日本エネルギー会議

  • 設立趣旨
  • お問合せ

第3回 原子力の光と影:放射線影響と核セキュリティ 内山洋司 【筑波大学 名誉教授 (一社)日本エレクトロヒートセンター会長、(公社)茨城原子力協議会会長】 2018.3.2

 原子力特有の問題に放射線影響と核セキュリティがある。両者は一旦、問題が発生すると社会や人々に甚大な被害を長期間にわたって及ぼす恐れがある。放射線影響と核セキュリティの問題は科学技術では解決できない問題でもある。国民の不安を解消するためには、政策や制度の面においてもしっかりとした対策と説明責任が求められる。

1.放射線影響
 人は、自然放射線やレントゲンなど医療による人工放射線を浴びている。太陽表面で強い太陽フレアが発生すると、かなりの量の放射線が地表にまで降り注ぎ、電波障害だけでなく人への被曝量も多くなる。放射線を浴びる線量当量は、住む場所や生活の仕方によっても異なっている。
 ブラジルのガラパリ地区に住む人は年間10mSv(ミリシーベルト)で、一般的な土壌に比べて20倍以上の値である。空気中からのラドン吸入や日常摂取している食物からも平均1.5mSv程度を受けている。その他、胸部などX検査やCTスキャンなど医療検診でも放射線を浴びており、一年間に浴びている線量当量は人によって大きな違いがある。私たちは日常、放射線とは切り離されない状態で生活している。しかし、日常生活で放射線を浴びている量が多い人が、癌にかかりやすくなったり白内障になったという統計データはない。
 とはいえ、人工放射線を浴びる量は人が受け入れ可能なレベルにまで制限されなければならない。この線量当量限度は、国際放射線防護委員会(ICRP)によって勧告が出されている。それによると職業上の被曝の場合、5年間で100mSv、1年間で50mSv以下、ただし緊急作業時は100mSv以下と定められている。それに対して一般公衆の被曝限度は、年間1mSvと、職業人に比べてかなり低い厳しい値が設定されている。ただし、原発事故からの復旧期には年1~20mSvを許容範囲としている。
 福島第一事故によって放射性物質が周辺地域に放出され、多くの人が避難指示を余儀なくされた。その後、除染作業によって線量は徐々に下がり、避難指示は、年間の積算線量が20mSv以下になった地域から徐々に解除されている。今後、国は追加除染などを行うことで、長期目標として追加被曝線量をICRPの勧告である年1mSvにまで下げていく方針である。
 原子放射線の影響に関する国連科学委員会は、福島第一事故を受けて、放射線の人体影響の科学的知見や事故後の被曝線量の推定値から正式な見解を発表している。それによると、「将来の癌統計において事故による放射線被曝に起因し得る有意な変化がみられるとは予測されない。また、先天性異常や遺伝性影響はみられない」という。
 しかし、専門家の中には線量推定やリスク予測に不確かさがあり、調査は不十分であると主張する人もいる。取り分け、妊婦や子供への健康影響に関する不安は根強い。除染が進んでいるとはいえ、被災地で生活する人々には不安がある。
 不安の原因として被曝期間の長さがある。一旦、田畑、森林、住宅などの土壌等が汚染されると、汚染物を完全に取り除くことは難しく、そこに住む人は低線量であっても長期にわたり被曝を余儀なくされる。それは、本来、受けることがなかったはずの追加的な被曝である。また、放射線影響リスクについては、不確実性が大きく、科学的に解明できていないことも人々の不安を煽る理由にもなっている。
 極めて低いレベルの放射線影響については不確実性が高く、その影響の大きさは曖昧である。放射線は、基本的には被曝すれば人体の細胞を破壊する。もちろん、人の細胞には修復作用によって、元の健康な細胞に戻す働きがある。しかし、その働きは人の年齢や健康状態などによって異なっており、疫学的にも明らかにされていない。年1~20mSvは疫学調査によって影響がない許容範囲であると言われても、心理的な不安を完全に払拭することはできない。

2.最終処分問題
 低線量領域の放射線影響リスクについては、放射性廃棄物の処分についても同じような問題がある。原子力発電所から発生する放射性廃棄物は既に存在しており、処分場所と処分方法の検討が検討されている。処分場の建設は、住民の反対もあって共通の悩みであり、多くの国々で未解決となっている。
 高レベルの放射性廃棄物は、核種によって百年、あるいは二百年以上にわたり無害化できず、中には十万年先まで子孫への放射線影響のリスクを持つものがある。高レベル放射性廃棄物は、一万年以上の管理が求められているが、原子力専門家は、千年程度であれば高レベル放射性廃棄物を技術的に安全に隔離できる可能性があるといっているが、それ以上の期間になると放射性物質が地下にとどまった状態になっているのか、それとも地下水の影響で地表あるいは海洋に漏洩するのかは科学技術的にも不確実性が大きく明確にはできないとのことである。
 千年の期間が経つと放射能レベルは低下しており、漏洩する放射性物質への環境影響は小さくなっている可能性はあるが、その影響がどの程度までのものかを明らかにできないため、人々の不安を解消できない難しい問題となっている。

3.核セキュリティ問題
 核エネルギーが武器として最初に使われたのは広島に投下された原子爆弾である。原爆や水爆は、人類が考えだした兵器の中で最も破壊力が大きく、被曝による影響も甚大である。
 戦後も、戦勝国である米国、ロシア、イギリス、フランス、中国で核兵器開発は進み、それにインドやパキスタンが加わり、さらに北朝鮮などへと拡散しつつある。中でも北朝鮮の核兵器開発は、韓国、日本、米国だけでなく世界に大きな脅威となっている。
 核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)が2017年のノーベル平和賞を授賞した。ICANは、核無き世界の実現に向けて運動している組織で、兵器を初めて法的に禁じる核兵器禁止条約の採択に主導的な役割を果たした。一方で、核保有国や核に依存する国は禁止条約交渉に参加していない。世界には1万5千個の核兵器がある。その大半は、アメリカとロシアが保有しており、両国の覇権争いで世界の秩序は、核が抑止力となっており必要悪と考えている。
 核兵器は必要悪なのかそれとも絶対悪なのか?核兵器国と非核兵器国、そして非核兵器国間の対立が高まる中、日本政府は核抑止を理由に、アメリカの核の傘の下にある。政府は、核兵器禁止条約をはじめとする法的拘束力のある条約を否定していないとの見解である。
 核実験全面禁止条約(CTBT)の会議で共同議長を務め、核拡散防止条約(NPT)にも参加しており、核兵器国が参加する既存の枠組みを生かして、核兵器の数を最小限まで減らしていく核軍縮を目指すという。その上で、法的拘束力のある核兵器禁止条約のタイミングを検討していくという。しかし、核軍縮と核不拡散を巡る現実は日本政府が描く流れにはなっていない。核軍縮で核保有国への政府対応にもどかしさがあり、政府の方針の実効性を疑う意見も多くある。
 原子力発電は、核兵器に使われる核物質を平和利用のために消費する技術である。保障措置と物的防護を強化すれば、核拡散には繋がらないと考えられる。核物質を消費することで核拡散を抑制する働きがあるのではないかという考えもある。
 しかし実際には、核分裂によってプルトニウムが生産される。日本は、核兵器非保有国の中で、唯一、ウラン濃縮と再処理の技術を持つ国である。それは、日米原子力協定によって平和利用のための技術として開発が認められている。
 問題は福島第一事故以降、稼働できる軽水炉の数が減少していることだ。商用技術としてウラン濃縮と再処理工場の開発と運用が成り立つのか?また、高速増殖炉「もんじゅ」が廃炉になった中で、プルサーマル路線によって既に保有している48トンの余剰プルトニウムの利用見通しを明確にしなければならない。
 平和利用で開発されている濃縮や再処理の技術は、核兵器の開発に転用できる技術であって、日本が核開発をする恐れがあるという国際社会からの疑惑を払拭するためにも、プルトニウム利用計画を明確にしていくべきである。
 放射線影響のリスクや核拡散問題に対して、政府や原子力関係者は社会的なコンセンサスが得られる説明をする義務がある。次の号では、人文系の学者から批判される原子力のリスク問題について考えていくことにする。

  • データベース室
  • エネルギーとは?
  • 世界と日本のエネルギー
  • 原子力の論点
  • 放射線と健康
Facebook Twitter