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活気づく「溶融塩炉」の開発 高木直行(東京都市大学 大学院共同原子力専攻主任教授)2018.3.22

 安全で廃棄物が少なく経済性に優れる。燃料増殖も可能で資源も豊富。さらに核拡散の懸念もない。その様な美辞麗句で飾られることが多いのが「トリウム溶融塩炉」だ。
 原子力に関する講演会などに行くと、会場から「こんな素晴らしい原子炉があるのに、日本はなぜ開発しないのか?」といった趣旨の質問を受けることがある。特に3.11以降はその傾向が強まった様で、省庁や研究機関でもこうした問い合わせが増えたと聞く。
 事実、日本の外に目を向けると多くの国の研究機関や大学が溶融塩炉開発に取り組み始めており、雨後の筍のごとくベンチャー企業が設立されている。
 溶融塩炉とはどのような特徴を有する原子炉か。トリウムは燃料サイクルをどう変容させるのか。最新の世界動向を含めここで考えてみたい。

1. 溶融塩炉の特徴
 溶融塩炉(Molten Salt Reactor, MSR)は、核燃料物質を溶融塩に溶解させた液体燃料炉である。燃料でありかつ冷却材の役目を持つ燃料塩が、原子炉で発生した熱を炉容器外にある1次系熱交換器へと運び発電等に利用する炉概念(図1)が主流であるが、最近では、燃料にペブルやピン形状の固体燃料を用い、溶融塩を冷却材目的のみに利用する炉概念も検討されている。


図1 溶融塩炉のプラント概念

 そもそも溶融塩とはイオン結晶を主成分とした高温で溶融した塩であり、原子炉に用いられる塩としてフッ化物と塩化物がある。原子炉の目的に応じて、ウラン、トリウムや超ウラン元素(TRU)が燃料としてこれらの塩に混合される。
 燃料が液体のため、燃料の成形加工が不要であり、再処理との適合性に優れ、沸点が高いため一次系を低圧にできる。固体燃料棒で生じる燃料ペレットの膨張や被覆管損傷課題といった課題が無い。原理的には、オンライン処理で燃料の連続供給や核分裂生成物(FP)の連続除去が可能であり、運転に伴い蓄積して中性子寄生吸収物質として働くFPの反応度影響を軽減できる。
 またトリウム燃料(Th-²³³U系燃料)を用いる場合には、熱中性子スペクトル下で燃料増殖が成立することが大きな特徴である。
 原子炉では、連鎖反応維持のため核分裂毎に中性子1個を消費するが、燃料消費を上回って燃料生産を行うにはさらに1個の中性子が必要であり、中性子再生率ηは2を越えることが増殖成立の条件となる。Th-232の捕獲反応から生成される核分裂性核種U-233の中性子再生率ηは、中性子エネルギー領域が熱~中速(共鳴)~高速の広い範囲でη>2を示すため、高速スペクトルでなくとも増殖炉を設計できる可能性がある。
 但しηの大きさは(特に高速領域で)Pu-239やPu-241には及ばないため、増殖比や燃焼度はU-Pu系燃料に劣る。冷却材ボイド化に伴う中性子スペクトル硬化時に反応度が低下しやすい特性があり、炉設計上は増殖と低ボイド反応度の両立を図り易い。
 また熱中性子増殖炉の場合、核分裂性物質の富化度は低く抑えられるため、新規原子炉導入時に必要な燃料量(ton/GWt)はナトリウムなど液体金属冷却高速増殖炉に比べておおよそ一桁少なくて済む。よって現行軽水炉から増殖炉への移行をより短い期間で完了できる可能性がある。

2. 溶融塩炉開発に取り組む各国の動向
 OECD(経済協力開発機構)は、2001年に米国がGen-IV(第四世代原子炉)の国際共同開発を提唱して以来、GIF(Generation IV International Forum:第4世代原子力システムに関する国際フォーラム)の事務局を務め、溶融塩炉委員会を主催している。このGIF溶融塩炉委員会で研究に義務を負うMOU (Memorandum of Understanding:了解覚書)に署名している国(連合)は、署名順でユーラトム、フランス、ロシア、スイス、アメリカ、オーストラリアである。
 Gen-IVでは、固体燃料高速炉の代替炉としてプルトニウムまたはU-233を増殖する、もしくは長寿命のTRU元素を燃焼することを目的とし、高速スペクトル溶融塩炉(以下、溶融塩高速炉)を主な対象としている。2016年時点では二つの炉概念が対象とされており、一つは仏CNRS(Centree National de la Recherche Scientifique:国立科学研究センター)で提案されたMSFR (Molten Salt Fast Reactor:高速中性子型熔融塩炉)、もう一つはロシアで開発中のMOSART(MOlten Salt Actinide Recycler and Transmuter:溶融塩アクチニドリサイクル転換炉)である(図2)。


図2 溶融塩高速炉のMSFR(欧州)とMOSART(露)の炉心概念

 しかしこれら溶融塩高速炉は数値解析で検討される概念検討レベルにあり、現時点の技術成熟度(Technology Readiness Level)は低い段階に留まっている。開発が進んでいるのは、ベンチャー企業が取り組んでいる熱中性子型の溶融塩炉である。
 ベンチャー企業には、米にFlibe Energy, Martingale, Transatomic Power, Thoreact、米/加にTerrestrial Energy、英にMoltex Energy、デンマークにSeaborg Technologies, Copenhagen Atomicsなどがある。これらの溶融塩炉概念の特徴を表1に整理した。

表1 Gen-IVの枠組み以外で開発されている溶融塩炉

 中でもカナダのTerrestrial Energyが提案する統合型溶融塩炉IMSR(Integral Molten Salt Reactor)は、2019年後半にも設計認証(DC)審査をNRCに申請する計画である。減速材に黒鉛、初段階の燃料に低濃縮ウランを含有したフッ化物塩を用い、熱交換器を炉容器内に配置した統合型の溶融塩熱中性子炉である。
 IMSR商業用初号機を2020年代に建設することを目標に、オンタリオ州にあるカナダ原子力研究所CNLのチョークリバー研究所所有のサイト内で建設に適した地点を特定するためのフィージビリティ・スタディ(FS)を2017年の夏に開始している。


図3  Terrestrial Energyが提案する統合型溶融塩炉IMSR

 国際コンソーシアムであるMartingaleが造船技術を活用して開発するのはモジュール型の熱中性子溶融塩炉ThorConである。4年以内にもプロトタイプ炉の運転開始が可能な技術レベルで建設費は$500/KWと謳っており、積極的なビジネス展開で前述の通りインドネシアと開発に関するMOUを結んでいる。
 中国では2011 年から上海応用物理研究所(SINAP)に設置したTMSR 研究センターを中心としてTMSR(Thorium Molten Salt Reactor:トリウム溶融塩炉)プロジェクトを実施している。TMSRには、被覆粒子燃料を塩で冷却する固体燃料型のTMSR-SFと液体燃料のTMSR-LFの二種類がある。
 両炉型とも2MWth(megawatt thermal:熱出力メガワット)の試験炉、10MWthの実証炉を経て、複数ユニットで1Gweの商業炉へと発展させる計画であるが、オンライン再処理技術開発を伴うTMSR-LFはTMSR-SF より10年程度遅い展開としている。近年は実験データベースの充実を理由として計画全体がスーローダウンしている。2015年時点で本計画に関与する人員は600名でその平均年齢は31歳と若い。本取り組みは中国全体の原子力人材の拡充にも寄与している。
 イギリスのMoltex社は燃料ピン内に塩化物燃料塩を充填し、その表面を冷却材のフッ化物塩で除熱するStable Salt Reactorを提案している。放射能の強い燃料物質やFPがプラントを循環せずピン内に留まっていることからStable- もしくはStatic-Salt Reactorと称される(いずれも略名称はSSR)。
 炉心には軽水炉の様に燃料ピンを束ねた集合体のみが配置され減速材構造物を持たない。このため塩組成やピンピッチなどの変更によって中性子スペクトルを熱、高速のいずれにも調整可能で、燃焼/増殖の目的に応じた炉として設計できるとしている。炉構成的に燃料塩体積比率が小さくウラン装荷量が少ないため、増殖炉とすることは容易ではない。
 
3. 溶融塩炉の展望
 高品質な工業製品を生産する日本で生じた福島原発事故を目の当たりにした世界は、原子力の必要性を理解しつつも、従来型の原子炉が持つイメージを払拭できる新たな新型炉を求めているようだ。巨大津波が引き金とは言え、福島事故は1) 従来の軽水炉の様に一次系が高圧、燃料ピン内側も高圧の炉は、2)電源喪失し除熱不足になると炉心が溶融し、3)水素ガスを発生させ爆発の恐れがあり、4)放射性物質を環境へ放散させる、5)事故後にも再臨界の可能性を持つ、との認識を世界に与えた。
 これに対し溶融塩炉は、1)低圧システムであり、2)燃料は元々溶融状態、3)水が無いので水素ガス発生無し、4)FP元素はある程度塩中にトラップされ放散を軽減、5)事故時には炉底部のドレインプラグで燃料塩を排出し未臨界達成、と定性的には上記の懸念に応える炉概念としてアピールされている。
 トリウム溶融塩炉を声高に唱える推進派には、それが安全性、資源有効利用性、廃棄物低減性、核不拡散性、経済性の全てを解決するかのごとく喧伝する向きもあるが、トリウムは基本的にウランと同様に放射性物質を生む燃料であり、燃料の固体・液体の別ではなくサイクルを閉じることこそが資源の有効利用と廃棄物を最小化する手段であることに違いはない。トリウムはMagic fuel(魔法燃料)、溶融塩炉はMagic reactor(魔法原子炉)という論法は逆効果であろう。
 1970年頃に一旦開発中断となった溶融塩炉開発はやや姿を変え復調の兆しがある。原子力に向けられる目は厳しさを増す一方、世界的には、エネルギー確保と環境保全を両立し得る原子力のポテンシャルを再認識する動きがある。原子力を”rebrand(ブランド再構築)”したいとの想いが溶融塩炉開発を活性化させ、原子力界に新潮流を生み出している。進展を注視したい。

参考文献
1) M. Allibert et.al, “Handbook of Generation IV Nuclear Reactors”, Pages 157-188 (2016)
2) Trevor Grifths et.al., “Feasibility of Developing a Pilot Scale Molten Salt Reactor in the UK”, MSR Review by Energy Process Developments Ltd. (2015)
3) 高木直行ら, 今何故トリウムか, 原子力eye, Vol. 57, No. 4, pp. 4-25 (2011)
以上

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