日本エネルギー会議

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ポスト平成時代に向けて―原発の再出発に期待-  田下正宣(エネルギーシンクタンク株式会社 代表) 2017.11.8

 最近の選挙では当初脱原発が話題になったが、ほとんど議論されず与党の圧勝に終わった。
 本来エネルギー政策は国家の重要事項であり、真の政策論争が行われることが望ましい。
 ここでは、電力の自由化と原発の海外の例を踏まえ今後の長期的原発体制を考察した。

1. 海外の電力自由化と原子力
① 英国
 サッチャー政権下(1979年~1990年)での自由化に伴いCEGB(英国中央電力庁)、UKAEA(英国原子力公社)体制の解体により原子力発電事業は壊滅的な状況になった。2010年頃から北海油田のピークを越え、今後の電源確保を新設原発30基により目指した。
 しかし、低炭素電源からの固定価格買取制度(FIT-CFD)を導入しても長期間投資を必要とする原発を建設する電力会社は国内になく、フランス等外国資本依存する以外ない。
 更に原発建設自体も海外依存の状況である。外国勢は仏・中国組(EPR(欧州加圧水型炉)と華龍1号型(仏国技術を取り入れて自国開発した原子炉))、日立(ABWR(改良型沸騰水型軽水炉))、東芝傘下ウエスチングハウス社(AP1000(2ループ構成の加圧水型原子炉))等である。中国はフランス・中国組の投資資本の1/3を担い、中国製原子炉を建設予定である。

② フランス
 フランスはEUの枠組みに従いEDF(旧フランス電力公社、現フランス電力会社)を株式会社に変えたが国が85%程度の株を保有し実体的には自由化の影響を受けていない。
 フランスは世界第二位の原発大国である。20年ぶりにEPR(160万kW級)を国内で建設中であるが、建設工事の遅延、原子炉容器に不具合の懸念が出たりして
 工程の遅延を招いた。またフィンランドへ輸出したEPRはコンクリート打設工事の不具合が見つかり、やり直しになりメーカーであるアレバ社はEDFの救済によりかろうじて活動を守っている。

③ 米国
 レーガン政権下での電力自由化により、原発の持つ長期資本回収リスクから不良債権化が問題になり、電力会社が原発事業から撤退する会社が多くでた。この動きにより原発の中古市場が生れ20基以上の原発が売買され、集約化が進んだ。
 TMI(スリーマイル島原子力発電所)事故後規制強化により50%程度の低稼働率にあえいだが、民間事業者と規制委員会(NRC)の努力によりリスク概念を取り入れた大幅な規制変更をし、この20年は稼働率90%程度に改善し儲かる事業に変わった。即ち運転・維持に関する技術的進歩は著しい。
 これにより新規原発の建設も開始されたが、30年以上建設がなく、つい最近の東芝・WH(ウエスチングハウス社)の米国内建設中のAP1000の建設の不具合が典型的な例で、製造、建設経験及び管理経験の不足が顕在化した。
    
2. 福島事故後の日本
① 規制強化と合理的判断
 国会事故調の報告書は「人災」と結論し、端的に「規制の虜」と評した。新規制委員会は独立性を謳われことと併せ、必要以上にかたくなな態度に終始した。「規制の罠」の言葉の囚われの身となり、事業者との話し合い、有識者の意見を聞くなどの必要な活動の扉を閉じてしまったように見受けられる。
 新委員長は就任時「事業者含めて対話を進める」と抱負を述べたと伝えられており期待したい。規制委員会は単に法律違反を取り締まる機関ではない。事業者が自律的な安全性向上に取り組むことを促すような合理的規制を行うことが使命である。
 また来年度から抜き打ち検査の要員育成に米国NRCに職員を派遣し教育・訓練する予定である。これにより規制当局が現場の実情を踏まえた合理的な判断を下す能力を高め対話が効果的に進むことを期待する。

② 電力自由化
 昨年4月から我が国でも始まった電力自由化は、海外事例でも安くなった例は無く、本当に正しいのかという疑問は残る。小口電力の太陽光発電、風力発電、バイオマス発電、地熱発電などは小型で必要資金も小さく、地産地消型などの特色を生かす方法もある。
 一方で、大型の発電所による基幹電力事業(ベース電源を担う)は投資が数千億円規模になり、資金回収には長い期間が必要で、安定的な燃料確保も重要である。このため、経営の安定と社会的信用が不可欠となる。これら双方の特性を活かした制度が求められる。

3. これからの原子力発電体制
① 原発の役割
 第1次オイルショック時(1973年次、第1次エネルギー自給率9.2%)よりも低いエネルギー需給率7.0%(2015年次)。第1次オイルショック時の化石燃料は石油が大半であった。現在は石油、石炭、LNG(液化天然ガス)と多様化されたが、自給率が低く国の体質がぜい弱であることは同じである。
 福島の大事故を反省し、関係者には着実に安全性を高める覚悟と努力が求められている。しかし資源の乏しい我が国では、原子力発電は今後とも基幹電源として必要である。
 電力自由化に伴う制度設計を間違えると、英国のように中国の原発を中国の資金で建設というような屈辱的な状況に陥る。

② 原発の特徴
 英国の例に見るよう短期投資回収を目指す株主資本主義とは合わない。ベース電力事業は公益事業の位置づけとして長期的投資が可能な国策会社的経営に移行すべきではないか。
 なお、戦後の九電力体制の生みの親である松永安左エ門氏は、原子力発電の重要性は強く認識していたが、民間事業による原子力発電は、万が一のリスクが大き過ぎる点から反対だったと言われている。
 この危惧は、後に福島第一原発の事故で顕在化した。
 米国と同様に「原子力損害の賠償に関する法律」は事業者有限責任制度に変えるべきと考える。

③ 望ましい体制
 現在の11社約40基体制を原子力発電卸会社体制に改組・集約する。集約に依り多少の人的なゆとりが出来、現場管理を下請けに任せる「監理」を自社社員が行う「管理」に戻すと共に、各プラントの個別事項の共通認識と改善策、共通事項の高度化、自主的な安全性向上、信頼性向上策を検討と具体化が図れる。
 加えて資金的ゆとりと担保するためには株の20~30%は国が保有する国策会社にして、安全性・信頼性向上に必要な先行投資が可能な経営体制にする必要がある。
 現在の電力各社の経営陣が四半期ごとの収支に苦労しているのは理解するが、この経営体制では新設原発計画など長期に亘る原発事業の展望は見えてこない。
 6月に就任した川村隆東京電力ホールディングス会長は国策会社化する案はあり得るとの発言もあり、電力業界、政府及び関係者の尽力と英断を期待したい。

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