日本エネルギー会議

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原子力施設を有する欧米の地域リーダーとの対話 豊田正和(一般財団法人 日本エネルギー経済研究所 理事長)2018.3.6

 本年二月の上旬に、米、英、フィンランド3か国において原子力施設を有する地域のリーダーの方々6名(各国2名。4名の方が女性で、妊婦の方がおひとり)をお招きして、ASEAN、インド、ニュージーランドなどの国々からの9人のエネルギーの専門家との対話を通じて、原子力が国民の理解と支持を得るにはどうすべきかを議論する機会を得た。
 本プロジェクトは、ジャカルタに本拠地を持つERIA(Economic Research Institute for ASEAN and Asia)が主催する事業であり、日本エネルギー経済研究所が事務局を務めた。
 ERIAは、ASEAN+8(中国、インド、韓国、豪州、ニュージーランド、日本、米国、ロシア)の国々を加盟国とするEAS(東アジア・サミット)の関連大臣会合に意見具申する国際調査機関である。
 ASEAN各国には、高い成長に伴う電力需要増加に際し、化石消費量を抑制するため、原子力を導入する方針を持つ国が少なくない。しかし、福島の原子力発電所の事故以来、政府として原子力発電所の導入を検討しても、社会的合意が得られず導入を見合わせているのが実態だ。そこで、原子力事業と数十年にわたって共存実績を有する欧米先進国の立地地域では、地域住民とどのような対話を行っているのか、事例や議論を広く共有して、EAS加盟国に政策提言することが目的だった。
 まず、初日に皆で、福島の視察を行った。多くの住民が避難先から帰還しつつあること、発電所内で事故処理をしている人も、場所によっては、特別の防御服無しに作業が行えている姿などを見て、事態の進展ぶりに感心をしたようだ。その中で、皆びっくりしたのが、900基近い汚染水処理タンク群だ。
 科学的には、薄めて海水に投棄しても健康被害が無いとされ、原子力規制委員会も同様の見解を発表しているが、漁業組合の支持が得られず、タンクは増え続けているとの説明がなされた。科学的に無害なのに、何故理解が得られないのか。原子力が稼働停止することにより、火力発電の比率が高まる方が、健康にも、気候変動にも悪影響があるのではなどの疑問が呈された。
 住民理解の難しさの一方で、風評被害に係る不思議さも感じた方が多かったようだ。6名のリーダーの一部からは、汚染水を貯めておくより、害が無いように海洋投棄し、多くの人が魚を食べて、安心してもらった方が流通するのではないかとの発言もなされた。汚染水の貯蔵が却って、不安を高めるのではないかとの疑問のようだ。
 2日目には、各リーダーから、「何故原子力は重要なのか?」、「緊急時対策は十分か?」という二大テーマについての発表がなされ、アジアの専門家と、地域における対話の在り方が議論された。「原子力の重要性」について強調されたのは、「施設設置がもたらす経済面・雇用面(特に高技術レベル)でのメリットが大きいこと」、「気候変動対策として最も有効なエネルギーであること」、「事故リスクを軽んじるべきではないが、統計的には単位当たり発電量からみれば、死亡者はほぼゼロに近く、最小リスクのエネルギーの一つであること」などが挙げられた。
 すべてを再生エネルギーで対応すべきとの声に対しては、「太陽光や風力は、稼働率が低く、電池が安くない現在では、化石燃料に頼らざるを得ないこと」、「風力発電が増加するドイツでは、近時、GHG(温室効果ガス)の減少がほとんど見られないこと」などの指摘があった。重要なことは、国、州や県、そして地方政府、地域の教育機関、産業が一体となって、地域の経済発展、リスクのコントロールなどに協力し合うべきとのコンセンサスがあった。
 世界で初めて高レベル廃棄物処理場の建設を完了しつつあるフィンランドのリーダーからは、「発電事業者が廃棄物の処理に責任を持つことが基本だが、政府の支援の重要さの他、独立した規制機関の厳格な規制と信頼が不可欠」との指摘があった。1999年の調査では、59%の住民が処理施設建設に賛成したという。
 「緊急時対策」については、「原子力の価値の共有なしでは、人はリスクを受け入れない。それゆえに、まず環境効果、安全保障効果、経済効果など価値を徹底的に語り理解しあうべき」、「良い緊急時計画を作り、定期的に訓練をし、対話をし、懸念について徹底的に答えること」、「地域で雇用された人々こそが地域の文化・慣習、事象を理解しており、彼らが緊急時対策をリードすべき」、「安全規制については、独立規制当局自身が対話をすべき」など興味深い指摘があった。
 3日目以降の六ケ所村の再処理施設の視察、地域リーダーや、青森県庁における対話では、「事業者を信頼するというより、人として信頼できる人が事業をやっているかが重要。従って、事業や事象の説明に止まらず、地域活動への参加などが必要」、「自分は初め原子力に反対だったが、環境対策としては不可欠だと知り賛成に変わった、といった個人的な話を語るべき」などの他、「国の長期的判断と住民の意思の尊重が必要なため、国は政策がぶれないようにすべき」といった指摘があった。
 小生も、5日間ほぼ全行程参加させて頂いたが、学ぶことの多い貴重な経験となった。

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