日本エネルギー会議

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我々は、何故水素を必要としているのか? 豊田正和(日本エネルギー経済研究所)

本年10月23日、東京にて、世耕経済産業大臣が主催する世界で初めての水素閣僚会議が開かれた。閣僚級を含め21か国からの政府、国際機関、企業、シンクタンク等が参加した。午前中に開かれた閣僚会議においては、技術協力及び規制・標準のハーモニゼーション、安全性等に係る情報共有、水素の利用可能性調査・評価、安全性等に係る教育・アウトリーチ活動など、4項目の国際協力に係る東京宣言がまとめられた。
 
今、何故、水素が必要なのだろうか。

 少なくとも二つの理由があるように思う。一つは、当然ながら、気候変動への対応であり、第三のゼロ・カーボン・エネルギーとしての役割である。2015年におけるパリ合意では、工業化前と比べて、世界の平均気温上昇を2℃未満に抑えること、加えて、1.5℃未満を目指すこととされている。そのために、温暖化ガスの排出量を削減する必要があり、各国は、原則2030年までの温暖化ガスの削減目標を提出した。しかし、その削減は容易ではない。欧州は、1990年を基準として40%の削減、米国は、2005年を基準として2025年までに26~28%の削減、日本も、2014年に策定されたエネルギー・ミックスを前提として、2013年を基準として26%の削減を目標とした。一方、中国、インドを含めて、多くの新興国は、原単位(CO2/GDP又はGHG/GDP)の改善目標を提出した。経済成長が、原単位の改善程度より、大きければ、温暖化ガスは、減少しない。結果として、削減目標の合計は、2013年の排出量より増加している。IEAによれば、2014年以降ほぼ横ばいだった排出量は、2017年には、再び増加に転じている。

 しかし、話は、2030年に止まらない。G7各国は、2050年までの温暖化ガス80%削減を原則としてコミットしているとされる。日本と、イタリア以外は、その道筋を明らかにしている、と言われるが、多くの国は削減目標の数字はあるが、具体的なエネルギー・ミックスを明らかにしているわけではない。各国皆、いわば「気合」で、削減すると主張しているように見える。
80%の温暖化ガスの削減のためには、実は、電源は、実質カーボン・フリーでなければならない。再生エネルギーが大幅に伸びて、原子力が現状維持、あるいはその目標が実現できても、全電源のカーボン・フリー化は容易ではない。脱原子力を目指すドイツは、いわば再生エネルギーのみの一本足打法だ。従って、エネルギー消費を半減するとしているが、多くの人が、実現は困難とみているようだ。

 日本も含め、要は、ゼロ・カーボン・エネルギーが足らないのだ。そこで再生エネルギー、原子力に次ぐ、大量のゼロ・カーボン・エネルギーとして期待されるのが水素というわけだ。ちなみに、水素は、石炭を含め、化石燃料から生産して、CO2をCCS(炭素貯留技術)により埋める手法のほか、再生エネルギーの電気を使って水を電気分解する方法と、少なくとも2種類ある。課題は、コスト削減だが、技術開発を加速化すれば十分可能だろう。

 2つ目は、化石燃料産出国、とりわけ石油輸出に国家経済を依存する中東諸国の混乱を回避し、これらの国々がエネルギー変革を円滑に進めることができるようにするためだ。
弊所では、昨秋、石油需要ピーク分析を発表した。その仮定は、新車に占めるゼロ・カーボン車(電気自動車、及び燃料電池自動車等)の割合を、2030年で30%、2050年で100%とする単純なものであり、この仮定の下では、2030年を超えた頃に、ピーク需要期がやってくる。この仮定を、非現実的と言い切れる人は少ないのではないか。ピークが来れば、まずは、石油価格の大幅低下が起きるだろう。シェール革命により、原油市場の需給が緩和すると認識されただけで、140$/バーレルにも上昇した原油価格が、一時的にせよ30$/バーレル台に低下したのだ。未来永劫、石油需要が上向かないとなれば、低下したままであろう。

 一見、消費国にとって明るいニュースに聞こえるかもしれない。しかし、2030年頃に、中東が、石油依存経済から脱却することは簡単ではない。次に起こりうるのは、中東諸国の社会経済の混乱であり、結果として石油価格の高騰を招きかねない。石油需要のピーク時までには、世界経済の石油依存脱却は終わっていない。2050年においても、実は、現在と同じくらいの石油需要はありうるのだ。そのほか、再生エネルギーの大幅普及、抜本的な省エネの進展など、石油需要は、様々な理由でピークに達しうる。その時の中東諸国の混乱は、消費国の混乱にもつながりうる。いわば1970年代の石油危機の再来のようなものだ。
 
 化石燃料輸出国が化石燃料を使い続けつつエネルギー変革を実現させるのが水素というわけだ。化石燃料の消費国と生産国が、エネルギー変革を円滑に進めるために、水素は、担い手であると同時に、橋渡しの役割をも果たしうる。幸いにも、日本は、世界最先端の水素製造・運搬・利用技術を有している。日本への期待は大きい。

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