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大阪の地震が見せた素晴らしい関電の復旧力 −電力会社はこの力を維持できるのか?  石井孝明(経済・環境ジャーナリスト) 2018.6.20

■大阪の力と関電の力を地震の復旧で知る

 2018年6月18日、大阪の北部を中心に地震が起こった。震度6弱という大変な揺れで、同日夜時点で3人の死亡、多数のけが人が確認されている。亡くなった方の御冥福と、1日も早い復旧と被災者の方の生活の回復を祈りたい。

 しかし日本の底力を同時に感じた。震度6弱の大地震は、他の国ならば都市機能が崩壊、死者も大量になっただろう。しかし大阪の都市機能は1日でほぼ復旧した。阪神淡路(1995年)、東日本大震災(2011年)、熊本・南九州(2016年)の大震災の経験を活かし、大阪の人々は災害に強靱な都市を作った。

 災害発生1日で鉄道事故による死者はなく、交通、上下水道、通信・電波、石油供給、物流のライフラインもほとんど停止しなかった。これはインフラ企業、物流・運送企業、また道路を保守する公的機関、自衛隊や政府、行政、さらに安全な都市を造った一般市民の努力と能力の高さによるものだ。私は敬意と感謝を示したい。

 素晴らしい成果の一つは、電力の供給状況だ。関西電力の顧客(主に関西圏)は契約口数で1370万口(17年末時点)。今回の地震では最大17万戸が同日朝に停電した。その数は全体に比べるとわずかだ。そして同日午前中に、電力供給はほぼすべて復旧した。電力は生活の柱だ。それを途絶えさせなかった関電とその協力企業の能力の高さを賞賛し、また一日本人として感謝したい。残念ながら、福島第一原発事故以来、電力会社はなぜか社会的な批判を集める傾向にあった。電力会社の優れたところは、素直に評価すべきであろう。

 諸外国では災害で頻繁に停電が起こる。米国南部を2005年に襲ったハリケーン・カトリーナでは、ミシシッピー州の65%の地域、大口電力需要家の半数の100万戸が停電。そして電力供給のコストがかかり、放棄された家や村落があったという。また2012年に同国東海岸を襲ったハリケーン・サンディでは850万戸が停電し、一部地域では復旧まで3週間程度かかったところもあった。もちろん災害の形、国情が違うので単純な比較はできないが、米国に比べて電力では日本の災害での復旧能力が著しく高いことが分かる。

■電力の復旧は早い−安定供給の企業文化

 電力会社は、関西電力だけではなく、災害からの高い復旧能力を持つ。東日本大震災でも、熊本・九州南部地震でも、一週間で停電地域はなくなった。

 電力中央研究所が興味深いリポートを公表している。「東日本大震災・被災地におけるエネルギー利用 実態調査」というリポートだ。(抜粋版)


(図表1)


(図表2)

 電気、水道、灯油、ガソリン、都市ガス、LPガスのライフラインを調べると、復旧が早かったのは電気で1週間後までに95%以上が復旧している。途絶も1週間でほぼなくなった。これは災害地を担った東北・東京の両電力の復旧力の高さに加え、電線が地上に露出しているために他のインフラより整備がしやすいという点もあるのだろう。

 そして電力業界の「絶対に電力供給を絶やさない」組織文化というべきものがある。どの電力会社にも、管内の支社で停電が起きると警報が鳴る仕組みがある。ある東京電力社員が次のような経験を話してくれた。「昼食時に社員食堂で警報が鳴ると、それまでごったがえしていた社員食堂からはあっという間に人が消え、復旧作業に向かう。マニュアルに書かれているわけではない。それが当然の行動で、文化であり、見よう見まねをしているうちに体に染みつき、やがて自分自身の「本能」となっている」。これは尊敬すべき電力業界の文化であり、そして日本に住む者として感謝したい話だ。

 しかし、この電力会社の底力が今後発揮できるだろうか。電力会社を取り巻く状況が大きく変わっている。

 日本では、エネルギーシステム改革で、電力とガスの自由化が進行し、電力会社の発送電分離、小売り自由化などが進んでいる。これまで電力会社は、地域の独占の代わりに地域内の供給義務を負ってきた。ところがその義務は外れ、電力ビジネスは原則自由となった。そして2022年をめどに、発送電分離が行われる。

 私は原則として、あらゆる産業で自由競争を支持する。しかし電力・ガスのようなインフラ産業では、国民生活への影響が大きいので、うまくいっている規制の変更は慎重に行われるべきと、考える。今回の自由化の議論では、電力会社の災害対応能力の高さをどのように維持するかについて詳細な検証が行われなかった。

 電力自由化を勧告した経産省の「電力システム改革専門委員会報告書」(13年2月)では、災害対応と電力会社の供給能力、災害対応力の維持は「期待したい」「電力会社の社内文化の維持を支える制度づくりが必要」という指摘はあったが、具体策が書かれていなかった。つまり、電力会社頑張れという一種の「精神論」で、災害時の供給体制の維持をしようとしているのだ。

 これまで同一の電力会社内で済んでいた災害対策は、自由化の完成後は会社ごとに分かれて行うことになる。そして、電力会社の供給義務はなくなり、顧客との契約で配電が行われるようになった。

 もし災害が起こったら、負担の仕方、人員配置のすべてを事前に決め、詳細な制度設計が必要になるだろう。広範囲の電源喪失や送配電網の復旧の対応まで、突き詰めた取り決めをしなければならない。できなければ、電力の復旧には時間がかかることになるだろう。

■進む電力自由化、「災害に強い」既存制度の長所を評価せず

 前述のハリケーン・サンディによる災害で、米国で電力復旧が遅れた理由の一つに「電力自由化が影響している」(調査した日本の電力会社社員)という見方がある。停電の続いたニュージャージー州では、90年代後半に電力を自由化。それまでは州政府が一部出資した域内の電力会社が供給していた。自由化でさまざまな企業が参入し、一括供給ができなくなった。すると競争が起こり電力価格は下がったが、災害時の復旧やサービスは低下した。経費削減で電力の送配電システムへの新規投資が減り、災害に脆弱になってしまった。同じことが日本で起こりかねない。

 そして新しい動きとして、再エネ発電が増えている。再エネのような分散型電源は災害に強いと主張されるが、そうとは限らない。太陽光など再エネの発電機器は、壊れやすい面がある。これまでの計画的な電力事業と中央集権的なシステムで、災害からの復旧は適切に行われてきた。さらに再エネは天候次第で発電が変わる。電力は発電した電力をためることはできず、即座に使う必要がある。災害の際に発電がコントロールできずに、供給が混乱する懸念もある。

 電力自由化は、東日本大震災の直後の民主党政権で決まった。当時、東京電力の福島第一原発事故と、その後の電力会社叩きが起こり、既存の電力会社の長所、そして供給体制のメリットを冷静に評価しなかった。「災害に強い」という長所が、このまま維持できるのだろうか。電力事業の環境変化が起こっているのだ。

 もう制度改革の後戻りはできない。既存電力のよい伝統を評価した上で、災害時の「もしも」を突き詰めないと、今回の大阪での地震が、「災害からの日本の電力復旧の最後の成功例」になりかねない。

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