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先行き不透明続く、高レベル放射性廃棄物の最終処理−マップ公表でどうなる? 石井孝明(経済・環境ジャーナリスト) 2017.8.10

 原子力発電に伴って生じる高レベル放射性廃棄物を埋設できる場所はどこか。それが一目で分かる地図「科学的特性マップ」を、経済産業省・資源エネルギー庁が7月28日に公表した。一つの区切りとなるが、世耕弘成経産大臣によれば「最終処分の実現に向けた重要な一歩だが、同時に長い道のりの最初の一歩」という状況。決定の道のりは遠そうだ。


(図)核のごみ最終処分場、科学的特性マップ

科学的特性マップとは

 日本は、最終処分法に基づき、高レベル放射性廃棄物を地下300メートルより深い地層に埋設処分する方針を決めている。将来にわたって安全に隔離できるためだ。海外でも同様の方法が採用されている。

 今回のマップでは、地層や地盤などの公的なデータを用いて、列島の各地が埋設場所としての特性を有しているかどうかを四つの色で塗り分けた。

 公表した地図はこれに加え、輸送時の安全性やテロ対策も考慮して「海岸から20キロ以内」も要件にした。その結果、国土面積の3割、約11万平方キロを「好ましい条件がそろっている」とした。可能性のある自治体は900にも及び、候補地を絞り込むのは容易ではないだろう。

 政府は今後、調査を受け入れる自治体を募るとともに、国として複数の候補地を絞り、地元に打診するとしている。関連情報は、インターネットで公開されている。

(経済産業省インターネット)

難しい合意のすりあわせ

 ところが、このマップが予想通り、反原発を主張する人の反対材料になっている。 「東京や大阪も処分地になり得る」。マップの発表の後で、センセーショナルな情報を何人もの原子力反対派が拡散していた。人の多い都市部の人々の反感と危惧を煽るつもりのようだ。実際には、受け入れ、合意のプロセスが必要なのに、それを省略している。

この反対は小さな例だが問題の難しさがうかがえる。反原発を主張する人の一部は、地層処分そのものを否定し、感情的に反発する人がいて、これまで議論がまとまらなかった。

 高レベル放射性廃棄物の処理について広報活動をしているのは原子力発電環境整備機構(NUMO)だ。その処理地点が決まった場合に、事業を行う特殊法人だ。ここは2000年の設立以来、広報活動を重ねている。NUMOが各所で開催するシンポジウムの映像を見るが、時には反原発派が押し寄せ、混乱する場合もある。「砂漠に水を撒くような無意味さ、徒労感を感じる。この延長で何かが生まれるのか」。こうしたシンポジウムを見た原子力の研究者は疑問を述べた。

 マップの公表前にNUMO理事長の近藤駿介氏(元原子力委員会委員長)に聞くと、次のように答えた。「私は無意味とは思わない。民主主義の社会において地道に合意を重ねるためにはまず対話が必要であり、シンポジウムはきっかけになる」。

 関係者の脳裏には、高知県東洋町の失敗例がこびりつく。これまでの制度では、各自治体が申し込み、文献調査、詳細な調査をNUMOが行う手順だった。文献調査段階では補助金が数億円、NUMOから対象自治体に支払われることになっていた。2007年に同町の田島裕起町長(当時)が、調査受け入れを表明したところ、全国から反対が集まった。そして町長が町議会に諮らなかったことで議会が紛糾し、地元では推進と反対の双方の主張が衝突した。

 その結果、同町長はそれを取り下げた。その後は正式に調査に名乗りを上げた自治体はない。誰かが他人の意見を聞かずに独断で誘致を進めても、住民の反対によって実現しないことは明らかだ。

政府の方針転換、されど進まず

 「国が前面に出る」。2013年12月、安倍首相は高レベル放射性廃棄物の最終処分地問題で述べ、官邸主導で関係閣僚会議を開催した。経産省もそれに応じ、資源エネルギー庁の対策部署を「室」から「放射性廃棄物対策課」に14年から格上げし、政策を進めようとした。

 そして選定プロセスも変えた。まず国が、国民的な議論を促すために火山や断層のない適切な場所かどうか、「科学的特性」を分類した日本地図を作り、公表することにした。それが今回の「科学的特性マップ」だ。

 当初は「科学的有望地」という呼称を使い、16年中に発表する予定だった。しかし、審議会で「有望という言葉は場所を指定したとの誤解を生む」などの委員の意見が出た。そして「科学的特性マップ」に言い換えられた。公表は国、地方の選挙に影響を与えかねない問題。エネ庁は発表前、全国の自治体向けに丁寧に説明会を行っている。世耕経産相はマップ公表に先立ち、全自治体に「(現段階では)いずれの自治体にも処分場等の受け入れ判断をお願いするものではない」との書簡を送付した。一連のエネ庁の慎重な行動は、問題の難しさを示しているのだろう。

 「行政は決してどこかの地域に処分地を押しつけることはしないし、そもそもできない。落ち着いた議論のために正確な情報を提供したい。高レベル放射性廃棄物は今存在するもので、今の世代が解決しなければならない。合意を積み上げるしかない」とエネ庁放射性廃棄物対策課の渡辺琢也氏(17年6月当時)は取り組みの狙いを語った。

水面下での動きも


(写真)岐阜県瑞浪市にある東濃地科学センター。地下300メートルのトンネル。こうした場所に高レベル放射性廃棄物は置かれる予定だ。

 高レベル放射性廃棄物への関心の高まりは、最終処分地の誘致の動きも生んでいる。九州では水面下で動きがある。佐賀県玄海町の岸本英雄町長は2016年4月、「処分場の検討をしてもいいが、実際にそれを受け入れることは難しいだろう」と、会見で述べた。ここには九州電力玄海原発があり、住民の原子力への反感はそれほど強くない。

 長崎県で福島原発事故前は、対馬、五島列島などの島嶼部で一部地元住民が誘致の勉強会を進めていた。今も動きがあるという。さらに鹿児島県ではある首長選で、最終処分場の誘致を前提に官僚OBの出馬を模索する動きが地元経済人と政治関係者の間にあったが見送られた。

 こうした施設があれば、国と電力会社から、地域への見返りがある。地方経済の衰退が深刻になる中で、最終処分地の誘致による地域振興を考える人は当然いるかもしれない。また批判されるものの、仕事上の利益を狙う人もいるだろう。九州の保守系政治団体幹部は「ここでは反原発を各地で主導する左派政治勢力の力が弱いことに加え、事故の起こった福島から遠く、3・11の社会混乱もなかった。原子力への反感も少ない」と話す。

 また原子力の一般国民の啓蒙活動を行う原子力国民会議は今後、この問題に自発的に取り組み、住民の合意や情報提供などの啓蒙活動を行う。この団体は一般市民や、組合などの支援を受けて活動する電力業界とつながりのない組織で、17年3月に原子力規制の正常化を求める20万人分の署名を集め注目された。

 同会議代表理事であり、東大名誉教授で原子力工学の研究者である宮健三氏は「最終処分問題が反対論の焦点になっている。この問題を解決することは私たちの世代の責任であるし、それによって原子力への不信もある程度取り除かれる」と強調した。

 こうした誘致運動は水面下にとどまり、国もNUMOも「関係ない」と明言する。そして批判を怖れてか、地元関係者の口は重く、情報はなかなかもれない。しかしこうした動きは対話の動きと重なって、具体的な誘致に結びつくかもしれない。

 処分場の選定には、広報と対話、合意の積み重ねしか手はなさそうだ。その道のりの長さと手間には戸惑いと徒労感を感じないわけではない。しかし「急がば回れ」だ。高レベル放射性廃棄物はすでに存在する。これはどの立場の人にとっても、解決しなければならない問題なのである。

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