適合し易い構造であることに加え、機器が独立しているため保守・補修性の点でも有利とされ、地震国日本のJSFRではループ型を採用している。
 実験炉常陽、原型炉もんじゅ、1990年代後半に計画中止となった電力実証炉のいずれも、一貫してループ型であった。一方、昨今の高速炉開発を先導するロシア、インド、中国はいずれもタンク型であり、日本の炉型は独自路線となりつつある。


タンク型(ASTRID)
                         

ループ型(JSFR)

図1 炉型の比較

4 低ボイド炉心の追求
 チェルノブイリ原発事故の原因の一つはポジティブ・スクラムと呼ばれる一種の反応度事故であった。この事故の影響を被った欧州では反応度事故に敏感であるためか、仏のASTRIDでは、冷却材であるナトリウムがボイド化した際に投入される反応度を最小化する低ボイド(係数)炉心を追求している。
 そもそもボイド係数とは、冷却材中に泡(ボイド)が生じた際に核分裂反応がどの程度活発化(もしくは不活発化)するかを示す量であり、安全上重要な炉心性能指標の一つである。ナトリウム冷却大型高速炉ではボイド係数は通常正の値(設計に依存するが約4~6$)をとるが、これを低減するには、ボイド発生時に中性子が炉心外へ漏れ出易い形状・構成の炉心とする必要がある。
 高速炉は軽水炉・重水炉などの熱中性子炉と異なり、そもそも中性子漏洩の比率が高いものの、炉心中央部では相対的に中性子が漏れにくいため、中央部で炉心高さを減じて上下方向の中性子漏洩を促進するH型形状炉心や、中性子分布を上下方向に意図的に歪ませて漏洩を増大させる炉心構成(内部ブランケット配置炉心)が検討されている。
 さらに、冷却材の温度が高くボイド化しやすい炉心上部領域の中性子漏洩を促進するため上部ブランケットを削除するとともに、炉心上部にナトリウムプレナム領域を設け、漏えい中性子の再入射を抑制する上部中性子吸収体設置も検討されている。しかしながら、これらのボイド係数低減策はいずれも燃料増殖性や燃焼度を悪化させるものであり、炉心性能を如何に最適化するかが課題となっている。


図2 低ボイド反応度を狙ったASTRID炉心の構成

 一方JSFRでは、通常運転時に負の反応度制御性を有していれば、ボイド反応度は正であっても即発臨界超過の可能性は排除できるとして、その核設計上の余裕分を増殖性能や燃焼度の向上に割り当てた設計としている。

5 過酷事故対策
 高速炉の炉心崩壊事故(Core Disruptive Accident, CDA)の対策としては、濃度の高い核分裂性物質が凝集し再臨界になる可能性を極力排除し、著しい機械的エネルギーが放出されることを防止する必要がある。高速炉心が溶融した状態に対する緩和策は、原理的には中性子吸収材の投入や核分裂性物質の早期炉外排出が考えられる。
 その方策としてASTRIDでは、内側炉心および内側・外側炉心の境界に溶融燃料排出パスを形成する特殊な集合体を備え、炉心下部のコアキャッチャーに溶融燃料を導き、分散したデブリの長期冷却を達成できる機構を考えている。一方JSFRでは、六角燃料集合体内側の一隅にひし形の燃料排出孔を設けた内部ダクト付き燃料集合体(Fuel Assembly with Inner Duct Structure, FAIDUS)を考案し、カザフの研究炉等で燃料排出実証研究を行いつつ設計に反映している。

6 日本のための高速炉開発とは
 ASTRIDとJSFRの炉心設計の特徴的相違に着目して、ASTRIDの設計思想の一部や現時点の炉心設計仕様について概説した。両炉とも、優れた安全性、過酷事故対策、燃料増殖、MA核変換といった共通の開発目標を掲げるものの、設計思想の違いや過去に積み上げた実績の違いから、それぞれ独自の設計アプローチがとられている。すなわち、システム安全、増殖性、経済性の間での最適点の取り方が異なるため、同じナトリウム冷却高速炉でありながらASTRIDとJSFRは似て非なる炉ともいえよう。
 ポストもんじゅの我が国の高速炉開発計画については、今年3月から高速炉開発会議「戦略ワーキンググループ」が発足し、1年程度をめどに実証炉開発の工程表が具体化されることとなっている。そこではASTRIDへの開発協力、実験炉「常陽」などの活用も議論されるが、日本の高速実証炉の規模・構造や開発体制・計画の策定が要だ。
 巨額な費用と長い期間を要する大プロジェクトで国際協力が強化されることは自然だが、これまで国内の英知を結集して築き上げてきたシステム像が、確たる技術的根拠なしにねじ曲げられることがあっては健全な技術開発はできない。日本国民とFBR開発に心血を注いできた技術者が納得でき、かつ、実用化を担う若い世代を魅了できる道筋が示されることを期待したい。

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