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奥能登で自動運転車に試乗して 吉村佳美(フリーライター) 2018.7.1

実父が運転免許を返納

 私事になるが、81歳の父が先月、自動車の運転免許を返納した。認知症というわけではないが、道を間違えたり判断力の鈍りを感じ、周囲からの勧めもあり、応じた形だ。20代から60年近く車に乗り続け、運動神経がよく運転もうまいと言われ続けてきた本人にとっては、やはり残念でさびしいことだと思う。しかし、昨今のニュースで見聞きするように、何かあっては遅い、との判断は間違っていなかったと本人も感じているはずだ。けれどもそれは、近くに住む私の運転手生活の始まりも意味する。
 今、日本の抱える大きな問題である高齢化と過疎化は、生活の足としての自動車のあり方と密接な関わりを持つ。地方でもまだ都市部に住む両親は、20分前後の徒歩圏に大型ショッピングセンターやスーパーマーケットがあり、すぐ近くに路線バスの停留所もあり、かかりつけの病院までタクシーで1メーターかそこらで行くことができる。私自身も車で20分ほどの所に住み、用事があれば両親の所に駆けつけることもできる。
 しかしこれが、いわゆるもっと「田舎」になると、事情は一変する。過疎化のため商店は姿を消し、採算がとれなくなったバス路線は廃止され、病院に通うのすら困難な状況に陥る。若者は都会に移り住んで世話をする人もいない。高齢者は車がなくなると生活できなくなるから、ますます過疎に拍車がかかってしまう。

高齢化過疎地のモデル都市・珠洲市

 私は昨年秋、珠洲市で行われている「自動車の自動運転実証実験」のデモ走行に試乗してきた。石川県の最北端に位置する同市は、人口1万6000人足らず、高齢化率は40パーセントを超え、高齢化過疎地のモデル都市でもある。つまり、将来の日本の多くの地方の姿をここに見ることができるのである。鉄道網は廃止され、金沢からは高速バスで3時間を要す。人々の足はマイカーと、日によっては1日1本しかない路線バス、そしてタクシーといった状況だ。
 実験は2015年から金沢大学工学部が公道を使って行っており、デモ走行は昨年秋に行われた「奥能登芸術祭」のイベントの一環として実施された。障害物を検知するレーザーや、信号機を認識するカラーカメラ、車速のセンサー、対向車や交差点進入車を検知するレーダなどさまざまな機器をボディーのあちこちに取り付けた実験カー(プリウス)に乗り、説明を受けたあと、約5分の試乗を体験した。


金沢大学の自動運転実験カー

技術面以外の課題も

 車に乗り込むとまず目に入るのは、前部座席の中央に設置されたモニター画面である。道路の状況、建物、車、人などの情報が、ここに色分けして提示される。急に飛び出す人、交差点に進入してくる車、ほんの短い間でも、普段私たちがいかに多くの情報を処理しているか、改めて驚かされる。そして自動運転車は、それをAIが担っているのである。
 例えば、信号のない交差点で、道路の両脇に街路樹があり、見通しがきかない場合、自動運転車は交差点前でゆっくりといったん停止し、少しずつ前進して、進入したい道路の左右が見渡せる場所まで出て行く。近くに車の走行がないことを確認して交差点に入る動作などは、まさに私たちが普段行っている運転そのものだ。
 ハンドルもアクセル、ブレーキも全く人が介することなく、技術面ではほぼ完成が見えるところまで来ているようだ。目下の問題点としては、悪天候の場合にセンサー類の感度が落ちることや、運転者同士の譲ったり、譲り合ったりといった微妙なコミュニケーションなどが、まだ不十分だという。阿吽の呼吸というか、アイコンタクトというか、そのようなお互いを思いやる気持ちというのは、やはり人ならではということか。
 そんな中起こったのが、今年3月、アメリカでUberの自動運転実験車が女性をはねて死亡させた事件だ。しかし報道によると、この女性は灯火のない夜間の暗闇の中、事実上、自動車専用道路を中央分離帯の茂みを突っ切って渡ってきたという。これでは自動運転でなくても避け切れたかどうか疑問である。
 とはいえ、こうした場合の責任の所在はどこにあるのか、運転者なのか、自動車メーカーなのか。テクノロジーの開発と同時に、法整備も含めたシステム運用上の問題点もクリアしていかなければならない課題だ。

人口減少と電力事業

 過疎が進むと、行政サービスやインフラもこれまで通りのレベルを保てなくなり、人口流出に一層歯止めがきかなくなる。人口減少はエネルギー、とりわけ電力事業のあり方にも大きな影響を与えると考えられ、これまでの経済規模が保てなくなると、電気料金も上がり、同じ電力会社(既に自由化は始まっているが)でも地域によっては料金が違ったり、あるいは送電線網が維持できなくなり、電気自体が届かなくなるという恐れも指摘されている。現代において、電気のない生活は成り立たない。過疎はエネルギー問題を生み、エネルギー問題がまた過疎を生む。
 今から約20年後、2040年には全国の1800市町村のうち、半分が存続できなくなるといわれている。過疎化は否めないとしても、そのスピードを少しでも遅らせるためには、マイカーや公共交通における自動運転車の実現が急務だと、人影まばらな奥能登の町で試乗を体験して実感した。

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