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「水素社会」の実現近づく!安価な原料で水素を大量製造 松本真由美(東京大学教養学部環境エネルギー科学特別部門客員准教授)

エネルギー自給率がわずか8%の日本。一次エネルギーの9割超を、海外からの化石燃料に依存し、燃料輸入に毎年何兆円もの国富が流出している。エネルギー安全保障の確保、さらに地球温暖化問題に目を向け、その課題解決を見据えた技術開発が求められている。その両面から有力な選択肢として期待されるのが、「水素」利用である。

2017年12月26日、再生可能エネルギー・水素等関係閣僚会議で「水素基本戦略」が決定され、水素社会の実現に向けた動きが活発化している。この「水素基本戦略」は、2050年を視野に入れて目指すべきビジョンと、その実現に向けた30年までの行動計画が示されている。水素を再生可能エネルギーと並ぶ新たなエネルギーの選択肢として提示し、世界の最先端を行く日本の水素技術で世界のカーボンフリー化を牽引していく道筋が示された。目標として、水素の製造コストをガソリンや液化天然ガス(LNG)などと同等程度の水準まで低減することを掲げている。具体的には、現在1N㎥(N㎥=0℃、1気圧の状態でのガス量)あたり100円のコストを、2030年には30円、将来的には20円に下げることを目指している。

水素のコスト低減を実現するための条件として、①安価な原料で水素をつくる、②水素の大量製造や大量輸送を可能にするサプライチェーンを構築する、③燃料電池車(FCV)のほか、発電、産業などでも大量に水素を利用する、ことが重要である。①と②については、海外の安価な褐炭(低品位な石炭)や未利用資源などから水素を製造し、日本に輸送する国際水素サプライチェーンの開発プロジェクトが進められている。

その一つが、南東部のビクトリア州の褐炭から水素を取り出し、―253℃に冷却して液化した上で日本に海上輸送する計画である。オーストラリアに埋蔵する褐炭の量は、日本のエネルギー需要の240年分に相当するとされる。褐炭から水素を製造する際に排出されるCO2は、オーストラリア連邦政府・ビクトリア州政府が進めているCCS(二酸化炭素分離回収・貯留)プロジェクトのひとつ「CarbonNETプロジェクト」と連携して、将来は地中に貯留する予定である。液化水素は輸送効率が高いメリットがある一方、液化・輸送・貯蔵において専用設備が必要で、また長期間になるほど気化する割合が高くなるため、長距離輸送への適用には断熱効率の向上や気化水素の再利用技術の確立などの課題を解決する必要がある。川崎重工業や電源開発、岩谷産業、丸紅、豪AGLエナジーの5社がコンソーシアムを組み、現在は水素製造に必要な機器の製作や、液化水素を輸送するための特殊な船の製造などを進めている。2020年の日豪実証実験の総事業費は約416億円(4億9600万豪ドル)とされ、20年代半ば頃には商用化を目指す。

図)日豪褐炭水素サプライチェーンプロジェクトの概要 出典)資源エネルギー庁

日本とブルネイ間においてもNEDOの補助事業「水素社会構築技術開発事業/大規模水素エネルギー利用技術開発」に採択され、国際水素大量輸送実証プロジェクトが進められている。ブルネイの未利用資源由来からの水素を有機ケミカルハイドライド(OCH)法により海上輸送し、火力発電の燃料として利用する計画である。OCH法は、液体の有機媒体(トルエン)に水素を反応させ、異なる化学物質(メチルシクロヘキサン:MCH)に変換、安定化させて輸送する方法で、水素を常温・常圧で扱うことができるため、より安全に大量貯蔵、長距離輸送ができることが期待されている。さらに貯蔵や輸送のための専用設備を必要とせず、タンカーやタンク、ケミカルローリーなど既存の石油流通インフラを利用できるのもメリットである。一方、MCHから水素を取り出す際に200~300℃の熱供給が必要となり、これがエネルギー効率の低下を招くという課題もある。現在、ブルネイに水素プラントを、神奈川県川崎市臨海部に脱水素プラントを建設中で、2019年12月に完成予定である。常温・常圧下の液体で海上輸送された水素は、川崎市の脱水素プラントで気体の水素に戻して利用者に供給されるが、この水素を燃料とする火力発電所での実証実験は2020年1月~同年12月に実施される見通しである。千代田化工建設、三菱商事、三井物産、日本優先の4社が、次世代水素エネルギーチェーン技術研究組合(AHEAD)を設立し、本実証事業に取り組み、実用化を目指す。

写真)メチルシクロヘキサン(MCH)

北米や欧州では天然ガスパイプラインが発達しており、中でもドイツは水素活用を進めており、水素専用パイプラインも敷設している。パイプラインが発達していない日本において水素の運搬は課題であり、需要を拡大できれば、運搬コストのスケールメリットが出てくる可能性がある。海外から安価な水素を大量に調達する国際水素サプライチェーン構想も、需要面から火力発電用の燃料(混焼あるいは専焼)として大量に水素を消費する水素発電の実現が必至である。2016年3月に改訂された政府の「水素・燃料電池戦略ロードマップ」では、2020年代後半での水素発電と大規模な水素供給システムの確立を目指し、2030年ごろには水素発電の本格導入を見据えている。すでに水素発電の導入に向けた取り組みとして、NEDO事業の一環として、2018年4月大林組と川崎重工業が、神戸ポートアイランド(市街地)において水素燃料100%のガスタービン発電による熱電供給を世界で初めて実施し成功している。水素利用は、カーボンゼロ社会に向けて日本が貢献できる重要な取り組みであり、産業競争力を持てる分野でもある。水素社会の実現に向けた国内外の動向を今後も追っていきたいと思う。

※次回は、「海外における水素利用の動向」について

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