日本エネルギー会議

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分散電源を主力とする電力システムの課題 藤井康正(東京大学 大学院工学系研究科 原子力国際専攻 教授) 2018.5.7

(1)小規模分散電源の長短所
 エネルギーシステムは、エネルギーの「資源生産」とその「最終消費」の間を結ぶシステムであり、燃料、電力、熱などの各種の「エネルギー担体」の「輸送」、「変換」、「貯蔵」などのプロセスで構成されている。エネルギー担体の輸送特性は、経済性、効率、信頼性などの点で異なる。資源生産と最終消費の地理的位置が与えられると、エネルギーシステムにおける変換設備の位置は、「輸送特性が劣るエネルギー担体」の輸送距離ができるだけ短くなるように設定されるのが普通である。
 エネルギー最終消費の現場は、住宅地や市街地など地理的に面的な広がりを持って分布している。そのため、最終消費で使用するエネルギー担体の輸送距離を短くしたければ、そのエネルギー担体を供給する変換設備に関しては、需要家の近くに小規模なものを分散して多数設置することになる。この具体例は家庭に設置された給湯器による温水供給である。
 逆にエネルギー担体の輸送距離を長くできる場合は、少数の大容量の変換設備でも広域に分布する多数の需要家への供給が可能となる。この具体例は、遠隔地の大規模な発電所と長距離送電による電力供給である。また、この考えは変換設備の出力側だけでなく入力側のエネルギー担体についても適用できる。太陽光や風力などの自然エネルギーは面的な広がりを持って分布し、光線や気流というエネルギー担体を光ファイバーやダクトで長距離輸送して一か所に集めることは困難なことから、これらの資源を活用した発電設備は小規模分散型となる。
 熱機関は単純化して考えると、出力は体積に比例し、材料費や放熱損失は表面積に比例する。そのため、出力を大きくしても、費用や損失は2/3乗でしか増加せず、同じ方式であれば大規模なものほど経済的・技術的に有利な傾向がある。
 これは「規模の経済」とよばれ、熱機関を用いる火力や原子力発電設備の大規模化を促す要因となっている。これに対し、太陽電池やバッテリの出力は、パネルや電極の面積に比例し、材料費なども同様に面積に比例すると考えられ、これらの発電設備には規模の経済は期待できない。しかし逆に、小規模であっても単価の上昇や効率の劣化などのデメリットは現れにくく、さらには工場での「量産効果」による低廉化が期待できる。
 小規模の変換設備の建設期間は大規模なそれと比較して短いため、最終需要の伸びや各種エネルギー価格などの将来の不確実性に対するシステムの投資の柔軟性を高められる。また、変換設備を需要地に近接して立地でき、供給信頼度を高められる場合もある。しかし、熱機関を用いた変換設備は規模が小さいほど設備単価が増加したり熱効率が低下したりする。また、集配対象となる資源や需要が特定の狭い範囲に限定される場合では、大数の法則による「ならし効果」が期待できないため、出力や負荷の時間的な変動が激しくなり、設備の運用も難しくなる。さらに、変換設備による大気汚染、騒音や反射光の発生など、居住地への近接化に起因する問題も考えられる。小規模設備の導入にはこのような長短所を総合的に検討する必要がある。

(2)分散電源による需給均衡の実現
 電力システムの最も重要な機能の一つはシステム全体の需給を均衡させることである。従来の中央集権型の電力システムでは、電源周波数の標準周波数(西日本であれば60Hz、東日本であれば50Hz)からの偏差やエリア間の連系線(東京電力と東北電力の間の連系線など)に流れる電力の変化に基づいて、中央給電指令所から火力発電所などの大規模集中電源の出力を制御することで対応してきた。
 しかし、分散電源を主力とする電力システムの場合では、このような火力発電所の制御にはもはや頼れないため、電力貯蔵装置も含めた分散電源の出力や一部の需要機器(ヒートポンプや電気自動車など)の消費電力の制御や調整などがその具体的な手段となる。これらの新しい手段を実現するには、所有者も特性も膨大で多様な小容量の機器を対象とした社会規模の大掛かりな制御や調整の方策が必要となる。
 そのような方策の一つは、地域ごとに物理的に小規模な電力システムを構成し、それを統括する中央制御施設からの指令で電力を地産地消するもので、マイクログリッドともよばれる。類似するもう一つの方策は、アグリゲータ(仲介業者)が、広域に点在する分散電源や特定の需要機器を情報通信技術で遠隔監視・集中制御するもので、仮想発電所(VPP:Virtual Power Plant)ともよばれる。
 これらは従来の中央給電指令所を核とする中央監視制御方式を踏襲するものである。この方式は、電力会社が自社設備を制御する場合には全く問題ないが、他者が所有する機器の制御・調整の方策としては、あまり良いとは思えない。なぜなら、全体主義的な中央監視制御では、機器の所有者の便益は無視され、個人のプライバシーや自由意志が犠牲になる場合も考えられからである。
 一方、従来とは全く異なる方策として、ブロックチェーンなどのフィンテック(Fintech)を活用した生産者(分散電源事業者など)と消費者のピアツーピア(peer to peer)取引が国内外で注目を集めている。ただこれはこれで、システム全体の需給均衡は無視した利己的な取引であり、取引件数が増えるとシステム全体を不安定にする可能性があるように思われる。託送料金制度にも依存するが、そもそも、差別化が難しい電力という商品を対象に、市場取引ではなくピアツーピア取引を行う意義は分かりにくい。
 電力システム全体の需給均衡と個人の便益の最適化を同時に実現するには、やはり分散電源所有者や多くの消費者が参加する自由でオープンな市場での電力取引を通した需給調整が望ましいと思われる。
 ただし、現状では市場取引の時間的粒度が粗く、15~30分単位の同時同量の実現に留まっているが、理想的には電力システムの物理的需給均衡と電力市場の経済的需給均衡を秒単位で一致させられればと思う。また、低圧の配電ネットワークへの太陽光発電という間欠的な自然変動電源の大量導入は、送配電ネットワークの多くの箇所でこれまでにない混雑を引き起こすことも懸念され、市場取引の地理的粒度を配電用変圧器の設置間隔程度に細かくする必要があるようにも思われる。

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