日本エネルギー会議

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自然エネルギーは理想的なエネルギー源か 此村守(福井大学附属国際原子力工学研究所 客員教授)2018.1.4

 エネルギー源として石油を使うということは、人間が「地球側炭素サイクル」から「生物側炭素サイクル」へ貫通する穴を開けたと同じだというお話をしました。また、肥料という形の窒素はエネルギーという形の炭素と密接に結びついてしまったというお話をしました。

 さて、どうしても穴を開けなければならないのなら、できるだけ小さくしたいですし、さらにそれが窒素と炭素の結びつきを切り離せればなおのこと良いですね。これを実現できる方法が、元素の移動を伴わないエネルギー生産方法です。つまり、水力、太陽光、風力などの自然エネルギー、そして原子力ということになります。

 まず、原子力ですが、大量のエネルギーを効率よく生産できることに反論される方はいないでしょう。しかし、ひとたび、放射性物質を大量に放出するような事故を起こすと、たとえ直接死者が出なくとも、その影響は広範囲にしかも長期間に渡り、社会に対して与える影響は甚大です。

 では自然エネルギーはどうか。もともと自然界に広く分散している水、太陽光、風などを使ってエネルギーを取り出す仕組みなので、その効率はとても悪いことが想像できます。しかし私たち人間の周りにあり、普段から慣れ親しんでいる自然を利用するわけですから、地球に影響を与えないという意味で理想的なエネルギー源のような気がします。本当でしょうか?

 例として太陽光を考えてみましょう。100万kWの大型原子力発電所1基分のエネルギーを太陽光で取り出すためには、東京の山手線の外側(約91km2)まで太陽光パネルを並べる必要があるそうです。日本にある原子力発電所42基を全て太陽光パネルに置き換えると何が起こるか。広い土地(3800km2)が必要です。ちなみにこれは埼玉県の総面積に、また日本国土の1%にほぼ相当します。
 しかし、もっと大事なことがあります。この42基相当分の土地は、もともと太陽エネルギーを地上が受け取る面であったということです。これは、地上が受け取るべき太陽エネルギーを、横からかすめ取って、人間用のエネルギーにするということです。国土の1%分の太陽エネルギーに細工をすることが、気象に影響を与えないと言えるでしょうか。

 もう一例、水、すなわち川を考えてみましょう。川の上流にダムを作り、その落差を使って発電する水力発電です。自然に優しいでしょうか?小学校の社会の時間に、「川の一生」という授業がありました。山に降った雨水が集まり急な流れとなる上流では、山肌を削り取り、土砂を流出させる。その土砂は下流の流れが緩やかになったところで堆積し、河岸平野ができる。さらに海まで流れ込むと砂浜になる。海に流れ込んだ川の水は、やがて海で蒸発して雲となり、また陸地にやってきて山に降る雨となる。
 このように川の水は循環しているというお話です。さて、ダムを作ると、上流から流れるはずの土砂をダムはストップさせます。その結果、下流で堆積するはずであった土砂がなくなり、砂浜は痩せていきます。海岸の砂浜が消えるということです。つまり、水力発電も自然のどこかに影響を与えてしまっているということになります。話は逸れますが、黒四ダムとして有名な黒部川流域での総発電量は90万kWで、これは100万kW級原子力発電所1基分に相当します。

 このように、たとえ自然エネルギーであっても、人間があるエネルギー源から大量のエネルギーを生み出そうとすると、微妙なバランスの上に成り立っている地球に影響を与えてしまうということです。そして、その影響は予想外のところに現れる可能性があります。今まで私たちは何でも無限にあると無意識に考えてきました。しかし、技術の進歩により、大規模になった人間の活動によって、今まで無限にあると思っていたものが実は有限、限界があるのではないかということに気づかされるようになってきました。

 ものが有限であるとすると、将来の子供達はこの有限の問題に確実に直面します。だからこそ、今からその対策を打つために、「持続可能性」というキーワードが、折に触れて耳に入るようになってきたのだと思います。

 そして、さらにこの問題を難しくしているのは、気象などへの影響が現れる時間幅と私たち人間の寿命とが一致していないことです。前者は千年、万年、それ以上といった尺度に対して、後者はせいぜい百年です。自分が生きている間に何の影響もないことに対して、生活を削ってまで注意を払う人が、どれだけいるでしょうか。

 こう考えてくると次のような結論に達しませんか。どのようなエネルギー源であっても地球の微妙なバランスに影響を与えないという、エネルギー問題を根本的に解決する方法はおそらくなく、ただ破局的になる時間を引き延ばすことしかできないと。この考えに立つと、絶対にこれでなければダメだという立場は取り得ません。それぞれのエネルギー源が地球に及ぼす影響を最小限にする組み合わせは何かと考えることにならないでしょうか。いよいよ原子力について考えてみたいと思います。

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