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福島第一原子力発電所の炉心溶融事故は必然だったのか 此村守(福井大学附属国際原子力工学研究所 客員教授)2018.4.4

 地球の微妙なバランスへの影響を最大限引き延ばす方法として、原子力は魅力的です。自然エネルギーがその普段の利用時からこの地球のバランスに影響するのに対して、原子力は普段は影響を与えません。太陽エネルギーをかすめ取ることもしなければ、物質収支に影響を与えることもしないからです。地球に影響を与えるのは、事故、それも放射性物質を大量に放出するような大事故の時だけです。では、大事故は防げるのか。これを考えるには、福島第一原子力発電所で炉心溶融に至る大事故が起こった原因を考えて見る必要があります。

 福島第一原子力発電所で炉心溶融事故はなぜ起ったのでしょうか?津波が引き金になったことは間違いありません。しかし、例えば1号機には、ポンプが止まって炉心部を冷やせなくなっても、炉心部の熱い水が、屋上付近にある熱交換器で冷たい水になり、また炉心部に戻ってきて、勝手に炉心部を冷やすという、お風呂に似た原理の装置が付いていたのです。

 ここは、もう今は存在しない「原子力工学科」の講義室です。今しも、先生が原子力発電所の仕組みの講義を終え、学生との質疑に入りました。
(生徒)先生、ポンプが止まってしまった時に、水が自然に循環するということはわかりました。でも、格納容器を突き抜ける配管には、必ず格納容器の外側と内側に弁が付いていて、「事故」の時には放射性物質が外に漏れないように、この弁が一斉に閉まると先生はおっしゃいました。そうすると、水は流れなくなるのではありませんか。
(先生)その通り。だから、「事故」の時は弁を開け閉めできるようになっています。
(生徒)開け閉めはどうやってするのでしょうか。
(先生)弁にはモーターが付いていて、これを回して弁の開閉をします。
(生徒)でも先生、電気がなくなれば、弁の開閉はできないと思いますが。
(先生)大丈夫。電気は無くなりません。外から鉄塔でくる外部電源、非常用のディーゼル発電機、大量の蓄電池を備えていますから。
(生徒)それらの電気が全てなくなったら、原子炉は壊れるということでしょうか。
(先生)それでも大丈夫です。格納容器の中に入って、人が手で弁を開ければ良いのですから。

 それでも炉心溶融は起こりました。全ての電気がなくなってから、放射線量が増大するまで数時間程度です。この間に、万一の想定外の事象に対しても備えていたはずの装置を生かせなかったからです。

 なぜ生かせなかったのでしょう。直接的には事業者にその装置を動かす経験がなかったからです。ではなぜ経験がなかったのでしょう。危険性を秘めた装置を動かす事業者は、その危険性が表に出ないように運転する訓練を積みます。これはいかなる分野でも当たり前のことです。なぜなら、そうしなければその危険に自ら巻き込まれ、さらには他人を巻き込むことになるからです。東京電力という事業者にこの能力がなかったとは思えません。

 前回、「安全」を確保するために、
  事業者>規制者>県・市>市民
という仕組みがあることをお話ししました。さらに「安心」が「安全」を劣化させてしまうこともあるということをお話ししました。事業者が安全向上のために行いたいことが、右からの「安心」維持の圧力に負けてしまうこともあるということです。この大事故でこのことが原因であったかどうかはわかりません。
 ただ、「事故時には格納容器を抜ける配管の弁は全て閉まる」ということは、原子力技術者には常識です。しかも、大事故を防ぐ装置はあった。それにもかかわらず、大事故は起きた。その原因が規制側も含めた当事者から語られない限り、同じ型式の原子炉を動かして良いと思う人はいないのではないでしょうか。

 原因の一つとして、停電のない信頼性がとても高い送電網を作り上げ、それを長年維持し続けたという点が挙げられるかもしれません。その結果、誰も長期間電気がなくなることを考えなくなりました。したがって、そのために用意されていた装置は無用の長物と化し、誰も気にも留めなくなってしまったのかもしれません。

 また、別の原因として、日本人に昔から流れている「お上意識」も考えておく必要があるでしょう。原子炉施設の安全の最終責任は事業者にあります。しかし、事業者側に規制側(つまり国)が要求したことを確実に守ればそれで十分であり、それ以上のことをする必要はないという意識がなかったかということです。
 原子炉施設の安全は、高度に技術的な理解が必要です。しかもそれを何世代にもわたって維持しなければなりません。そのためには、規制側と議論し、必要なら規制側の見解を変えさせるだけの力量が必要です。規制側も、「裁判」があるので簡単ではないでしょうが、過去に決めたことであっても、さらに安全を向上させるために、この決め事を修正するという柔軟さが必要です。

 もし福島第一原子力発電所1号機が話すことができたら、「どうして炉心溶融を避ける装置があるのにそれを動かしてくれなかったのか」と悔しがっていることと思います。

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