日本エネルギー会議

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「原型炉」開発のための組織の条件 此村守(福井大学附属国際原子力工学研究所客員教授)

以前このコラムで、「核燃料サイクル」の要の技術は、高速増殖炉と再処理だというお話をしました。福井県で廃炉になった「もんじゅ」は、この高速増殖炉です。このような大事な技術がなぜ捨てられることになったのか、今回はこのことを考えて見たいと思います。

廃炉にすると判断した根拠として政府が上げているのは、責任関係などの「マネジメント」の問題と、福島第一原子力発電所事故後の新規制基準への対応も含めた今後の運転に5,400億円以上の経費がかかるという点です。この根拠はどなたが聞いても妥当な判断と思われるでしょう。

さて、「もんじゅ」のような「原型炉」と、現在日本の電気エネルギーを支えている軽水炉のような「商用炉」とは何が違うのでしょうか。もっとも大きな違いは、これまでにない新しい仕組みの原子力プラントが「原型炉」であるということです。つまり、運転経験の蓄積は皆無で、設計・建設・運転と全て未知の分野であるということです。

「原型炉」を次の段階である「実証炉」と呼ばれるものにまで引き上げるためにはどうすれば良いでしょう。それは、「原型炉」の段階で「未知」と考えているもの、別の言葉で言えば、「未経験の部分」を経験し、技術的に確立させることです。これがなぜ重要なのか。それは、「原型炉」の次に来る「実証炉」には、経済的に引き合うことを示すことが新たに要求されるため、原子炉の出力が必然的に大きくなるからです。このことは、何かトラブルが起これば、その影響は「原型炉」よりもはるかに大きくなります。

「原型炉」では「未経験の部分を経験する」ということが本質的であるとすれば、これを安全を守った上で、どうやって技術者は取得するのでしょうか。「原型炉」を構成する要素は大きく二つです。一つは原子炉をナトリウムで冷却できるかという点、もう一つはナトリウムの熱を安全に水に伝えて蒸気を起こせるかという点です。前者は大洗にある「実験炉・常陽」を運転することで取得できました。また、後者は大洗にあった「蒸気発生器試験装置」で取得できました。この装置は「もんじゅ」の蒸気発生器の6分の1の出力で、液化ガスを燃やしてナトリウムを加熱し、水蒸気を発生させるものでした。つまり、重要な要素についてそれぞれ別に動かすことで、安全を維持しながらトラブルの経験を積んできたということです。「もんじゅ」はこの二つの要素を一つにまとめ、ナトリウム冷却の発電プラントとして様々な経験を積む予定でした。

「原型炉」とは初めての原子力プラントですから、設計段階ではどうしても分からない技術的な課題があります。設計者はそれが事故に繋がらないよう普段と異なる状況が出た時には、運転者の注意を向けるために、警報が出るようにします。運転者はその警報の意味を確認しながら運転し、技術的な課題を一つ一つ解決して経験を積むということが「原型炉」運転の基本的な姿勢です。そのため、「商用炉」では問題とならないような少しの変化でも検出し、警報を発して運転者の注意を引くようにします。これが過去「もんじゅ」でトラブルとされていたことの本質です。

では、「原型炉」での経験はどこに蓄積されるのでしょうか。設計・建設・運転を担う技術者に蓄積されます。したがって、理想的には20年位で「原型炉」の運転を終了することが望まれます。この技術者の経験は、マニュアルとして残り、さらに先輩の背中を見て育っていく後輩が受け継いでいきます。つまり、原子力プラントと言っても、その技術の継承は、国内の伝統文化の継承のプロセスとなんら変わりがないのです。

このような「原型炉」の仕事に携わる技術者の資質として何が必要でしょうか。自己の興味分野には強い関心を示すがそれ以外の分野には全く無関心な「研究者」でもダメですし、マニュアルに書かれたことあるいは上司に言われたことだけを忠実に守り通す「運転員」でもダメです。「原型炉」はそれが最初の原子力プラントであると言う特徴から、それに従事する技術者には、他分野にも関心を示す「研究者」的な要素とルールを守るという「運転員」としての要素の両方が要求されます。

「もんじゅ」のマネジメントの問題で、この「原型炉」技術の完成に必要な人材の資質という視点が抜けていたとは思えません。ではなぜうまくいかなかったのか。一番大きな問題は、時間がかかりすぎたことです。つまり、人の寿命という視点が抜けていたことです。時間は冷酷で、人には年を取らせますし、機械には性能を劣化させます。これを解決する方法はただ一つです。できるだけ早く予定されていた開発項目を遂行してしまうことです。しかし、予定外のことが起こった時には、組織内部にとどまらず、組織外との交渉が必要になります。これに失敗した、このような交渉を軽視した、別の言い方をすると、「研究者」、「運転員」の他に第三の「対外交渉者」の重要性を軽視したことが問題の本質なのだと思います。

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