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ドイツ「エネルギー転換政策」を検証する 小野章昌(エネルギーコンサルタント) 2018.1.15

 ドイツの「エネルギー転換政策」は17年に及ぶ実施期間を経て、その壮大な社会実験の結果を示しつつある。Agora Energiewende作成の2017年速報値を基に主な政策の成果と矛盾点を検証する。

1. 再生可能エネルギーの拡大
 発電分野における再生可能エネルギーの拡大は順調に進んでいると考えられる。図1に見るように再生可能エネルギーの2017年発電量割合は33.1%まで伸長し、図2に見るように風力と太陽光が大きな伸長を見せている。また図3に見るように再生可能エネルギーの発電設備量は1億1,300万kWに達し、中でも風力と太陽光を合わせた設備量は9,900万kWと1億kW寸前まで増えている。固定価格買取制度(FIT)やその後のプレミアム付き固定価格買取制度(FIP)の効果が十分にあったと言えよう。

図1 ドイツの電源別発電量割合

注)カッコ内は2016年の割合

図2 再生可能エネルギーの発電量推移(単位:10億kWh)

図3 再生可能エネルギーの発電設備量(単位:100万kW)

2. CO2排出量は減ったか?
● 「エネルギー転換政策」の第一の目的はCO2排出量を減らすことにあったはずであるが、転換政策を始めて17年経っても削減目標には遠く及ばない。1990年比で現在の削減割合は27.6%であるが、元々旧東ドイツの数字を含む1990年を基準にすることが余りに人為的であり、東西併合後に急速に削減が進んだのは当然のことである。下記図4に見るように、転換政策が本格化した2009年以降は、排出量はほぼ横ばい状態で削減が進んでおらず、結果として2020年目標の40%削減には遠く及ばず、2030年目標である55%削減に至って夢のまた夢である。また発電分野だけを取っても削減ははかばかしくないことが分かる(図5)。

●  これはなぜであろうか? 理由は風力・太陽光がもともと希薄なエネルギー源であり、自然任せであることにある。ドイツにおける2017年の太陽光の稼働率は10.6%であり、陸上風力の稼働率は19.7%であった。通常80%近い稼働率を持つ火力や原子力に比べて数分の一という働く時間なのである。太陽光が年間の時間数のうち10.6%しか働かないことは残りの90%近くの時間を火力が働いて穴埋めしていることを示しており、陸上風力の場合は80%近い時間を火力が穴埋めしていることになる。CO2削減が遅々として進まないのは致し方のないことと言えよう。仮に原子力発電を停止して、そのCO2削減分を太陽光・風力で埋め合わせようとするためには、原子力設備容量の数倍の設備が建設される日を待つことになり、原子力の停止によって急増したCO2排出量が元に戻るまでには多くの日時が掛かるのである。ドイツでCO2削減が遅々として進まない理由であり、原子力廃止が予定されている今後も太陽光・風力では目標が達成できない理由である。ドイツのエネルギー転換政策はCO2削減の面で失敗であったと言えよう。

図4 ドイツのCO2削減推移と目標(単位:100万トンCO2)

図5 発電分野でのCO2削減(単位:100万トンCO2)

3. 需要に不釣り合いな過大な発電設備の発生
 間欠的で常に変動する風力・太陽光発電は需要に基づく発電指令に応じることができず、したがって指令に応じられる既存の安定電源の代りを務めることはできず、交替することもできない。風力・太陽光の設備は既存の電源に追加されて建設されるため、業界が抱える設備量は過大になって行く。それを如実に示しているのが前記図3と下記図6で、再生可能エネルギーの設備量は1億1,300万kW(図3)と最大需要(約8,000万kW)の1.4倍となり、既存の火力・原子力1億300万kW(図6)を合わせると合計で2億1,600万kWと最大需要の2.7倍にもなっている。これは明らかに異常な状態であり、風力・太陽光を増やすと業界全体に過剰な生産設備をもたらすことを明瞭に示している。過剰生産設備は必然的にすべての設備の採算の悪化をもたらし、長続きはしないことになる。またこれ以上風力・太陽光の設備を増やしても問題はさらに深刻化するだけであり、その意味でドイツのエネルギー転換政策は間違っていると言えよう。

図6 火力・原子力の発電設備量(単位:100万kW)

4.  需要を越える過大な発電
 電力は需要に合わせて生産するものであるのに、ドイツでは再生可能エネルギー(風力・太陽光)の発電設備が増えすぎたため、国内消費の10%に相当する602億kWhを余計に発電し、国外に輸出しなければならなくなった。この余剰発電による輸出量は年々増え続けており、再生可能エネルギーを増やせば増やすほどその量は増える状況にある(図7)。

図7 余剰電力の拡大

 余剰が生まれるのは主として風が強く吹く時、太陽が強く照る時であり、電力市場では安い価格が生じることが多い。そのような安い電気を輸出する訳であるから、貿易収支には不利となろう。FIT による太陽光・風力の高い買取価格と安い輸出価格の差は賦課金として国民が負担することになるので、国内の発電量が大きくなり、輸出を余儀なくされることは好ましいことではなく、この面でもドイツ政府は失敗を犯しているのである。ドイツでは電力系統がつながっている隣国のオーストリア、オランダ、フランス、スイスなどに余剰電力を買ってもらえるが、島国の日本では不可能なことである。また隣国でも火力発電の出力引き下げができなくなると受け入れることができなくなるので、ドイツは早晩そのような局面を迎えることを覚悟しなければならないであろう。

5. 過剰設備による市場価格の低下
 風力・太陽光の設備量がほぼ1億kWという過大なものとなり、FITによって一旦優先購入された再エネ電力が安値で市場に出回るため卸売市場価格は下がり続けている(図8)。3.5円/kWh程度の販売価格ではどの電源も採算が取れないであろう。発電会社は、抱えている火力発電の稼働率低下と市場販売価格の低下によって発生する大きな赤字に苦しんでおり、放置できない状態になっている。風力・太陽光の下支え役を務める火力発電をここまで疲弊させているドイツのエネルギー転換政策は失敗と言えよう。火力の下支えを失えば風力・太陽光は生き残って行けないからである。

図8 FIT制度下でのドイツ卸売市場価格の推移

6. 過剰設備によるマイナス価格の発生
 過剰な風力・太陽光設備が加わり、FIT制度の下で優先的に発電され、電力系統に受け入れられるために、需要が少なく風が強く吹く時間帯には卸売市場でしばしばマイナス価格が生じる。下記図9に見るように2017年10月末の週末にはほぼ丸1日にわたって10円/kWhを越えるマイナス価格(すなわち現金を付けて電気を買ってもらう)が発生する事態が生まれている。これは明らかに風力発電(および太陽光発電)が過大になっていることを意味するもので、これ以上設備を作っても意味がないことを示している。また10円/kWhのマイナス価格と風力発電の固定買取価格(仮に8円/kWh)との差額18円/kWhは賦課金として消費者に請求されるのである。風力・太陽光を増やせば増やすほど消費者負担は増えて行くことになろう。マイナス価格を発生させるまで風力・太陽光を伸ばすというドイツ政府のエネルギー転換政策は国民負担をいやが上にも増すという意味で間違っている。

図9 大きなマイナス価格の発生 (2017年10月27日~31日)

注)左軸は各電源の発電量(100万kW)、右軸は市場価格(ユーロ/1000kWh)を示す。

7. ドイツの家庭用電力料金は高止まり
 ドイツの家庭用電力料金は賦課金のじり高、送配電系統コストの上昇により2018年は30.3ユーロセント/kWh(40.9円/kWh)と世界1,2位を争う価格に高止まりしている(図10)。今後も北部の洋上風力が増えると、北部では電気が余り、南部では原子力発電の退役もあって電気が足りなくなるという歪な形が進む。そのために北部では風力発電の一部を止め、南部では予備電源を現役復帰させるなどの補償コストが嵩み、それが丸々賦課金の形で消費者の肩にかかって来る。また北部から南部へ3本の高圧送電幹線の建設が進められているが、住民の反対に出会って遅々として進んでいない。一方で主要送電会社は建設コストが嵩むことを理由に2018年から送電料金の大幅値上げを発表している。そのコストも電力料金に付加される。このようにドイツの電力料金はますます上昇することが懸念されている。2000年に比べて電力料金が倍加していることは政策が間違っていたことを示すものと言えよう。

図10 ドイツの家庭用電力料金推移

検証のまとめ
● 風力・太陽光を中心にドイツの再生可能エネルギーはFIT、FIP制度の下で順調に伸び、発電量で33.1%を占めるまでになったが、肝心の目標とするCO2削減には結びつかず、2020年目標には遠く及ばず、2030年目標の達成は絶望的である。

● 風力・太陽光は既存の安定電源(火力・原子力)を代替することはできず、結果として業界に過剰な発電設備をもたらすことになる。現在最大需要の2.7倍の発電設備を抱えることになったドイツではなんらかの設備調整を行う必要があるが、安定電源の退役は太陽光・風力の支え役を失うことになるので、風力・太陽光設備の退役やその稼働を絞る必要が出てくるであろう。

● 現在でも需要の10%に相当する過大な発電が行われ、隣国に引き取ってもらっている。隣国の火力発電の出力引き下げができなくなると受け入れも難しくなろう。このように自国の需要に不釣り合いな発電を行うまで再生可能エネルギーを増やしてはいけないのである。

● 風力・太陽光の発電量が20%近くになると、市場でマイナス価格が発生する頻度と時間が大幅に増えることが判明した。意味するところは、風力・太陽光は同じ時間帯に同じような発電を行うため、設備量が増えると時間帯によっては需要を越える過剰な発電を行うことを示している。隣国にマイナス価格やゼロ価格で輸出する赤字の付けは国民に賦課金として廻されるので、その不合理さを国民に知られたら問題化しよう。不利なところを目隠ししているドイツ政府の欺瞞はいずれ破たんを来すと思われる。マイナス価格が生じるまで太陽光・風力を増やしてはいけないのである。

● ドイツの家庭用電力料金は40円/kWhを越えて世界1,2位を争っている。再生可能エネルギー、とりわけ風力・太陽光の大量導入による賦課金と送配電コストの上昇が主な理由であり、今後も上がることはあっても、下がることはないであろう。消費者の負担が余りにも大きいという意味でドイツの「エネルギー転換政策」は失敗であったと言えよう。

● 最後のまとめとして、ドイツのエネルギー転換政策はいつの間にか再生可能エネルギーを増やすことが目的化しており、国民負担(経済性)や電力系統の安定性(安定供給)がないがしろにされている感があり、政策失敗の可能性がますます高まっている。

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