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世界に認められるワインを!福島復興めざすワイナリー計画 吉村佳美(フリーライター)

昨年秋、福島の復興の現状を知る勉強会に参加する機会を得た。帰還困難区域ではフェンスが張られた向こう側で、ガラスが割れたショーウインドウに当時のままの洋服が風にはためいている光景を見て、何ともやりきれない気持ちになった。

しかし、福島の時間は止まったままではない。
双葉郡川内村では、高田島地区の3ヘクタールの圃場(ヴィンヤード)でワイン用のブドウを栽培している。マイクロバス1台が、やっと通れるような細く急な山道を登って行くと、阿武隈山地の南東向き斜面にブドウ畑が広がっていた。
川内村でのワインプロジェクトの発起人はフランス在住経験があり、ワインをこよなく愛する北村秀哉ふくしまワイン広域連携協議会事務局長(東電HD復興調整部長)。滞在中足繁くフランスのワイナリーを訪れたという北村事務局長によると、この斜面は気候や景色がどことなくブルゴーニュにも似ているとか。果樹栽培が盛んな福島で、なぜワイン用のブドウが作られてこなかったのか、不思議にすら感じたそうだ。
「土産物としてではなく、世界に認められるワインを。目指すはブルゴーニュ!」。そんな北村事務局長の熱い思いを受けて、川内村を筆頭株主に「かわうちワイン(株)」が設立され、2016年に2100本の苗木を植えたのを皮切りに、今ではシャルドネ、メルロー、カベルネソーヴィニヨンなど1万本のブドウを育てている。


向かって左側がシャルドネ、右側がメルロー、カベルネソーヴィニヨン

花崗岩主体の水はけのよい地質。心配される福島第一原発の事故の際のセシウムによる環境汚染だが、北村事務局長によると、例えもし土中にセシウムがあったとしても、ブドウには殆ど移行しないことは、チェルノブイリ事故後のレポートで報告されているそうだ。 実際、震災後すぐに浪江町のブドウを福島大学に持ち込んでセシウムの移行を調べてもらった結果、ブドウの実のセシウムの値は植わっていた土の千分の一以下。更に、ブドウの根は土中深く張っているので、土の表面のセシウムは殆ど問題ないことが、科学的に裏付けられたとのこと。「かわうちワイン(株)」では、この斜面の上手に醸造所を設立し、2021年よりテイスティングを開始する予定だ。


向かいの山頂の自衛隊のレーダーが「よど号ハイジャック事件」を最初に捉えたそう(余談)

現在、日本のワインの苗木の7割が山形で作られているが、昨年10月から国税庁が導入した「日本ワイン」という呼称は、日本のブドウからワインを造らなければならず、ワイン用のブドウの需要は高まりそうだ。
気になるのは、風評被害の問題である。福島の農産物は生産段階、流通段階、消費段階で放射性物質の検査を行い、安全性が確認されたもののみ出荷されている。しかし、福島県外で常設として福島産の農産物を置いている店舗などはまだ少なく、フェアなどでも福島産というだけで安く叩き売りされることもあり、現地の関係者の嘆きに心が痛んだ。海外においては輸入規制をしている国もあり、私の知人の日本在住のアメリカ人は「福島産の農産物は危険だから絶対に買わない」と言い放つ。科学的根拠に基づいた安全性を、国内はもちろん、海外に向けて発信する努力が、行政やマスコミはまだまだ足りていないのではないだろうか。


ブドウ畑はイノシシよけの電気柵で囲まれている

福島県では川内村以外にも、震災以降、いわき市や郡山市、富岡町などでもワイン造りを始めており、日本有数のワイン県を目指している。世界に認められるワインになるためには、まず安全性の周知という、他の地域にはないハードルを超えていかなければならないが、夢ある復興を応援し、今後も注目していきたい。

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