日本エネルギー会議

  • 設立趣旨
  • お問合せ

原子力の信頼回復には何が必要か 原子力の光と影 内山洋司【筑波大学 名誉教授 (一社)日本エレクトロヒートセンター会長、(公社)茨城原子力協議会会長】 2017.8.3

 福島第一事故が原因で国民の多くが原子力に対して批判的か反対の立場をとっている。国の方針も再生可能エネルギーや天然ガスの利用に力を入れ、原子力にはできるだけ依存しない社会を目指している。原子力には光と影がある。もう一度原点に立ち戻って原子力問題について考える必要がある。ここでは「原子力の光」について現在、直面している問題点を挙げることにする。
(1) 豊富な資源
 ウランの可採年数は確認資源量で100年と推定されている。もしプルトニウムが利用できるようになれば、その60倍の6,000年にもなり、さらに海水からウランが抽出できるようになれば、数万年になる可能性もある。
 長期的な視点から、豊富な資源を有する原子力は、エネルギーを社会に安定に供給し続けていくことができる。資源論から原子力は光となるエネルギー源である。
 世界のエネルギー消費の85%を供給する化石燃料を見ると、可採年数は石油42年、天然ガス60年、石炭122年と推定されている。もちろん、メタンハイドレートや泥炭を加えれば可採年数はさらに大きくなる。化石燃料には、国際社会における経済や政治の状況によって価格の高騰や供給制約の恐れはあるが、当面、資源枯渇への不安は考えられない。
 再生可能エネルギーは、原子力以上に資源は豊富にある。エネルギーの希薄さや変動、コスト高など普及していく上での基本問題はあるが、福島第一事故以降は、その欠点を批判する人は少なく、むしろ課題を乗り越えて、いかに普及拡大を図るか前向きに捉えられるようになった。
 一方、エネルギーと電力の需要の伸びは、日本ではここ数年間、マイナスで推移している。需要の低下によって供給過剰な状況が続いており、供給不足への不安が無い状況にある。また、国際社会を見ると、先進国だけでなく世界全体が短期志向の政策を重視する傾向にあり、長期的な政策への理解が得られにくい。
 化石燃料と再生可能エネルギーの豊富な資源、電力需要の低迷、短期志向の政策などから、資源論から「原子力の光」を説得することが難しい状況にある。
(2) 優れたエネルギー特性
 原子力は、僅かな資源で膨大なエネルギーを発生し、安定した熱を供給する優れたエネルギー特性を有している。原子力発電の経済性は、重大事故の有無にかかっている。事故が無ければ、年間設備利用率は90%を超えることも可能で、大量の電気を長期間にわたり安定に発電でき、最も安価に電気を供給できる優れた電源となる。電気を安定かつ安価に供給する点において原子力発電は光となる電源である。
 しかし、事故が一旦、発生すれば、原子炉の運転停止によって稼動率は低下し経済性は悪化する。さらに、福島第一発電所の事故でも分かるように、重大事故によって放射性物質を外部に飛散すると、発電所の運転ができなくなるだけでなく、周辺地域における放射性物質の汚染除去、風評を含めた被害補償、さらに廃炉などの費用が膨大になる。
 重大事故が発生すれば、原子力は経済性において最も劣る電源になってしまうことを忘れてはいけない。
 原子力を社会に定着していくためには、発電設備だけでなく、濃縮や再処理など核燃料サイクル施設も確立しなければならない。その技術開発と設備構築には長期の期間と多額の資金が必要になる。しかし、現状では、核燃料サイクルの商用施設が整っている国は限られている。日本は、核燃料サイクルの確立に向け努力し、それなりの産業規模になることが期待されていたが、技術トラブルが発生しプラントの商用化が遅れている。
 日本および世界のエネルギー産業の中で原子力産業は、石油、天然ガス、石炭などの産業に比べて産業規模は小さく、経済と雇用の効果はそれ程大きくはない。日本では、経済の停滞と省エネルギー政策によって将来もエネルギー需要の低迷が予想されている。そういった中、供給側のエネルギー産業の縮小整理が進んでおり、産業規模が小さい産業ほどその影響が大きく厳しい立場に立たされている。
(3) 地球温暖化対策に貢献するエネルギー
 2016年11月に、すべての主要排出国が地球温暖化対策に取り組むことを約束する「パリ協定」が批准された。パリ協定には、全球平均気温上昇を産業革命前に比べて2℃未満に抑制する長期目標が明記されており、今世紀の後半には世界の温室効果ガス排出量を実質ゼロにすることを目指している。
 この目標に向けて、各国は削減目標と達成方法を自主的に決め、実施状況を5年毎に報告しレビューを受けることが合意された。
 原子力発電は、発電時に二酸化炭素を出さず、ライフサイクルからの電気のCO2排出量を見ても、その値は再生可能エネルギーよりも小さく、温暖化対策として最も優れた電源である。さらに、大気汚染物質となる、SOx、NOx、PMも放出しない電源である。環境面から原子力は光となる電源である。
 しかし、福島第一事故によって放射性物質が広域に放出されてしまい、原子力の環境イメージは悪くなった。汚染地域の除染や廃炉作業も未解決な部分がまだ残されており、放射能汚染への不安は地元だけでなく国民にも高い状況にある。地球温暖化問題に携わっていた専門家も、温暖化対策に原子力の必要性を主張する人の数は少なくなっている。温暖化対策の環境面から原子力の優位さが理解されにくい状況にある。
 エネルギー問題の解決は、資源、経済、環境の面から長期的な対策を取ることが重要になる。そのことを改めて認識してもらえる場を設けることで、原子力問題を考えていく必要がある。

  • データベース室
  • エネルギーとは?
  • 世界と日本のエネルギー
  • 原子力の論点
  • 放射線と健康
Facebook Twitter