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安全解析について 渡辺正(福井大学附属国際原子力工学研究所 教授) 2017.09.01

 各地で原子力発電所の再稼働が進みつつあり、安全評価や審査が気になるところです。そこで、安全評価のもととなる安全解析について考えてみたいと思います。
 原子炉の安全解析は、安全評価と同じように使われることもありますが、解析に重点が置かれています。安全の解析とか安全を解析するということになって、あまりぴんときませんが、安全のために事故や異常な事態を解析することと考えてみるとわかりやすいかと思います。
 つまり、事故が起こった際に原子炉はどうなるか、事故に至らなくとも、何か異常な変化が起こったらプラントはどうふるまうか、ということを解析することです。この解析をもとに安全性を検討する段階が安全評価となります。
 原子力プラントのふるまいを解析するとはどういうことでしょうか。プラントというと、工場のような巨大な機械構造のシステム全体というイメージが浮かびますが、ここでは核燃料が並ぶ炉心と呼ばれる部分と、冷却水と蒸気の循環系統あたりが主なものと考えてよいと思います。
 もちろん、各所に取り付けられている安全装置なども含まれます。原子炉には加圧水型と沸騰水型の二つがありますが、燃料棒で発生した熱を冷却水が運び、蒸気を作ってタービンへ送り発電機を回すという仕組みは同じです。ですから、この燃料、冷却水、蒸気の系統が、異常事態の際にどう応答するのかを解析することになります。
 ここで、安全という言葉に戻って考えてみます。原子炉ばかりでなく、原子力関連の技術や施設にとって、安全とは、ともかく放射線の被害を人に及ぼさないことです。通常の運転中はもちろんですが、異常事態であっても、ということです。通常運転と異常事態では、なにが違うのでしょう。
 原子炉では、核分裂から電気までのエネルギーの変換と移動が起こりますが、異常事態ではこのバランスがどこかで崩れます。例えば、冷却水や蒸気が漏れることで燃料を冷やすという機能が乱れること、などに対応します。
 つまり、エネルギー移動を調べれば異常かどうか、異常の程度はどのくらいかを確認できることになります。というわけで、安全解析では、エネルギー移動を担う冷却水と蒸気の流れがどうなっているか、つまりプラントの熱流動を調べることになります。
 プラントの熱流動は、どうやって調べることができるでしょう。これは原子炉の熱と流れ、核分裂などを表す方程式を、コンピュータによって解くことで行います。このためのコンピュータプログラムは解析コードと呼ばれ、燃料棒や圧力容器などの構造材での伝熱、弁やポンプ、安全装置の動きまでを考慮して作られています。
 かなり複雑になりますので、コードを作るにはそれなりの人員や予算が必要になり、信頼性が高く様々な事態に対応できるコードは、世界中にも数えるほどしかありません。残念ながら日本製はまだなく、アメリカ製のものが主流となっています。
 解析コードを使ってコンピュータシミュレーションを行い、プラントの熱流動を解析することが安全解析ということになります。
 それでは、事故の際のプラントのふるまいが安全解析で計算できたとして、その結果は正しいのでしょうか。安全評価や審査は安全解析に基づいて行いますので、解析コードが信頼できるかどうかは重要なポイントです。
 通常、数値解析やシミュレーションは、対応する実験や理論解を使って正しいかどうかの検証をします。ところが、原子炉を使って実験することは困難ですし、事故や異常時の計測データもそれほど豊富にはありません。
 模擬装置を作るとしても、原子炉の複雑かつ厳しい条件での実験は容易ではありません。そこで、世界各国の研究機関で行われている、数少ない原子炉の熱流動実験を国際標準問題として提示し、各国でコードを使って解析するという試みが行われています。
 各国独自のコードを使ってもよし、外国製でもよし、ともかく解析結果を持ち寄って比較検討し、コードや解析のやり方を良くしていきましょうというものです。
 国際標準問題として、日本の大型装置で行われた冷却材喪失実験が採用されたことがあります。通常運転の状態から冷却水が漏れ、しかも安全装置が働かなかったらどうなるかというもので、十数か国の機関が参加しました。
 いくつかの解析コードが使われ結果も様々でしたが、利用者が多かったコードについて各国の結果を重ね描きしてみると、グラフが真っ黒になってしまうほどばらつきが多いことがわかりました。
 コードは同じでも使う人が変われば人の数だけ違う結果が出る、ということが確認されたのでした。このことから、解析コードの良し悪しもさることながら、解析する人への依存性、つまりユーザー効果ということが強く認識されました。
 特に、コードに用意されている機能を正しく使用できていないケースが問題とされ、コードを使いその結果を判定するためには、まず解析者の能力を向上させる必要があるということが指摘されました。
 ユーザー効果への具体策として、専門技術者の養成やコードの手引きが重要であるということになり、その後、安全解析やコード開発の際に忘れてはならない点として引き継がれてきたと思います。
 解析技術者ばかりでなく評価や審査に関わる者も、コードの機能や解析できる範囲を理解していなければなりません。安全解析のあらましを眺めてみましたが、原子力分野で技術者不足が懸念される昨今、ここでも人が主役ということを忘れずに、日本製コードの開発が進むことを願っています。

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