日本エネルギー会議

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「もんじゅ」廃炉後の日本で高速増殖炉開発を続ける意義 此村守(福井大学附属国際原子力工学研究所 客員教授)

「遠い将来に原子力が必要になるかもしれないが、今の時代にこれ以上原子力は必要ない」というのが今の大多数の日本人の意識ではないでしょうか。それは、誰が何と言おうと、石油を自分の世代ではまだ十分使えると思っているからです。今回は、このような世の中で、「核燃料サイクル」の要の技術である「高速増殖炉」をどう進めたら良いのか考えてみたいと思います。この議論のためには、いくつか前提条件を明確にしておく必要があります。

まず、燃料を再生産できる「核燃料サイクル」を実用化して、長い期間にわたりエネルギーの持続性を確保しなければならない時期は、100年くらい先だろうということです。石油・石炭・天然ガス・使い捨て型燃料の軽水炉があるからです。また、開発途上国のエネルギー需要が激増すると言われていますが、立地点、建設費用、原子力人材を考えると、そう簡単に原子力を導入できるとは思えません。つまり、ウラン需要は今予測されているほどは伸びないということです。従って、軽水炉の燃料であるウランが足りなくなることもすぐには起きません。このことは、大型の高速増殖炉である「実証炉」を、今建設する必要はないということです。これはまた、研究開発のための時間が十分にあるとも言えます。

二つ目の大事な点は、どのような技術でも避けられないのですが、軍事技術との関連です。原子力は軍事力である原子爆弾として実際に使われ、壊滅的な被害を与えたという事実があります。軍事技術とは切っても切り離せません。このことは、原子力の研究開発をどの国と進めるかという時に重要な判断材料となります。今の日本の立場であれば、米国かヨーロッパに限られます。燃料の形態で言えば、米国は金属燃料、ヨーロッパ(フランス)は軽水炉と同じセラミックス酸化物燃料です。「もんじゅ」はセラミックス酸化物燃料でした。

三つ目の大事な点は、開発すべき技術は何かということです。前回のコラムで、「原型炉」で開発すべき技術は大きく二つあることをお話ししました。一つは原子炉をナトリウムで冷却するという原子炉技術、もう一つはナトリウムの熱を安全に水に伝えて蒸気を起こす蒸気発生器技術です。

「核燃料サイクル」と密接に関係する原子炉技術である燃料に着目して、今後の研究開発の方向を考えてみます。「もんじゅ」で開発してきた燃料は、軽水炉と同じセラミックスの酸化物です。この技術は「もんじゅ」が廃炉となったため実用化まではいけませんでしたが、研究開発の段階は終了しています。これからは実際に使用して、必要なら燃料の密度を上げたり、燃料形状の公差をもっと大きくしたりする研究開発の方向が考えられます。

一方、燃料の形態を全く変えてしまうという方向もあります。すなわち米国が開発している金属燃料を研究開発することです。セラミックス燃料の融点2800度に対し、金属燃料の融点は1100度程度であるため、構造材である鉄材(融点1400度)を溶かさないはずですが、金属燃料と鉄材とが共晶を作るため、もっと低い温度で両者とも溶けることが知られています。そのため、原子炉が経験するであろうあらゆる条件で、安全を維持できるよう原子炉設計をしなければなりません。

従来、高速増殖炉の燃料として、セラミックスが良いのか金属が良いのか盛んに議論されてきました。「もんじゅ」が存在したため、基本的にセラミックスを使うということが日本では大前提になっていました。しかし、今は「もんじゅ」というタガがなくなり、実用化段階の原子炉の自由度が増した以上、将来の世代が最も良いものを選択できる材料を揃えることが、高速増殖炉開発の意義と言えないでしょうか。今の世代の仕事として、金属燃料を使った「技術試験炉」を研究開発することが最も良いと思います。

もう一つの蒸気発生器の技術は、燃料がセラミックスであろうと金属であろうと、冷却材としてナトリウムを使う限り燃料の形態に依存しません。つまり、原子炉技術とは独立した技術と言えます。

話を原子炉技術に戻して、金属燃料を使った「技術試験炉」の場合、その研究開発は米国と共同で行うことが最良です。米国の目に見えるところで研究開発を行うので、一番厄介な核不拡散の問題を回避できるからです。例えば、金属燃料の製造および再処理を米国で行い、日本に金属燃料の「技術試験炉」を建設できれば、原子炉技術の維持には最高です。どのような原子炉が良いでしょうか。夢は膨らみます。熱出力30万kW(2ループ)の「技術試験炉」はどうでしょう。熱出力72万kWの「もんじゅ」では1ループあたり熱出力24万kWの設計をしましたが、最終的にはここまで動かした経験はありません。「常陽」は1ループあたり熱出力7万kWです。「技術試験炉」では1ループあたりの熱出力が15万kWと「常陽」の2倍ですから、「常陽」での実績が十分活かせるレベルです。必要なら、この原子炉を複数組み合わせて発電するのです。また、流行りの小型炉への応用もスケールダウンの方向ですから容易です。

「もんじゅ」のように、最初から原子炉技術と蒸気発生器技術とを組み込むと一度にたくさんのお金がかかります。後年、蒸気発生器技術を組み込めるように設計しておいて、最初は空気冷却器を使った原子炉技術とし、金属燃料の研究開発に集中した方が良いと思います。蒸気発生器のトラブルは原子炉を止めてしまいますから。

最後に、一つだけ記憶しておいていただきたい点があります。「もんじゅ」が廃炉になる要因の一つとなった、警報レベルの設定です。「もんじゅ」では、未経験の部分があるため、安全策をとって、非常に小さな変動を警報レベルとしました。このレベルを保安規定に記載したため、頻繁に止まることとなりました。本来は、「警報」ではなく、「状態監視」レベルとして、「運転員に注意を促すが保安規定での対応を必要としない」レベルを設けるべきでした。こういった実務での「もんじゅ」の経験を新しい「技術試験炉」に適用していけば、安全を確実に維持したまま、本物の原子炉を無駄に止めることなく、研究開発を進めることができると思います。

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