日本エネルギー会議

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新国富指標から考えるエネルギー技術の在り方 馬奈木俊介(九州大学 主幹教授)、田中健太(武蔵大学 准教授)

近年、脱炭素社会形成のため、世界的に再生可能エネルギーを中心とした技術開発に大きく投資が行われる状況にある。こうした現状から化石燃料関連に関する技術開発や普及に関しては、世界的な脱炭素の動きから逸脱しているとして、現状では評価が著しく低下してしまっており、石炭火力など、化石燃料の依存が大きい日本が国際的に非難されている。しかし再生可能エネルギーに偏った技術オプションによって、本当に持続可能な社会・経済を維持することが世界的にできるのであろうか?これまでドイツをはじめ、多くの先進国において積極的な再生可能エネルギーの普及が進んできた。しかしながら、世界全体を見て、CO2排出量の増加にいまだに歯止めがかからず、2018年においても、前年よりも温室効果ガスの排出増加が起きているという報告が国連開発計画の報告書においても報告されている。

長期的に将来を見据えた場合、再生可能エネルギーの技術開発や普及は重要な課題であることに間違いはない。しかし最も重要なことは、気候変動を含め、社会経済の持続可能性を十分に考慮したうえで、世界全体として、それぞれのエネルギーをいかに利用していくか、考える必要がある。現在の社会経済を支えている、それぞれのエネルギーの寄与がどの程度なのか、また長期的にどのようになるのか、概観したうえで、エネルギー関連技術をどのように発展、普及させるべきか考える必要がある。そこで本稿では、現状の各エネルギー資源が経済社会に対して、どの程度貢献しているのか、新国富指標を用いて考察を行い、今後のエネルギー関連技術の在り方に関して、考察を行う。

新国富指標は豊かな社会・経済を生み出す資本全体を貨幣価値ベースで推計した指標であり、ノーベル賞受賞者である故ケネス・アロー氏、パーサ・ダスグプタ名誉教授(ケンブリッジ大学)といった面々が参画し、推進されたプロジェクトを起点とした新たな経済・社会をとらえる指標である。新国富指標は主にこれまでの議論されてきた人の豊かさをとらえる人的資本(Human capital)、経済的(物的)な豊かさをとらえる人工資本(Manmade Capital)、持続的に利用や管理が必要となる資源や自然などをとらえる自然資本(Natural capital)の3つの資本の合計から計算される。こうした資本を維持することで、将来世代の福祉を担保するとともに、現代世代の状況も評価可能な指標として用いることができる。ここでの福祉は各資本から供給される物的、質的なサービス全体を指しており、直接的な金銭的価値だけでなく、間接的にうける恩恵(例えば、森林があることによる洪水の緩和の効果など)も含まれている。実際に筆者がおこなっているプロジェクトチームでは、推計された新国富指標が現代世代の幸福と正の相関関係がある可能性を示す結果を得ており、新国富指標の有用性を示す結果といえる。この新国富の推計結果を世界的に取りまとめ国連の報告書が2014年より公表されており、現在の最新版である2018年版にはエネルギー資源に関しても報告がされている。

とくに2018年に発表されたこの報告書では、再生可能エネルギーの新国富にたいする貢献程度についても、初めて指標化を行う新たな試みが行われている。指標化の結果、再生可能エネルギーの寄与はとくに、ヨーロッパの先進国においては、一定の貢献度合いが認められる。報告書では再生可能エネルギーに対する投資ストック額を再生可能エネルギー資本(Renewable energy capital)として計算し、その再生可能エネルギー資本を自然資本で除した比率を指標として分析に用いている。この指標において、ベルギー、デンマークなどで高い再生可能エネルギー資本の蓄積が見られ、特に主要な国でみると、ドイツでは自然資本対比で6.4%まで寄与するほどのストックが積み重ねられている。そのほかにもデンマークでは10.4%、イギリスでは12.8%となっている。日本も9.8%の寄与程度を示している。しかし開発途上国を中心に多くの国ではほとんど再生可能エネルギーストックの蓄積が、相対的に極めて小さい、つまり新国富に対する貢献度合いが少ないことがわかった。

こうした結果は多くの開発途上国や新興国において、その国の現在の福祉にとって貢献しているエネルギー源が化石燃料中心であるということを示しており、現在世代の福祉や持続的成長のためには、短中期的には化石燃料にまだまだ依存する必要があるということを示している。実際に自然資本のなかでも大きなシェアを示しているのが、化石燃料である。とくに石油は世界全体の自然資本の22%相当を占めており、その他の化石燃料でも、石炭が17%、天然ガスは7%程度のシェアを占めている(図1参照)。

こうした結果は再生可能エネルギーの普及が持続可能な社会経済に対して、寄与が少なく見えるが、最新の新国富指標の考察からは長期的な視点で見たときに、脱炭素化や低炭素化をより積極的に進める必要性もみられる。石油、石炭といった化石燃料については、確かに現状の自然資本のなかに占める割合は大きい。しかしこうした化石燃料は多くの国や地域において、新国富への寄与が減少を続けている。このことは気候変動問題の高まりから、こうした資源自体の評価(価格)が減少し、その結果として、指標自体が減少した可能性と、資源ストック量自体の減少の2つの可能性を示している。どちらの可能性にしても、今後の将来世代まで考慮した長期的な新国富の維持には再生可能エネルギーなどの脱炭素技術の普及、拡大は必要不可欠であるということも考察される。

こうした背景から、今後の日本における技術開発についても、世界的な潮流である再生可能エネルギー関連技術に対しての投資は必要不可欠であるといえる。しかし開発途上地域などにおいて、化石燃料の利用や経済への依存状況を大きく変化させることは、当該地域の自然資本自体を減少させてしまい、現状の現代世代の福祉の供給を減少させてしまう可能性もある。現状の開発途上国における化石燃料に依存した経済・社会を無理に変化させるのではなく、それをより効率的に運用するような技術移転などを行うことにより、現状の気候変動対策と持続可能な発展の両立を図る一つの手段として考えうることができると考えられる。そのため、化石燃料の効率的な活用等に関しても、技術開発を今後も続けるべきであり、気候変動対策に対しての技術的オプションを留保するとともに、長期的な脱炭素化に向けた準備を進めることが、新国富の維持や増加の面からは必要であると考えられる。気候変動対策は世界的に急務に取り組むべき課題である。しかし世界には貧困や水産資源などの共有資源利用問題、気候変動以外の環境問題など、まだまだ解決、緩和すべき問題があり、こうした問題の根底を成す経済活動にはエネルギーが必ず関係性している。そのため真の経済・社会の持続可能性を客観的に指標化することで、気候変動問題を含めた様々な問題とエネルギーの持続的な利用を考慮した政策立案に対して、新国富指標が活用できる可能性は高いといえる。

図1: 自然資本における各資源のシェア(1990年~2014年平均)
注)Managi and Kumar (2018) “Inclusive Wealth Report 2018”より作成

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