日本エネルギー会議

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当面のエネルギー情勢をどう見通すか? 豊田正和(一般財団法人 日本エネルギー経済研究所 理事長)2018.8.3

 内外エネルギー情勢は相変わらず不透明であり、予測困難度が高い。トランプ政権の対外政策がその度合いを高めている。7月末に発表された日本エネルギー経済研究所(以下エネ研)の「2019年度までの日本の経済・エネルギー需給見通し」等を踏まえて、当面のエネルギー情勢を展望してみたい。
 まず一次エネルギーの4割強、2割強をそれぞれ占める石油とLNGの価格動向。そして再生エネルギーの導入状況。最後に原子力の再稼動の進展状況について、考えてみよう。
 石油価格についてエネ研は、2018年と2019年、バーレル当たり夫々75ドル、70ドルを軸に動くとしつつも、ここ数年の変動幅は大きいと強調した。今年から来年にかけて価格低下が見込まれるとした理由は、去年から今年にかけては30万バーレル/日(世界需要の0.3%)ほど需要過多であったものが、今年から来年にかけては、突発的供給支障が無い限り、50万バーレル/日程度の供給過剰になりそうだからだ。
 大きく貢献するのは、シェールオイルの生産性向上等による米国の原油生産量の拡大だ(120万バーレル/日強)。しかし、ここで見逃せないのは、供給障害の可能性が低くないことだ。イラン核合意からの米国の離脱、そしてイラン原油の一切の輸入を認めないほどの制裁強化故だ。通信機器メーカーZTEへの制裁に苦しんだ中国も今回は慎重姿勢を取る可能性が大きい。
 この結果、イランの生産量が2019年にかけて、150万バーレル/日程度低下しかねない。加えて、ベネズエラへの追加制裁により、同国の減産量も来年にかけて60万バーレル/日に達しかねない。直ちに供給不足にならないのは、OPEC及び非OPECの協調減産参加国がこれを補うと想定しているからだ。しかし、イランはホルムズ海峡の封鎖の可能性を示唆しているし、強硬派のテロにより石油供給施設が損害を受ける可能性も否定できない。その場合の価格上昇は、小さくないだろう。
 LNG価格動向はどうか。2019年に向けて需要と供給の伸びは、夫々、2220万トンと3060万トン(世界需要の7%、供給の9%弱)と予想され、需給は緩和傾向にある。しかし、日本向けLNG価格については、原油価格リンクのものが多い。従って2018年から2019年にかけてのLNG需給は、大きく緩んでも、2018年下期が11.3ドル/MMBTU、2019年通年では10.9ドル/MMBTU程度に高止まりすると予想される。スポット価格が8~9ドル/MMBTUとされることから見ると、石油価格に代わるアジア価格指標の早急な形成が望まれる。
 再生エネルギーについては、全発電量(1兆200億kwh)に占める割合が2012年度の7%から2019年度には13%へとほぼ倍増し、大型水力を入れると17%へと増大する。2012年度に導入された全量買取制度(FIT)の貢献である。
 エネルギー・ミックスにおける再生エネルギーの目標(22~24%)実現に向けて着実な歩みを見せている。しかし、深刻な課題がある。国民の賦課金負担増大である。FIT賦課金総額は、2017年には、単年で2兆円を超え、今後20年間を累積すると、今まで導入をコミットしたものだけで、50兆円を超える。電力代で見れば、2.9円/kwhの上昇(家庭用12%、産業用17%)に相当する。
 2030年以降における再生エネルギーの比率を拡大させるには、ドイツの2倍近いとされる太陽光や、風力の発電コストを低減させることが必須である。メガソーラーに加え、バイオマスについても、一定規模を超えるものは、早急にオークションを導入する必要がある。
 最後に原子力の再稼動の進展状況はどうか。7月末の時点で、規制委員会の審査に合格し再稼働に入った原子炉は、9基に至った(このうち四国電力伊方原発3号機については広島高裁の仮処分により稼働停止しているが、異議申し立て中である)。2019年末までには、更に2基ほど稼働すると予想される。原子力のエネルギー・ミックスの目標(20~22%)実現のためには、30基ほどの再稼働が必要とされており、加速化が望まれる。
 以上を踏まえて、2030年のエネルギー・ミックス作成時における3E(エネルギー安全保障、温暖化ガス削減状況、エネルギー・コスト)に係る目標の2019年度末における達成状況を見てみよう。
 第一に、エネルギー安全保障の指標である自給率だ。目標は24%だが、2019年末時点では、13%弱。未だ半分と言ったところだ。第二に、エネルギー起源CO2の削減量はどうか。
 目標は2013年度比22%弱の削減だが、2019年度末では、13%強となる見込みであり、達成率は6割程度にすぎない。第三に、エネルギー・コストは2030年において、2013年の9.7兆円を下回ることが目標である。現時点においては、再生エネルギーの賦課金負担は増えたものの、石油価格をはじめとする化石燃料コストが大幅低下しているが故に2兆円近く低減し、7.7兆円となっている。
 しかし2030年となると、エネ研もIEA等も、石油価格はバーレル当たり90ドルを上回ると見通していること、そして賦課金が更に拡大することから、2019年の原子力シェアのまま2030年を迎えれば、エネルギー・コストは少なくとも10兆円超に上昇すると考えられる。では、原子力が2019年時点でエネルギー・ミックスの目標を実現したと仮定したらどうか。自給率は23%強に上昇し、CO2の削減量も18%程度まで拡大。エネルギー・コストについては、更に、年間0.9~1.6兆円低減すると考えられる。
 「日本は、原子力が無くとも、何とかなっている」という声が一部にあるが、電力事業者の給電調整とユーザーの省エネ努力により停電していないというだけであり、「電力の質は、3Eの視点から見れば悪化している」。つまり、原子力が不十分な現状では、安全保障上も、気候変動対策上も、目標には、はるかに遠いのが実態であり、エネルギー・コストは、このままの状態で2030年を迎えれば、高コスト状態に直面するだろう。
今夏の異常な温度上昇が一時的なものであり、中東が安定し、エネ研の石油価格の見通しが的確であることをひたすら願うばかりである。

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