日本エネルギー会議

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ユーザーに魅力的な非化石価値の取引市場を目指せ 小川芳樹(東洋大学 経済学部 学部長) 2018.4.17

 再生可能エネルギーの利用拡大を図るため、2012年に本格的な固定価格買取制度が導入されて、間もなく6年が経過しようとしている。この間にいささか過熱気味の側面もあったが、再生可能エネルギーの利用拡大は太陽光発電、バイオマス発電などを中心として着実に進んできたということができる。実際に2016年度の電源構成に占める再生可能エネルギー(大型水力を含む)のシェアは15%を超える水準まで拡大した。
 買取制度の本格導入による再生可能エネルギーの利用拡大は歓迎すべき内容ではあるが、将来に向けて懸念される問題がないわけではない。最大の問題点は再生可能エネルギー発電賦課金(サーチャージ)の増加で国民負担が急速に増大していることである。2012年度のサーチャージ単価は0.22円/kWhで標準家庭(300kWh/月)の負担が月額66円、年額792円に過ぎなかったが、先頃のニュースによると今年度の負担額はついに年額1万円の大台に乗るということである。
 2000年以降で固定価格買取制度をいち早く本格化させたドイツの場合も、1次エネルギーに占める再生可能エネルギーの比率が20%近くまで上昇する実績を上げたが、サーチャージの増加によりいつまでも続く国民負担の増大に国民は悲鳴の声を大きく上げている。日本でもこのままサーチャージの国民負担が増加の一途をたどるのであれば、遠からずドイツと同様の悲鳴の声が響きわたる事態を迎えることは容易に想像される。
 このサーチャージによる国民負担の問題への対応も図るため、政府は最近の2~3年にわたって非化石価値取引市場の創設を検討してきた。今年5月にはFIT電源のみを対象とした非化石価値の市場取引が開始される予定である。この非化石価値の証書を入手したユーザーが環境配慮行動としていかに証書を有効に活用できるかという問題は、今後の環境配慮活動に新たな展開を切り開いていく上で重要な論点を提示していると考えられる。
 FIT電源を対象とした非化石価値取引市場の開始が間近に迫っているが、ここではその制度設計が抱えるのではないかと考えられる問題点を2つ指摘したい。指摘する問題点は、非化石価値の証書を市場で最後に入手して活用する最終ユーザーにとってどのような状況と位置付けが望ましいかという視点に立つものである。コスト負担をしっかり負うのが、証書を入手する最終ユーザーとすれば、そこで活用できる価値が残らないことには証書取引の意味をなさないのである。
 非化石価値取引市場の最新の説明によると、非化石証書の価値として「非化石価値」(注1)を主たるものと位置づけ、「ゼロエミ価値」(注2)と「環境表示価値」(注3)を付加的に位置づけている。最終ユーザーによる価値の行使を考えた場合これで良いのであろうか。非化石価値は、高度化法の非化石電源比率算定時に計上できる価値と定義されているが、この価値が主たるものですでに行使されたとすると、非化石証書を入手する最終ユーザーのためには一体何の価値が残っているのであろうか。
 また、FIT電源は最初からそのように認識されて取り扱われているが、非化石証書が市場で別に購入された場合に、購入した価値の行使とFIT電源の取り扱いとの間でダブルカウントの問題が起こっていないかいささか懸念される。温室効果ガスの排出についてはFIT電源に平均的な排出係数が割り振られているようであるので問題はなさそうである。しかし、再生可能エネルギーによる発電という主張はFIT電源を構成比で明示できる点から懸念が残りそうである。
 結局、再生可能エネルギーが有する環境価値のコスト負担を非化石証書の購入者に負わせるのであれば、その環境価値がヴァージンの状態で最終購入者に移転され、環境価値を最終ユーザーが活用できる構造が確立されないと市場は魅力的で活性化したものにならない。非化石価値取引市場はこのような問題点を十分に考慮した制度設計になっているといえるであろうか。環境価値を最後に入手する有力なコスト負担者の存在をきちっと考慮しているのか、いささか心配である。
 最近は日本の中でも海外企業を中心に、「再生可能エネルギー100(REN100)」という環境目標を掲げて活動する企業が急増している。企業がこのような活動を展開しようとすると、自らが再生可能エネルギーの発電事業に手を染めることは難しいので、オフセット活動を可能とする再生可能エネルギーの証書やクレジットの入手が必ず必要になるはずである。このようなユーザー・サイドの行動変化を見据えて、魅力的な非化石価値取引市場の構築を目指すべきではなかろうか。

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(注1)高度化法上の非化石電源比率の算定時に非化石電源として計上できる価値。

(注2)小売電気事業者が調整後排出係数算定時に、調達した非化石証書の電力量に「全国平均係数」を乗じることで算出したCO2排出量を実二酸化炭素排出量から減算することができる価値。
(温対法上のCO2排出係数が0kg-CO2/kWhである価値)

(注3)小売電気事業者が需要家に対して付加価値を表示・主張することができる価値

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