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“行動する 市民 ”の育成に挑む その 2 -食事から考えるCO²排出量- 日景弥生(弘前大学教授) 2017.11.30

 講義への導入は“勝負”の時です。学生達の意欲を喚起させ、講義にうまく引き込むために、興味・関心のありそうな質問をすることがあります。例えば、「ここに2つのほうれん草があります。1つは国産で198円、もう1つは中国産で128円です。あなたはどちらを買いますか。」と質問 します。そうするとほぼ全員が中国産を購入すると回答します。意思決定を促すために、理由も必ず回答させますが、「安いから」がほぼ全員の答えです。
 そこで、春夏秋冬の時期に東京、弘前、鹿児島で同じ食事をしたら、どの程度CO²を 排出するのかLCA(Life Cycle Assessment:ライフサクル全体、つまり生産から廃棄までの環境へ負荷を定量的に評価する手法)の考え方を用いて調べた結果を提示しながら講義を行っています 。
 まずは、献立をどうするかですが、ある学会誌に家庭でよく食卓にのぼるなどを考慮し選定したモデルメニュー¹⁾が掲載されていたので、それを参考にすることしました。
 メニューは、朝食がトースト・目玉焼き ・サラダ・ヨーグルト・コーヒー、昼食 がラーメン・スープ・果物・茶、おやつがブラマンジュ、夕食がご飯・ ハンバーグ・ポテトサラ ダ・コーンポタジュ・デザートですが、果物は季節により変更しています。LCAの手法で評価しましたが、食品が家庭に入った後の調理から廃棄の過程のCO²排出量は調理時に使用する熱源(IHやガスの使用など)による違いはあり ますが、地域による違いはそれほど大きくありません。むしろ食品が家庭に入るまで、つまり生産地から消費地までの距離や輸送手段の方が大きく影響するため、ここに視点をあてた講義をしています。

 地域や季節による違いが大きいのは、食品の中でも青果類です。そこで、調査対象を青果類に絞ることしまた。青果類の生産地を各地域の中央卸売市場ホームページや問い合わせにより調査しました(表1)。
 表1より、東京では東京が生産地の青果類はありませんが、四季を通して近隣の茨城、埼玉などの生産地が多いことがわかります。鹿児島は、鹿児島を中心 とする九州各地の生産物が多く、1月は暖かく野菜類が生産されていますが、 7月は野菜によっては暑さで生産できないことから他県から 輸送していることがわか ります 。青森は、7月と10月は青森県産が多く見られますが、4月と1月は寒冷のために野菜等の生産ができず、東北地方以外の生産地から輸送されていることがわかります。
 次にこの表1を基に、生産地から消費地までのトラックを用いて輸送したことにより排出されるCO²を試算しました(表2)。

 表2より、東京は四季を通してCO²排出量は一定していますが、鹿児島は最小の4月と最大の7月では約1.6倍、青森も最小と最大では約2.4倍の開きがあることがわかります。総計は青森>東京>鹿児島となり、鹿児島が青森より約500g-CO²多くなりました。もう一度表1をみると、鹿児島は同県を中心とする九州各地の生産物が多いのですが、にんじんやごぼうなどを北海道や青森から輸送していることが高い排出量となった原因です。
 実際には毎日同じ献立を食べる人は少なく、また旬の時期の野菜等は安価なこともあり結果的に“地産地消”の献立になるため、CO²排出量も減少すると推察されますから、あくまでの試算であることを再確認して頂きたいと思います。
 冒頭に示した「安いから」中国産のほうれん草を買うと答えた学生たちに、このデータをみせながら説明をすると「今は金銭的に厳しいので安いほうを買いますが、輸送距離などによりCO²排出量が大きく違うことが分かったので、社会人になったら国産を買うようにしたいと思います。」と意識の変容がみられます。
 このようにエビデンスを踏まえた講義は、学生の生活環や価値観に働きかけ、近い将来「行動する市民」(筆者の造語。意識が改革され、かつ生活行動が伴う人)になることが期待できると思います。

注)データは、2008~2009年度日本原子力発電株式会社及び東京大学との共同研究「生活上の行動選択の基準となるエネルギー・環境ライフサイクルアセスメント」報告書の筆者担当部分から一部抜粋した。
参考文献
1)津田淑江、堂園寛子、大家千恵子、モデルメニューを用いた日本人の食事によるライフサイクルCO²排出量、日本調理科学会誌、45,5,289-296,2008

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