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福島第1原発、着実に進む廃炉作業-二次災害リスクは消え、安全な現場に 石井孝明(経済・環境ジャーナリスト)2018.1.23


(写真1)
現在の3号機。保管されていた使用済み核燃料の取り出し作業が進む。手前の建物は、水素爆発の爆風で壊れたまま

 東京電力の福島第1原発を11月末に取材した。事故から6年半が経過し、現場は様変わりしていた。安全が確保され、5000人の人が働く巨大な工事現場となっていた。廃炉への道は完全には見通せないものの、状況は一歩一歩改善している。

■構内の大半で線量低下

 建屋の水素爆発、住民の避難と社会混乱、地域の崩壊——。福島第1原発事故では、映像やSNSで拡散した衝撃的な光景が人々の脳裏に今でも残る。その状況が続いていると思う人が多いようだ。それは実際の現場とかけ離れている。現場は安全になっていた。

 原発事故の当時、水素爆発で四散した建物の破片や、津波で破壊された設備はほぼ片付けられ、敷地は整理されていた。構内の地面はモルタルに覆われていた。これは雨水のしみこみを防ぎ、放射性物質の飛散を防ぐためだ。そのために構内の放射線量は大きく低下した。

 取材で筆者らは3時間ほどを福島第1原発内ですごしたが、被ばく量は0.1マイクロシーベルト(μSv)。日本の他地域よりやや高い程度だ。構内の95%では通常の作業服を着て、マスクも簡易なもので作業している。(写真2)


(写真2)
事務棟横の桜並木が残り、人々が普通に歩いている。

 東電は労働環境の整備に取り組んでいる。原発構内は現在約5000人以上が働く巨大な工事現場だ。最盛期には7000人以上の人が働いていた。そのうち東電の社員は1000人程度。東電は協力企業約40社に工事を発注し、さらに約1000社がかかわる。

 事故直後は構内の建物の大半が地震と津波の影響、さらに放射性物質の汚染で使えなかった。主に免震重要棟で東電の事務や協力企業の休憩や作業準備が行われた。ここは事故当時の公開された映像で映った場所だ。事故直後はごった返しており食事も乾パンやクラッカーなどしかなかった。

 東電は14年に事務棟(現在は協力企業が利用)、15年に現場で働く人向けの大型休憩所、そして16年10月には新事務本館を作った。各建物には休憩スペースがあり、食堂では福島産の食材を使う温かい食事が380円で提供されている。種類も豊富だ。休憩所内にはコンビニもあり、夏場にアイスが売れる。取り組みは大変好評という。

 全国的に好景気で人手不足が生じている。東電は人を確保するために、長期、さらに随意の契約をして、取引先が人の手配をしやすくしている。「廃炉までの道のりは長い。協力企業の皆様に、安全に、そして長く働いていただける環境を整えています」と、廃炉カンパニーの広報担当である広瀬大輔氏は語った。

■見通せない炉の状況、水の対策は進む

 それでは事故を起こした原子炉はどのようになっているのか。事故では6つの原子炉のうち稼動中の1、2、3号機は地震で緊急停止したものの、津波で冷却装置が壊れたことで加熱。燃料が溶解し1号機、3号機が漏れた水素が引火し建屋が爆発した。3号機とつながる4号機も水素が流れこみ建屋が爆発した。

 各号機の炉の状況は、燃料の大半が格納容器・圧力容器の中にあると思われるものの詳細は不明だ。遠隔操作ロボットなどで情報を集めている。炉の近くは放射線量が高く長時間人が作業できないためだ。

 東電はまず、各原子炉の建屋内に保管された使用済み核燃料を取り出す予定だ。1号機と2号機は23年度末をめどに取り出し作業を開始する目標だ。すでに4号機からは14年中に取り出した。今は破損した各号機の建屋上部の片付けを進め、3号機では18年度中頃に取り出し作業を開始する見込みだ。見学時点では、3号機には建屋上部を覆う屋根カバーが設置されていた。(写真1)。

 2012年頃は「水との戦い」が問題になっていた。原子炉を水で冷やすことにより発生する汚染水、建屋周辺に流れ込む地下水への対応だ。それらの対策も進んでいた。冷却用の水は循環させ、汚染された場合には特殊な装置で放射性物質を取り除く仕組みが13年に完成した。その処理水は現在100万トンになっておりタンクに溜めている。人体に悪影響を与えないトリチウムという放射性物質は取りのぞけない。海に放出する解決策が考えられるが、現時点では国・東電・地元で検討が行われている。タンクは今830基ほど作られて構内を埋め尽くしている。早急な解決が必要だ


(写真3)
原子炉周辺を囲む凍土壁。凍結が順調に進んでいる。手の下の白くなった部分

 地下水に関しては、井戸でくみ上げ、水を海に流す水路をつくるなどして、流れ込む水を減らした。また建屋内への地下水の流入を抑える凍土壁の凍結が進んでいた。地下30メートルの深さまで打ち込んだ凍結官に、土に含まれる氷を凍らせる最新の工法だ。建屋周辺に全長1.5キロメートルの氷の壁ができた(写真3)。

 これらの重層的な対策で建屋には、かつて1日400トンの地下水が流れ込んだが、今は同130トン程度に減っている。また海側に800メートルの遮水壁をつくった。そのために事故現場から出る水で海や外部環境を汚染するリスクは大幅に減った。

 新しい課題は廃棄物だ。工事で出た廃棄物は全部構内に溜め込んでいる。その焼却と保存設備を、構内に建設中だ。

■知られざる東電社員の努力

 この巨大な工事は、国の試算によれば総額8兆円程度かかるとされている。東電と政府の決めたロードマップによれば、2050年ごろをめどに作業を終える目標だ。廃炉までの道のりは大変遠い。

 しかし現場には危険や悲壮感はなく、落ち着いた通常の工事現場になっていた。東電社員は行き交う人に「お疲れ様です」「ご安全に」という声をかけていた。これは他の電力会社の現場での光景と同じだ。

 案内をした東電広報の青木知里さんは東電女子サッカーチーム「マリーゼ」の元選手。マリーゼは日本サッカー界を支えたが今は休部になっている。「私たちのチームは福島の皆さまに大切にしていただいた。事故は悲しかったが、今少しずつ廃炉に向かって進んでいることを伝えたい」という気持ちで、働いている。
 
 東京電力ホールディングスの常務執行役で、福島第一廃炉推進カンパニーのプレジデント(最高責任者)に別の日に会う機会があった。増田氏は震災当時、福島第二原子力発電所の所長で、プラントを冷温停止に導いた人だ。福島第一の作業の方針について次のように語った。「福島では、避難指示が解除され、浜通り地区の避難者の皆さんの帰還が増えています。そういう動きを止めないよう、そして少しでも不安を解消するように情報の公開、そして安全な作業を心がけています。速やかな廃炉が、福島の復興につながるという思いを、社員誰もが抱いています」。

 福島第一原発に、東電社員はそれぞれの思いを込めて向き合っている。その努力、組織としての事故への真摯(しんし)な反省は、なかなか社会に取り上げられず、今でも批判の声が目立つ。

 確かに東電は原発事故を起こした。これは許されない。だが、それを元に戻そうと、事故処理や福島復興のために努力を重ねる人々がいる。評価されるべき取り組みには「頑張れ」と、声援と感謝を送るべきだと、私は思う。

 そして現実をしっかり受け止め働く人に敬意を持ちながら、日本全体で福島第一原発の廃炉に関心を向け、できる限り協力をしていかなければならないだろう。速やかな廃炉は、福島の完全な復興につながる。

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