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高速増殖炉を開発するために必要な条件とは? 此村守(福井大学附属国際原子力工学研究所 客員教授) 2018.7.9

 ウランを電気としてほぼ100%しゃぶりきる「核燃料サイクル」の要となる技術は、高速増殖炉と再処理技術です。高速増殖炉の開発は日本では、茨城県大洗町にある熱出力14万kWの「常陽」で始まりました。「常陽」は実験炉と呼ばれる原子炉で、プルトニウムを使った炉心で熱を発生できること、発生した熱をナトリウムで炉心の外に輸送できることを確認するための原子炉です。炉心からの熱は直接空気に放出しており、電気は起こしていません。日本はこの「常陽」で高速増殖炉の原子炉技術を手にしました。そして、この間に、東海村で再処理技術も手にしました。これが今の六ヶ所村の再処理技術の原型になっています。

 次に手掛けたのが、福井県敦賀市にある熱出力71万kWの「もんじゅ」です。「常陽」が炉心からの熱を直接空気に捨てていたのに対し、「もんじゅ」は蒸気発生器を使って高温・高圧の水蒸気を作り、これでタービンを回して電気を起こす予定でした。原型炉と呼ばれる原子力プラントで、将来の大型実用炉の雛形です。「もんじゅ」を動かすことで、ナトリウム冷却系と水・蒸気系とを連動させた技術が手に入るはずでした。

 しかし、1995年12月に2次系ナトリウムの漏洩事故を起こしてしまい、その情報の取扱の不備で長期にわたり停止することとなりました。2010年に再起動したものの、燃料交換時にトラブルに見まわれ、さらに保守点検の書類の不備により、ついに2016年に廃炉が決まりました。工事が始まったのが1985年ですから、100%出力に至ることなく、31年目に廃炉となったわけです。

 このコラムをお読みいただいている方々から、先生、前回お聞きした将来世代に必要となる「核燃料サイクル」の要である「もんじゅ」を捨てることを認めるのは、先生自身、矛盾したことを言っていませんかと言う声が聞こえそうです。

 技術開発というのはどういうことか考えてみましょう。ある世代が新しい技術の利用に先鞭をつけたとします。次の世代がこれを発展させ、経済性のある社会に有用な技術として浸透させていって初めて技術が完成したと言えるのではないでしょうか。「もんじゅ」の場合はどうであったか。

 建設開始から31年も経つと、先鞭をつけた世代はもういません。人間には寿命がありますから。この間に先鞭の技術を引継げるかと言えば、ほとんど動かない原子力プラントの技術を引継げるとはとても思えません。つまり発展はもちろん維持すらできないということです。

 技術開発で忘れがちなことは、人間の寿命を考えた開発期間が設定されていなければならないということです。一人の技術者が脂ののった期間を過ごせるのは、おそらく25年程度ではないでしょうか。この間に次の世代に技術を渡していくことを考えると、15年程度で一巡するような開発計画であることが理想です。「もんじゅ」も当初は15年もかけることなく、もっと短い5〜10年くらいで次の世代に技術を渡していくことを考えていたと思います。しかし、それはできませんでした。

 現時点での選択肢は二つです。今の世代が、「もんじゅ」の設計書類をよく読んで、自分たちの責任で動かすこと、もう一つは最小限の技術のみを残し、将来の世代に託すことです。

 残念ながら、福島第一原子力発電所の大事故で、今の日本人は自分たちが原子力技術を安全に使えるのか懐疑的になっています。仮に今の世代が自分たちの責任で「もんじゅ」を動かしたとしても、それを次に繋げる世代が現れず、あるいは「もんじゅ」の次の原子力プラントを建設する動機がないとしたならば、動かす意味はありません。

 ではどうするか。将来の世代が本当にこの技術を必要とし、それを維持していく覚悟ができた時に、ゼロからの出発ではなく、最小限のタネを残して置くことだと思います。それは何か。

 一つめは、ナトリウム冷却高速増殖炉の原子炉技術の維持のために、茨城県大洗町にある「常陽」を運転し続けることです。二つめは、ナトリウム関連の研究開発をさらに進め、この過程でナトリウムを直接取り扱う技術を維持することです。三つめは、高速増殖炉用の核燃料を製造する技術を維持することです。これらは、大洗町にある研究所と東海村にある研究所があればできますから、費用の面でも節約できます。最小限の技術者も維持できます。

 この三つの技術の現状を考えてみると、1970年代に「常陽」が動いた時の技術レベルと同じであることがわかります。ですので、将来の世代がもし「高速増殖炉+核燃料サイクル」を必要とし、その開発を再開するのであれば、「もんじゅ」クラスの原型炉の開発をまず開始し、トラブル等の技術を5〜10年程度かけて取得すべきです。これを飛ばしていきなり大型炉を建設するのは、技術的に大きな問題をはらむこととなり、得策ではありません。急がば回れという諺が、この技術開発には必要なのです。

 開発段階にあるものは必ずトラブルを起こします。この段階でのトラブルは、次の完成形に飛躍するためには、どうしても通過しなければならない必要なものでもあります。「事業者」はこのトラブルが安全を脅かすものではないことを、平易な言葉で包み隠さず「市民」に伝えること、「市民」は安全であることを認識したら、多少安心が満足されなくとも「事業者」の運転を許容すること、そしてこの両輪が技術者の世代間寿命を考えて回ること、これが「もんじゅ廃炉」から私が学んだことです。

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