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新連載1回目【CO2回収・利用・貯留技術(CCUS)】山地憲治(公益財団法人 地球環境産業技術研究機構(RITE)理事・研究所長)

 私が研究所長を務めている地球環境産業技術研究機構(RITE)の主要な技術開発テーマの一つにCCSがある。CCSとは、CO2回収・貯留技術( CO2 Capture and Storage)のことだが、世間的な認知度は低い。研究開発現場では、最近はCO2回収・利用技術(CCU: CO2 Capture and Use)もCCSと並行して進められているので、合わせてCCUSと呼ばれることも多くなった。認知度は低いが、地球温暖化対策の中でCCUSに期待されている役割は大きい。連載方式でCCUSの現状と課題、展望を紹介したい。
 地球温暖化はCO2を主体とする温室効果ガスが大気中に貯まることによって生じている。省エネや再エネ、原子力など温暖化対策としてよく知られている技術は、エネルギー利用から発生するCO2を削減する技術であって分かり易い。これらに対してCCUSは、CO2の発生は前提とするが、CO2が大気中に貯まらないように、大気に放出される前に回収して地中などへ貯留(CCS)あるいは素材製造などに利用する(CCU)技術である。
 既に大気中には多くのCO2が貯まっているので、CO2を大気から直接回収するDAC(Direct Air Capture)技術も検討されている。DACは大気からCO2を減らすので負の排出技術(NETs: Negative Emission Technologies)と呼ばれている。NETsには他にもバイオマス利用とCCSを組み合わせるBECCS(Biomass Energy with CCS)や植林による大気中のCO2固定等がある。海洋肥沃化(鉄分等の散布によって植物プランクトンを増殖させ大気下部のCO2を吸収して海底に生物ポンプで送る技術)もNETsに分類される。

2060年に年間50億トンをCCSで

 国際エネルギー機関による世界のCO2削減量見通し(IEA, Energy Technology Perspectives 2017)では、パリ協定の長期目標を実現するために2060年に必要とされる削減量約300億トンの16%、約50億トン/年をCCSによって実現することが期待されている。わが国の現在のCO2排出量が約13億トン/年であることと比較しても、その大きさが理解できるだろう。また、安倍首相は今年1月のダボス会議で、人工光合成技術などを引用して「今こそCCUを、つまり炭素回収に加え、その活用を考えるときなのです」と述べ、持論の「経済成長と環境の好循環」を実現するイノベーションとしてCCUへの意欲を示している。もっとも、CCUについては、温暖化対策に寄与するためには億トン規模の莫大な量のCO2利用が必要で、既に実用化している石油の増進回収(EOR: Enhanced Oil Recovery)でのCO2利用以外は経済的なハードルが高い。

CCUSにも様々な技術

1)CO2分離回収技術
 CCUSを実現するための主要な技術分野は、CO2分離回収、CO2貯留、CO2利用に分けられる。工業用CO2生産のための分離回収やEORなど既に商業的に行われている技術もあるが、温暖化対策として大規模に行うには多くの課題がある。
 CO2分離回収には、化学吸収、物理吸収、固体吸収、物理吸着、膜分離、深冷分離など様々な技術がある。また、純酸素燃焼により排出物をCO2と水蒸気だけにして気水分離するという方法もある。
RITEでは、製鉄所の高炉ガスからCO2を回収するアミン系の化学吸収液、石炭火力の煙突の手前でCO2を回収する固体吸収材(化学吸収液を固体に担持したもの)、石炭ガス化の過程でCO2を回収する膜分離技術を開発している。それぞれ対象とするガスの組成や圧力に対応して使い分けている。
 例えば、膜分離では対象ガスの圧力が高ければ有利になる。開発された化学吸収液は工業用CO2生産向けであるが既に商業化しており、国内で2基のプラントが稼働している。また、固体吸収材については石炭火力発電所のサイトで実証を計画する段階に達している。CCSのコストの中でCO2分離回収部分の占める割合が大きいので所要エネルギー量削減などコスト低減が大きな課題である。
 なお、世界的に見れば、CO2分離回収は化石燃料燃焼に伴うものだけでなく、天然ガス生産に付随してCO2の分離回収が大規模に行われている。ノルウェーでは、炭素税が導入されていることもあり、回収したCO2を海底下の帯水層に圧入貯留している。この場合には、分離回収コストはもともと天然ガス生産コストに含まれており、圧入貯留に伴うコストだけが追加費用となり経済性をクリアするハードルが低くなっている。

2)CO2貯留技術
 CO2貯留は大きく分けて、地中貯留と海洋隔離がある。海洋隔離については、海洋溶解と深海底貯留がある。3km以深ではCO2は海水より重くなるので海底へ貯まりハイドレートを形成して安定化すると推定されている。しかし、2006年に発効したロンドン議定書により海洋隔離は禁止された。なお、海底下地中貯留については例外として条件付きで認められている。
 ということで現在できるCO2貯留は地中貯留だけであるが、地中貯留にも、帯水層貯留、炭層貯留、油層貯留(EOR)、枯渇ガス田利用、鉱物化固定など様々な技術がある。RITEが開発している地中貯留技術は帯水層貯留で、新潟県長岡で地下1100メートルの帯水層に2003年7月から1年半かけて約1万トンのCO2を圧入した。長岡サイトは圧入井の他に3本の観測井があり、圧入終了後も継続してCO2の挙動をモニタリングしており、貯留したCO2がほとんど移動することなく安定していることを確認している。
 現在は、北海道苫小牧沖の海底下の帯水層に年間10万トン規模で貯留する大規模実証事業に参加し、独自に開発したモニタリング技術の適用などにより貯留の安全管理技術の開発を行っている。

3)CO2利用技術
 CO2利用は、先述したように現在大規模に行われているのはEORだけであるが、様々な研究開発が進められている。具体的には、水素とCO2からメタンやメタノールを合成して化学品や燃料を製造する技術(人工光合成も含む)、CO2を電解や高温熱で還元して合成ガス(CO+H2)を製造する技術、CaやMgイオンと反応させて炭酸塩を製造してコンクリート材料に利用する技術など様々な研究開発に取り組んでいる。いずれも温暖化対策として十分な量のCO2を利用できるか、利用プロセス全体(ライフサイクル)を通して本当にCO2削減になるのか、コスト競争力があるか等を見極める必要がある。

次回以降はCCUSに関する様々な取り組みをより具体的に紹介して、
課題や将来展望を整理していきたい。

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