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最新石炭技術で福島が世界を牽引- IGCC・石炭ガス化複合発電  石井孝明(経済・環境ジャーナリスト)2017.12.5


(写真1)常磐共同火力10号機のIGCC

 重要な電源として注目される石炭火力。それに伴う大気汚染の課題を解決する新技術のIGCC(石炭ガス化複合発電)が注目されている。「福島復興電源」として新たなプラントが同県内に2つ建設中だ。現地を訪れ、将来性を考えた。

■IGCCとは何か-有害物質を出す石炭火力の問題を克服

 「新たなエネルギーの創出による復興の加速化」。東日本大震災と東京電力の福島第一原発事故からの復興の中で、政府と民間から「福島イノベーション・コースト構想」と呼ばれる、最新技術を取り入れた社会変革の取り組みが次々に打ち出された。IGCC(Integrated coal Gasification Combined Cycle)は、その中での重要な柱の一つだ。

 勿来IGCCパワー(福島県いわき市)と、広野IGCCパワー(同広野町)の2社がそれぞれ、出力54万3000キロワット(kW)のプラントを建設している。両社には技術を持つ三菱重工、そして三菱商事パワー、三菱電機が90%を出資。東電、さらに常磐共同火力(いわき市)もかかわる。

 IGCCにはいくつものメリットがある。従来型の石炭火力は、石炭を燃やす熱の蒸気を利用して発電機を回す。IGCCは、石炭を高温高圧のガス化炉で可燃性ガスに転換、それを燃やしてガスタービンを回し、また排熱を蒸気にして蒸気タービンを回し、2つの動力で発電機を動かす複合発電だ。

 IGCCである常磐共同火力10号機をみると構造は複雑だった。ガス化炉、ガスの精製施設、ガスタービン、蒸気の発生とタービン設備、発電設備に分かれていた。熱を利用するために設備間の距離は短く、配管の量が大変多かった。(写真2)

 ガス化炉は燃焼効率を上げるために構造を工夫した。二室二段にして下部を燃焼室、上部をガス化室に分けていた。炉内はバーナーからの噴流で旋回し、微粉炭と空気が反応しながら上昇しガス化する。石炭ガスの主成分は水素と一酸化炭素(CO)で、そのCOを使ってガスタービンを燃焼させる。ガス化の際に、他国のIGCCは酸素を使うが、常磐共同火力のIGCCは空気吹きと呼ばれる独自技術を採用した。酸素を製造する空気分離装置が小さくなり、所内で消費する動力が圧倒的に少なくてすむという。

 常磐共同火力の敷地は住宅地に隣接しているために、外部に影響がないようにしていた。IGCCである10号機は停止中で他プラントは稼動していたが、敷地内の音は限定的で匂い、有害物質による息苦しさなどはまったくなかった。日本の石炭火力の技術力の高さが印象に残り、IGCCはその延長にあると理解できた。

 IGCCはガスタービンと蒸気タービンの二重で複合発電するために、従来型の石炭火力発電に比べて、送電端効率(投入熱量から電気に変換されるエネルギーの割合)が高い。現状の石炭火力では40%前後だが、10号機は約42%となり、現在建設中のIGCC%、約48%となり、将来的にはさらなる効率向上も可能という。(図1)


(図1)石炭火力の効率化の歴史
(東大・金子研究室)

 運転状況によるが、石炭火力は温室効果ガスの排出量が、各電源の中でもっとも高い。しかしIGCC発電に際して出る温室効果ガスの二酸化炭素(CO2)は石油と同程度だ。石炭の燃焼によって発生する硫黄酸化物、窒素酸化物、煤塵などの有害物質の排出量が、従来型より大きく減る。(図2)


(図2)各電源別の二酸化炭素排出量
(経産省資料)

 石炭火力では大量の石炭灰が発生してしまうが、IGCCではガラス状のスラグと呼ばれる固形物が廃棄物に出るのみだ。このスラグはセメントや道路の舗装材としてリサイクル可能だ。さらに従来型ボイラでは品位の高い石炭(灰融点の高い炭)が向いていたが、IGCCでは低品質の石炭(灰融点の低い炭)も利用可能という。


(写真2)粉砕したスラグ。道路建設の資材などに転用可能

 石炭は世界で可採埋蔵量が多く、それを使った発電は経済性の点で他電源に比べ安く優れている。しかし単位発熱量あたりのCO2の排出量が多く、気候変動に悪影響を与え、有害物質を排出するので大気汚染の一因となる。そのために石炭火力を抑制する動きが世界に広がっている。IGCCの技術はそうした短所をある程度は克服できる。もともと日本の重電、電力の石炭技術は世界に比べて、低公害、効率の良さが優れていたが、IGCCはさらに優位性を持つものだ。

■福島から世界へ-ビジネス拡大、輸出の可能性

 IGCCは、電力中央研究所が1980年代に行った実験から始まり、三菱重工(現・三菱日立パワーシステムズ)が開発の中心を担った。東京電力をはじめとする電力会社によって設立された「クリーンコールパワー研究所」が、2007年に常磐共同火力の敷地内に実証設備を設置し、改善を重ねた。その設備を改造し商用化して常磐共同火力の10号機(出力25万kW)として2013年6月から運営している。

 10号機は、IGCCとして世界最長となる3917時間の連続運転記録を同年12月に達成した。IGCCは欧米、中国が製造を試みており、中国の技術力の成長は著しいが、この10号機が運転成績で世界のトップを走っている。10号機の成功でIGCCの普及、ビジネスの拡大の期待が高まっている。

 普及のための課題は建設費の高さだ。福島で建設中のIGCC は1基当たり約1500億円かかる見込みだ。従来型の石炭火力と比べると、国内の建設では数割高い。ポーランド、タイ、チリなどの新興経済国や日本の電力会社がIGCCの導入を検討しているが、価格と技術の両面で、今は様子見をしているという。新設プラント2つが成功すれば、IGCCの普及も加速するだろう。(写真3)


(写真3)常磐共同火力に隣接して建設中の勿来IGCCパワーの発電所。進捗率は5%ほど

 また石炭火力はメリットと同時に、デメリットも現場の発電所でみることができた。常磐共同火力の貯炭場も見学できた。写真の1山は5000トン程度で15メートル近い高さだが、同所のIGCC 1基、従来型石炭火力3基の4つの設備容量170万kWの石炭火力がフル稼動すると、1日で2山を使い切ってしまう。原子力では140万kW級の最新型で使われる燃料は、おそらく男性用ビジネスケース1つ分程度だろう。石炭は他電源に比べ、効率の悪い面もある。それだけに頼ってはならず、電源は分散して建設していくべきだろう。


(写真4)貯炭場の石炭の山

 常磐共同火力の石炭ガス化発電事業本部の石橋喜孝氏は、東京電力の火力部門出身で、IGCCの開発、運用の中心になってきた。開発に際しては、1955年設立に設立され常磐炭鉱の石炭を使ってきた常磐共同火力のノウハウ、三菱重工と東電の技術力を活かし、現場の試行錯誤の繰り返しがあったという。「福島から世界を牽引できる技術が広がれば、技術者として、たいへんうれしい」と、将来を期待していた。

 原子力事故の悲劇の後で、エネルギーをめぐる新しい動きが福島から出たのは喜ばしいし、応援したい。新しいプラントは内外に福島の再生、そして日本の石炭火力技術の高さを世界に印象づけるものになるだろう。その成功を、ぜひ応援したい。

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