日本エネルギー会議

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核燃料サイクルと3E+S 山口彰(東京大学大学院 工学系研究科 教授)

2018年の7月に閣議決定された第5次エネルギー基本計画の序文は以下のように述べている。“戦後一貫したエネルギー選択の思想はエネルギーの自立である。膨大なエネルギーコストを抑制し、エネルギーの海外依存構造を変えるというエネルギー自立路線は不変の要請である。今回のエネルギー選択には、これにパリ協定発効に見られる脱炭素化への世界的なモメンタムが重なる”。 原子力基本法が原子力利用の目的とするのは、“将来におけるエネルギー資源を確保し、学術の進歩と産業の振興とを図り、もつて人類社会の福祉と国民生活の水準向上とに寄与する”ことである。原子力のエネルギーは、エネルギーの自立を可能とし、かつ脱炭素化を両立させること、エネルギー資源の確保に繋がることから、将来にわたってもきわめて意義高きものと位置付けられるであろう。核燃料サイクルについては、“引き続き関係自治体や国際社会の理解を得つつ取り組むこととし、再処理やプルサーマル等を推進する”と述べる。使用済燃料の処分に関する課題を解決し、将来世代のリスクや負担を軽減するためにも、核燃料サイクルは、高レベル放射性廃棄物の減容化・有害度低減や、資源の有効利用等に資するからである。

高速炉とプルトニウム政策については、第4次エネルギー基本計画と異なるところが二点ある。もんじゅが廃止措置への移行を決定したこと、もうひとつは、利用目的のないプルトニウムは持たないとの原則を引き続き堅持しプルトニウム保有量の削減に取り組むとしたことである。もんじゅの廃止措置に関連しては、「高速炉開発の方針」(2016年12月原子力関係閣僚会議決定)に基づきロードマップ案が2018年12月に提示された。ロードマップ案では、2014年時点の世界のウランの既知資源は135年分に相当するも、必要な生産能力拡張への投資が十分に行われかったり、新たなウラン需要により天然ウラン価格が高騰したりするリスクを指摘する。短期的に見れば、我が国が十分なウランを確保できなくなることはエネルギー需給政策実現の赤信号である。長期的に見れば、十分なプルトニウムが確保できなくなることは核燃料サイクル実現の赤信号である。高速炉とプルトニウム政策は、再処理工場の竣工と並ぶ、我が国のエネルギー自立のための重要政策なのである。

かつて、エネルギーをもっとも秩序あるかたちで取り出したのは蒸気機関であった。蒸気機関は、19世紀には工業化の原動力であり豊かさの象徴でもあった。石炭はその主役であり、研究者や技術者は、ひたすら少ない石炭でより多くの仕事が取り出せるよう苦心した。それから百余年、戦後の荒廃した国家を立て直すために、我が国は一足遅れて工業化と豊かさを追い求めた。第5次エネルギー基本計画は我が国のエネルギー選択の歴史を振り返り、これまでに4つのエネルギー選択があったとする。図は、日本のこれまでのエネルギー選択の分岐点を示している。第一の選択は1960年代の国内石炭から石油への転換である。経済成長がもたらされる反面、エネルギー自給率は大幅に低下するとともに石油依存の構造となった(エネルギー自給率)。第二の選択は1970年代。二度の石油危機を経験して電力料金が2倍になり、脱石油への転換が図られ原子力発電の導入が加速された(エネルギーの経済性)。1990年代には第三の選択を迎える。電力自由化の流れの中で温暖化抑止が求められる(環境適合性)。これまでの転換はいずれも原子力発電の役割を高め明確化するものであったといえる。実際に、2009年に「2020年までに1990年比で25%削減する」という目標を国際公約し、原子力発電の比率を50%以上にするとされた。第四の選択は2011年の東日本大震災を受けてである。停電が長期にわたり、原子力の安全に対しての信頼が失墜し、再生可能エネルギーの拡大が脚光をあびる(安全なエネルギー)。これらをもって3E+Sと称している。


図 日本のエネルギー選択総合資源エネルギー調査会基本政策分科会資料(出典)

このように、戦後のエネルギー選択で追い求めてきたものは豊かさを実現し維持することであった。その過程で3E+Sの制約が顕在化してきたと考える。現在は再生可能エネルギーの限界と過大なコスト負担が顕在化し、原子力発電所の再稼働は遅々として進まない中、パリ協定の発効にともなう境界条件が課された。エネルギー基本計画は、技術間競争の高まりによる可能性の拡がりと、その帰趨は不透明であるという不確かさの中で野心的な複線シナリオを標榜している。その全方位的な方針においてエネルギー選択を的確に実施するための科学的レビューメカニズムが導入される。持続可能な社会を求める要請と核燃料サイクル政策がうまく適合することが不可欠であり、その点こそ軽水炉の時代から進化した高速炉と核燃料サイクルの目指すゴールであると思う。
核燃料サイクルの意義は、資源の有効利用、高レベル放射性廃棄物の減容化、潜在的有害度(放射能レベル)の低減の3点である。また、プルトニウム管理においても有用な役割を果たす。エネルギーの自立を求めてきた我が国にとって「資源の有効利用、高レベル放射性廃棄物の減容化・有害度低減等の観点から、使用済燃料を再処理し、回収されるプルトニウム等を有効利用する核燃料サイクルを推進する」とする政策は3E+Sの実現を手繰り寄せる鍵である。今一度、核燃料サイクルと高速炉の意義と価値を再考するべきではないか。

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