日本エネルギー会議

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「始まったエネルギー基本計画の見直し」 一般財団法人 日本エネルギー経済研究所 理事長 豊田正和 2017.9.4

 8月9日に、経済産業大臣の諮問機関である総合エネルギー調査会基本政策分科会が、ほぼ2年ぶりに開催され、3年毎に行うとされるエネルギー基本計画の見直し作業が始まった。これと並行して、8月30日より、より長期の視点からエネルギー政策課題を検討するため、世耕経済産業大臣が座長を務めるエネルギー情勢懇談会の議論も始まった。
 前者は2030年を念頭に議論し、後者は2050年を念頭に議論されるとされるが、当然のことながら相互補完的なものとなろう。
 2030年に向けた基本計画見直しの議論では、2年前に策定された現行エネルギー・ミックスの有効性が重要な論点であり、過去数年に生じた様々な変化がエネルギー政策に新たな視点をもたらすのかも同様であろう。
 前者については、エネルギー・ミックス実現途上であり、総論としては、骨格を大きく見直す必要はないという声が、第一回会合では大半であり、筆者もそうした発言を行った。
 しかし、各論では、様々な課題がある。省エネルギー(2030年時点で、最終エネルギーベースで2013年比約10%減を目標)は、2011年の原子力発電所の事故を踏まえて急速に進んだが、最近では、進展スピードが落ちてきているし、電力消費は少しずつ増加を始めている。省エネ努力も息切れ気味であり、更なる政策強化、努力なしには、目標実現は容易ではない。
 再生エネルギー(2030年における電源構成で22~24%を目標)については、2012年に開始された固定価格買取制度(FIT)が功を奏し、認定設備容量は急速に増加しているが、ドイツと比べて、太陽光発電のコストが2倍近いとされるなど、高コスト体質の是正が課題であろう。
 原子力(2030年における電源構成で20~22%が目標)については、目標達成のためには、30基強の原子炉が80%程度の稼働率で稼働している必要があるが、現在稼働中は、5基に過ぎない。
 筆者は、2019年春には10基くらいまでは再稼働が可能ではないかと考えているが、今後は、福島で事故を起こした炉型(BWR:沸騰水型)と同じものの審査が増えていくので、審査スピードが落ちるのではないかと懸念する向きが多い。
 国民の信頼回復を図るため、福島の復興を急ぐと共に、原子力規制委員会による規制の効率化を行い審査のスピードアップが必要となろう。
 1979年にスリー・マイル・アイランドの原発事故を起こした米国も、当初は規制強化に力点が置かれたが、徐々に規制効率化への動きが加速化し、稼働率も、6割前後から9割を超える水準へと改善した。ちなみに、国際原子力機関(IAEA)は、日本の原子力規制委員会に対し、検査制度の効率化、簡素化を図るよう勧告している。
 原子力については、もう一つ大きな論点がある。新増設の是非だ。今のところ、日本政府は、原子力の新増設を認めていない。2030年の原子力発電構成目標の実現のためには、原則40年とされる使用期間が、追加的審査を経て60年まで延長されれば、実現可能だ。しかし、2040年を念頭に置けば、60年の期限を迎えるものが、少なくない。
 建設のリードタイムが10年超だとすれば、2030年を待たずに、新増設を始めないと電源構成比を維持できない。更に、原子炉建設の長期停止は、建設に係る技術、経験を有する熟練技術者、建設事業者を失わせるものであり、それが、米国や欧州の多くの国での建設期間の思わぬ長期化、高コスト化をもたらした。
 日本でも、事故後6年間、建設活動がストップしており、人材確保が困難化している。新増設の議論を避けるわけにはいかないだろう。
 過去3年間の変化への対応についても考えてみたい。第一に、石油及び液化天然ガス(LNG)価格の50%近い大幅低下があげられる。
 しかし、これは、北米のシェール革命の結果、石油や天然ガスが一時的に供給過剰になったためであり、石油については、そろそろ需給のバランス化が生じつつある。現在50ドル/バーレル前後の石油価格は、2020年頃には75ドル/バーレル程度に上昇し、2030年には100ドル/バーレルを超える恐れがある。
 第二に、中東の主要国間の対立の深刻化がある。石油価格が低下し、財政が悪化する中で、国民の不満は増大している。日本は、経済面で中東諸国の成長を支援することに加え、外交面で、サウジアラビアとイラン、或いはサウジアラビア等とカタールの対立などを緩和すべく努める必要がある。
 原発事故以降、中東依存度は上昇しており、日本は、中東の混乱により最も深刻な影響を受ける国だからだ。
 第三に、気候変動に係るパリ合意の成立だ。途上国を含む190カ国を超える国々が、削減目標を提出したことは画期的だ。米国のトランプ大統領は、離脱を宣言したが、州レベルでは、着実な温暖化ガス削減努力が進められており、気候変動対策強化の流れは止まることはない。
 日本としても、2050年も見据えつつ、新たなゼロカーボン・エネルギーの開発など技術開発努力を強化する必要がある。こうした長期の視点からの議論は、上記懇談会に期待したい。良い論点が明らかになれば、基本計画見直しの議論に「宿題」として手渡されることが望まれている。

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