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緊急寄稿  小池都知事に問う 「原発ゼロ」の幻想  森谷正規(技術・産業評論家) 2017.9.29

 希望の党が目指すという原子力発電所ゼロ政策は、希望どころか幻想だ。同党の代表に就いた小池百合子都知事は政権奪取を狙って国民の多くが支持するという脱原発方針を打ち出したが、これはズルイ戦略と言うべきだ。
 原発ゼロを実現するためには、代替エネルギーとしての再生可能エネルギーを非常に大きく増やさないといけないが、それは日本にとって全く不可能なことだ。
 まず、現実を見る。日本は太陽光発電を中心に再エネを伸ばしてきた。2012年の固定価格買取制度(FIT)で、にわかに太陽光発電の異常なブームが生まれてFIT申請が激増した。それは土地さえあれば楽に儲かるビジネスとみられて参入が急増したからだ。
 ところが、コストが最も高い太陽光発電ばかりが大きく伸びるのは好ましくないと経済産業省はFITへ種々の制限を加えた。それによって儲かるはずが儲からないとなって申請は2014年には激減した。申請と設置はタイムラグがあって、新設は2015年まで増えていたが2016年にはかなりの減少に転じた。今後も減っていくと予想される。
 その他の風力発電とバイオマス発電はほとんど伸びない状況が続き、FITによっても動かない。FITでは太陽光発電が9割を占めていて、再エネをバランス良く伸ばすという目的のFITは破綻状況だ。
 2016年には、再エネの新設分の原発代替はわずかに1.6基分ほどであり、53基あった原発に代替するには20年間も要し、事実上不可能というべきだ。
 再エネの本質を見て現実を知らねばならない。
 再エネは非常に薄いエネルギーであり、広大な土地でかき集めないといけない。世界で再エネの主力は風力発電であり5割を占めていて、太陽光発電は1割だ。風力発電は、中国がトップで米国、欧州が続き、インドが最近大きく伸ばしていて、これらの国で9割を占めている。中国、米国、インドには荒涼とした土地が無限に広がり、また欧州は広大な丘陵地がどこにでもある。再エネにも資源国と無資源国があって、資源国だけが大きく伸ばしているわけだ。
 国土が狭く、山ばかりで、人口が多くて平地はほとんど利用されている日本は資源貧国と見なければならない。誰も指摘しないが紛れもない現実だ。
 資源貧国・日本で再エネを大きく伸ばすとさまざまな無理が生じる。その大きな問題は、美しい農村を壊すことだ。太陽光発電も風力発電も今は都市周辺が多いが、非常に大きく伸ばすためには、国土の大部分を占める農村が中心にならざるを得ない。原発の全てに代替するほどに増やすとなると、農村の至るところに太陽光発電の黒い巨大なパネル、風力発電の白い巨大な翼と塔が立ち並ぶことになる。
 日本の美しい農村を壊すことになるのを小池都知事は認識しているのだろうか。
再エネに問題が多いことは、次第に明らかになってきた。全国各地で抗議が生じて裁判にもなっている。最も多いのが景観破壊であり、風力発電の低重音による健康への悪影響、太陽光発電パネルから発する熱と光の悪影響、風力、太陽光の設置工事がもたらす土砂崩れの恐れなどだ。
 再エネは実は現地にとっては迷惑ものなのだ。都会に住む人々は、これから再エネに頼って生活できると安易に考えていないか。農村には再エネを設置することによる税収や雇用の増大などのメリットはほとんどなく、どんどん増やしていけば「迷惑ものはゴメンだ」という反対運動が各地で生じるのは必至だ。
 さらに太陽光発電、風力発電の根本的な問題は、発電が不安定であるということ。電力は安定供給が絶対だ。そこで日本の大問題は梅雨の時期があるということ。太陽光発電ばかりでなく、風は吹かず風力発電も働かない。しかも日本列島の大部分が同じ状況になり、4日も5日も続くことがありえる。その間の電力供給をいったいどうするのか。
 ここで脱原発が可能と思っている人々に、遠い将来のことを考えているのか問いたい。日本では再エネによる脱原発というが、本来は、地球温暖化を防ぐために脱化石燃料を進めるべきなのだ。それを忘れていないか。これから火力発電も大きく減らさないといけないのであり、温室効果ガス削減のために求められていく。
 火力発電を大幅に減らして再エネが電力の中心となって、安定供給ができるか、それは不可能だ。蓄電池に貯めておかないといけないのだが、電気を貯めるのは技術的に非常に困難で、蓄電池技術は一向に進まず、高価な蓄電池がわずかな電力しか貯められないという状況はなかなか進展しない。梅雨どきの安定供給を確保するには、試算をすると100兆円といった莫大なお金が必要になり、ありえない。
 再エネを増やすと電気料金が大きく増えることへの覚悟がどれほどできているか。今は一般家庭で年間平均8100円のアップだが、これからどんどん増えていって、さらに蓄電コストが加速度的に増えるので、数倍以上になって家計は悲鳴を上げることになる。
 原発ゼロを言う人は、世界を全く見ていないに違いない。世界は、脱化石燃料を進めるためには原発と再エネの双方が必要であると認識している。中でも中国は原発建設をたいへんな勢いで進めている。
 福島原発事故の後、原発は悪玉にされ、再エネが善玉とされて伸ばされているが、それは時流に過ぎない。化石燃料使用をゼロにする将来は、限界がある再エネではなくて原発に頼るしかないと自ずから分かってきて、やがて原発を主力にするように流れは変わるであろう。
 日本は福島事故後、放射能は怖い、原発は怖いと脱原発を指向した。だがそれに拘ると、世界最大の問題である地球温暖化に大きく遅れることになる。日本はCOP3(京都会議)では化石燃料を効率的に利用、省エネルギーが進んでいて、米国や欧州に対して優等生であった。
 ところが原発を稼働停止して、火力発電を増やして電力の8割以上が火力になっている。
このような先進国は他になく、日本は今ではCOPの劣等生だ。英国、フランス、カナダは石炭火力をゼロにする計画を進めているが、日本は世界の動きに逆行している。
 原発再稼働は遅々として進まず、再エネは伸び悩んで、COP21パリ会議に提出した温室効果ガス削減目標の達成が覚束無くなり、日本はCOPの落第生に転落することになる。
 COPで、米国に代わって温室効果ガス削減の主導権を握ろうとしている中国に、日本は槍玉に挙げられて厳しく批判されるに違いない。原発導入を国をあげて推進している中国は温室効果ガス削減に有利であり、COPで大きな顔ができる。日本は中国に言い返すことができるか。地球最大の課題である温室効果ガス削減の落第生である日本に、まともな外交が出来るだろうか。
 政権奪取の争いは国内問題が中心になり、世界の中の日本を忘れてしまうことになる。原発ゼロは日本のことしか考えずにひたすら国民のムードに迎合しようとする無思慮でズルイ政策と言わねばならない。
 「改革する保守」であるならば、世界では原発が主力になる将来を見通して、日本が遅れないように原子力技術を高め、原発を活用するエネルギー政策を掲げないといけないはずだ。

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