日本エネルギー会議

  • 設立趣旨
  • お問合せ

スマート・コミュニティはどのように進めるとよいのであろうか 小川芳樹(東洋大学経済学部 学部長)

 京都議定書の目標達成を目指す計画と対策が本格化し始めた2005年頃からスマート・グリッドと呼ばれる次世代電力網が大いに注目されるようになった。5年後の2010年からは経済産業省による次世代エネルギー・社会システム実証事業が始まり、2011年の東日本大震災の勃発とも深く関連して首相官邸による環境未来都市のプロジェクトが始まった。これらの事業の高まりとともにスマート・コミュニティという総称が広く定着したということができる。その後、2012年に京都議定書の第1約束期間が終了し、ポスト京都の国際的取り組みが2015年末のパリ協定合意まで迷走・足踏みする中で、上述の事業プロジェクトの実施期間も5年間という区切りを迎えることとなった。このようにプロジェクトの実施が区切りを迎える中で、直近までの3年間を振り返ると、スマート・コミュニティに対する熱風の盛り上がりが以前のようには感じられない状況に実は陥ってしまっている。これで果たしてよいのであろうか。

 わが国における電力供給の伝統的な姿は、大規模の電気事業者が大規模の発電所を建設して送電網を用いて基本的に一方向の供給で必要な電力需要を充足するものであった。したがって、電気事業者は最大ピークの電力需要をミートできる発電所の供給能力を整備する必要があり、発電所の稼働率は効率の良い高いものとは決して言えない状況にあった。このように稼働の悪い発電設備を抱えないといけない点がこれまでの電力供給の大きなネックの1つであったといえる。この伝統的な姿に対して、いくつかの技術革新に基づいてスマート・コミュニティが提供する機能は、電力供給インフラを抜本的に変貌させる可能性がある。技術革新の1つは通信技術の進化によって双方向の情報交換が可能となり、一方向の電力供給から供給・需要双方向の需給調整が可能となってきたことである。もう1つの技術革新は、ハイブリッド自動車や電気自動車の進展をもたらしたバッテリー技術の進化によって蓄電機能の整備が可能となってきたことである。

 スマート・コミュニティは、電力需給のあり方を革新的に変化させるポテンシャルを持つ魅力的存在であるが、直近の3年間でその推進力が落ちたようにみえるのはなぜであろうか。1つは、冒頭で述べた実証事業やプロジェクトが再生可能エネルギーの導入拡大の実現を求めており、それが足かせとなっているかもしれない。固定価格買取制度で買取価格に破格の優遇がないと、再生可能エネルギーの導入拡大は進まないので、その進捗の阻害要因となる可能性は大きい。もう1つは、スマート・コミュニティとして描く対象地域の規模である。スマート・コミュニティは、ある意味で新たなエネルギーの供給インフラを構築する作業といえる。最初から巨大なスマート・コミュニティの実現を目指しても、長続きはせず途中で頓挫せざるを得ないであろう。未だに日本を縦断する天然ガスパイプラインが実現しない事態と相通ずるものを感じる。その意味で、着手時点のスマート・コミュニティの適正規模を合理的に検討することは重要であろう。
 
 エネルギー分野が宿命的に背負う課題は、新たな供給インフラの整備には膨大なコストがかかるので、既存の供給インフラを有する者が競争優位のポジションに立てる点にある。スマート・コミュニティは、この供給インフラを新しいものに転換する大きなチャンスであるが、再生可能エネルギーとの合わせ技はさすがに重荷といえよう。既存の分散電源でスマート・コミュニティを実現し、整備できた供給インフラに再生可能エネルギーをつなげる方が合理的ではなかろうか。現在、欧州諸国や中国などでは、石油を燃料とする自動車から電気自動車へのシフトが戦略的に進められようとしており、国際的な方向性としてもそれが定着しつつあるように見受けられる。この結果、自動車用として膨大な数のバッテリーが用いられることになるが、自動車用としてのバッテリーの寿命は短く、この用途で寿命を終えたバッテリーの活躍の場は定置用としてさらに与えられることになりそうである。これは何につながるか、スマート・コミュニティである。
 直近の3年間、スマート・コミュニティを取り巻く熱風は幾分弱まった感が否めないが、スマート・コミュニティがエネルギーの新たな供給インフラを切り開く可能性を有することに再度着目して、スマート・コミュニティの実現方策を戦略的に吟味し直すことが重要ではなかろうか。エネルギー需要家のニーズに寄り添ったシステムの実現という観点からもスマート・コミュニティの実現は重要な位置づけを有していると思う。

  • データベース室
  • エネルギーとは?
  • 世界と日本のエネルギー
  • 原子力の論点
  • 放射線と健康
Facebook Twitter