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再エネの健全な成長のため甘えの排除を−「送電線空いてる」騒動に思う 石井孝明(経済・環境ジャーナリスト) 2018.3.1

(写真1)

増え続ける風力発電。
著者権者はJAMIC

■「送電線は空き、使わせろ」キャンペーンの不思議

 日本で経済問題が社会的な議論になるとき、不思議なことが常に起こる。特定の利害を持つ人が、ある人々を攻撃して自分の主張を通そうとする。こういう人らは少数ながら、声が大きく、政治家やメディアを動かそうとするので目立つ。そして悪いヤツを攻撃する勧善懲悪話は面白いので、メディアやポピュリストが飛びつきやすい。

 これは「Win−Win」(共栄)、経済的合理性、効率性を目指すビジネスの発想ではない。政治活動家の手法だ。

 最近のエネルギー問題では、そうした議論が繰り返されている。脱原発を主張する人は、電力会社を攻撃し、原発を悪と決め付けた。政治家もそれに追随した。そして今、再生可能エネルギー(以下、再エネ)関係者が、「再エネの普及が進まないのは、送電線を電力会社が使わせないためだ」と主張している。そしてメディアも同調している。

 朝日新聞は昨年末からこの問題を取り上げ、1月28日に「基幹送電線、利用率2割 大手電力10社の平均」という批判記事を出した。さらにテレビ朝日、毎日新聞、東京新聞などが、同じ人の同じ話を、執拗に繰り返している。その人は京都大学特任教授の肩書きを持つが、本職は風力発電の関係者だ。

 その主張を要約すると、「利用率」つまり「1年間に送電線に流せる電気の最大量に対して、実際に流れた量」が、2割前後であり送電線の利用はガラガラであるのに、電力会社は再エネ電源の接続に消極的だと批判している。昨年に風力発電の大規模な接続が難しいと意見を述べた東北電力が、特にメディアの批判のやり玉となった。東北地方は風力発電所の建設が続いている。

 この問題は以前から指摘されていた。ただし電力会社は利益のためというより、送配電を安定的に行うために不確定要素を増やしたくないという理由のために、再エネ接続の取捨選択を行っている。これまで電力会社は、地域独占を認められる代わりに、域内の安定供給義務を課せられていた。

■本当に「送電線は余っている」のか?−答えは安定供給のための余裕

 送電線が余っているという議論は、かなり乱暴だ。送電線は事故対策のために、重要な部分はこれまで二重化され、半分は緊急時にしか使われない。経産省によれば、東北電力の送電線の最大利用率は、一部で42%だが、最大値が50%であるために、いっぱい近くまで使っている。

 電力の送電量は、時間によってまったく異なる。日照や風など自然現象で発電する再エネの発電量は事前に予測できない。そして電力は蓄積したり、貯めたものを運搬したりすることはできないため、送配電網もピーク(最大需要量)に合わせて建設している。さらに幹線の送電可能量は場所によって違う。一つの部分が最大になると、他の場所もそれに合わせて送配電を行わざるをえない。

 経済産業省(以下、経産省)によれば、再エネの全発電に占める割合が25%程度のドイツ(日本は15%前後)でも同じ考えで、再エネ使用がピークになった17年4月にも、すべてが50%以下だったと指摘している。
(経産省・資源エネルギー庁「送電線「空き容量ゼロ」は本当に「ゼロ」なのか?~再エネ大量導入に向けた取り組み」

 今は固定価格買取制度(FIT)による再エネの急増、電力自由化で、電力会社の供給義務がなくなった。また発電と送電の分離が2020年までに行われる予定だ。また日本の電力網は、各地域電力会社で分かれて作られていたが、それを一体運用し、接続を調整する電力広域的推進運営機関が2015年に作られた。

 そのために経産省・資源エネルギー庁は「再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会」を昨年末につくって、有識者や事業者を集め、論点の洗い出しと議論を始めた最中だ。ただし、もっと早く議論を進めればよかったとは思う。

 同委員会では、再エネの接続増加のために、対策が議論されていた。コネクト&マネージと呼ばれる接続のIT技術を使った一体管理、そして各電力会社間の送配電網の接続、予備回線の接続ルールなどだ。

 ところが、その議論を始めたところを狙って「送電線は空きだらけだ」「その空きを安く使わせろ」という電力会社、制度批判のキャンペーンが始まった。昨年末から、政治的に反原発に傾いたいくつかの研究組織が、シンポジウムを行い、関係者やメディア関係者に、「送電線は空いている」と説明やロビイングをしていた。

 系統の作り直しには、再エネ向けに本格的に行うと巨額の費用がかかる。FITの始まる前に、最大値で20兆円という試算も出ていた。こうした政治的な動きは、負担を再エネ事業者が、負担なく既存の電力会社に背負わせようという思惑が見え隠れする。

 上記の委員会では、関係者からこのキャンペーンに反発が出た。ある委員は筆者に「誰も再エネの振興を妨害していない。電力会社も、経産省もそうだ。それなのに、こうした批判を始めるのは議論を混乱させるだけ」と、戸惑いを示した。

■再エネ「贔屓(ひいき)の引き倒し」からの脱却を

 筆者は再エネを、エネルギー供給の柱として育ってほしいと願う立場だ。しかし、そのためには、再エネの事業者が、もう少し社会的な配慮をして、自分の力で、成長してほしいと思う。すべての人がそうではないが、一部の事業者に「甘え」が見える。彼らの批判する電力業界には、そうした公的な利益の観点から行動する人たちがいたことは確かだ。

 上記の「再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会」では、日本の再エネの高さが問題になっている。発電用コストは、ドイツでは1kw・h当たり9円なのに、日本は世界で一番高額なFITのために、同42円(税込み、ただし12−14年度申請分)で買い取ってもらえる。そしてFITでは、2017年度推計で2兆7000億円にもなる再エネ賦課金の巨額国民負担が出ている。さらに社会的には、メガソーラー、大規模風力の環境破壊の社会的な批判も強まっている。「図1」に示したように再エネをめぐる課題は多いのだ。

 残念ながら、メディアは怪しげな「送電網は空いている」話に飛びつくのに、こうしたより重要な問題を積極的に取り上げない。そして再エネ事業者自らが問題を直視しない。

(図1)再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会、論点資料

(ウェブリンク)

 3年前に筆者が取材も兼ねて出席した再エネ事業者の会合で、乾杯の音頭で「バブルです。皆さん頑張って儲けましょう」と言う人がいて、うんざりしたことがある。もちろん利益は企業活動で大切なことだが、浮ついた感じが会場に満ちていた。

 再エネの事業者、その関係者の中から、FITで儲けているにもかかわらず、再エネの問題を自省し、その是正のために動いたり、また社会のために最適解を考えたりする動きがなかなか見えない。

 大きな政策論だけではない。個別事業でも、環境破壊や過剰広告など、倫理に欠けた動きが目立ち始めている。(参考の筆者記事「太陽光発電の環境破壊を見る(上)-山梨県北杜市を例に」)そして事業者は、問題に沈黙する。そして一部は世論誘導や政治家へのロビイングに熱心だ。送電線接続問題も、再エネ事業者側が送電網の整備の負担を申し出たら、接続問題はもっと早く解決へ進むはずだ。

 反原発運動や、原発の代わりという一般人や政治家の間違いによって、再エネに風が吹いた。メディアは既存の電力会社や政府を「悪いヤツ」と見立てて、再エネを称えた。再エネ事業者も、その状況を利用した。しかし、それは変わりつつある。

 再エネ業界としても、また事業者個社としても、日本の電力・エネルギーを担う使命感を持って、エネルギー事業を担う公的責任を考えるべきではないだろうか。

 そして、エネルギー問題を報道するメディア、さらに再エネを使う私たちも、再エネを賛美するのではなく、是々非々に向き合うべきであろう。

 「贔屓(ひいき)の引き倒し」という言葉がある。歌舞伎からの言葉で、好きな役者をファンがほめすぎることで、その役者が増長して精進せず、芸が伸びなくなるという意味だ。その言葉通り、再エネを今甘やかすと、未来に適切な成長ができなくなってしまう。

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