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連載2回目【CO2回収・利用・貯留技術(CCUS)】山地憲治(公益財団法人 地球環境産業技術研究機構(RITE)理事・研究所長)

CO2貯留の現状と課題

CCS構想とCO2貯留の開始
地球温暖化対策としてのCCS(CO2回収・貯留)の提案は、国際応用システム分析研究所(IIASA)のマルケッテイが1977 年に書いた論文が最初だと私は考えている。この論文でマルケッテイは、ジブラルタル海峡の深部にCO2を放出することにより、大西洋の深いところにCO2を大気から長期間隔離する海洋貯留を提案した。地中海は塩分濃度が大西洋に比べて高く、大西洋と地中海をつなぐジブラルタル海峡の深部では大量の海水が大西洋の1500m 程度の深さに流出しているが、マルケッテイはこの現象を利用するCO2の海洋貯留を構想したのである。
1990年頃から地球温暖化対策が本格的に議論され始めた当初は、CO2貯留の研究の焦点は海洋貯留が主体だった。しかし、現実の温暖化対策としての最初のCO2貯留は、ノルウェーのスタットオイルが北海のSleipnerで天然ガスに随伴するCO2を海底下の帯水層に1996年から年間100 万トン規模で注入し始めた地中貯留である。天然ガスにはCO2が随伴することが多く、通常はCO2を分離して大気放出しているが、ノルウェーでは当時から炭素税が導入されていたこともありCO2の地中貯留を始めたのである。なお、地球温暖化対策ではないが、CO2の地中圧入は米国において1970年代から石油増進回収(EOR)を目的として大規模に行われている。
CO2の海洋貯留(海洋隔離とも言い、海洋溶解と深海底貯留などの方法がある)については、1996年に採択され2006年に発効したロンドン議定書により事実上禁止された。なお、海底下地中貯留については例外として認められている。

CO2貯留の現状
わが国でのCO2貯留の実績は、私が研究所長を務めるRITEが2003年から2005年にかけて長岡で地下1100メートルの帯水層に約1万トンのCO2を圧入したのが最初である。長岡のサイトでは現在まで継続的に地下に貯留したCO2のモニタリングを行っており、ほとんど移動することなく安定していることを確認するとともに、帯水層への溶解や鉱物化などの化学変化を観測している。2016年末からは日本CCS調査(株)が苫小牧において年間10万トン規模のCO2圧入を開始し、2018年末までに20万トン以上を圧入している。苫小牧では石油精製工場からCO2を回収し、地上から斜めに圧入井を掘り海底下の帯水層に地中貯留している。苫小牧でのCO2貯留実証においてもRITEは各種モニタリング技術の開発適用とともに安全管理システムの開発を行っている。また、2016年4月にはRITEが中心となり産総研と民間会社4社で二酸化炭素地中貯留技術研究組合を設立し、CCSの実用化に向け、わが国の貯留層に適したCO2地中貯留技術を開発するとともに、CCSの社会受容性の獲得を志向した研究開発を始めている。
世界的に見れば、大規模なCO2貯留事業が20件近くすでに稼働している。表1に運転中の大規模CO2貯留事業を示す。

表1に示されているように、現在稼働している大規模CO2貯留事業の多くで貯留場所は油ガス田であり、CO2をEORに利用している。また、貯留されるCO2の発生源には天然ガスが多い。EOR用のCO2は販売収入があり、また、天然ガス随伴のCO2は貯留に関わりなく分離されているので追加コストが少なく、いずれも経済性のハードルが低い。これはCCSの大きな課題が経済性であることを示している。一方、EOR利用が主体ではあるが、表1に示す稼働中の大規模貯留事業だけで年間3000万トン以上のCO2が圧入されており、その他も含めると年間CO2圧入量は現在4000万トン水準に達していることにも留意する必要がある。現在中国など5か所で大規模CO2貯留施設が建設中で計画中のものも20件ほどある。

CO2貯留技術の概要
CO2貯留技術については2011年にシーエムシー出版から刊行された「CCS技術の新展開」(茅陽一監修)など様々な解説資料があるので、ここでは簡単に概要のみを記しておく。
先述したように、当初はCO2貯留として海洋貯留が主流だったが、海洋貯留には、海洋にCO2を溶解させる技術と深海底にCO2を堆積させる技術がある。3000メートル以深ではCO2は海水より比重が大きくなり海底に沈降する。また、深海の温度・圧力条件の下ではCO2は水と反応してCO2ハイドレート(固体)を形成するので安定性が増すと考えられている。ただし、既に述べたように、海洋貯留はロンドン議定書によって事実上禁止されている。
現在主流のCO2地中貯留では、表1に示されているように帯水層と油ガス田への貯留(EOR)が大規模に行われているが、その他にも石炭層に貯留してメタンを回収する技術や鉱物化して貯留する技術などの研究開発が行われている。2005年に気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が公表したCCSに関する特別報告によれば、世界全体でのCO2貯留容量は、帯水層で1兆トン以上、油ガス田で数千億トンと評価されている。わが国についても2005年にRITEが概略評価を行い、帯水層貯留で1461億トンとされている。つまり貯留容量は十分と考えてよい。
CO2地中貯留のメカニズムを表2に示す。地中貯留に関する技術には、貯留容量や圧入速度を評価する地質モデリング技術、圧入井の掘削技術やCO2圧入技術、貯留したCO2の挙動を観測するモニタリング技術などがある。圧入技術としてはCO2をマイクロバブル化して効率化するなどの新技術が研究されている。モニタリング技術はCO2地中貯留の安全性評価に関しても重要で、弾性波トモグラフィー始めとして、比抵抗(電気伝導度)検層、中性子検層、重力モニターなどが行われている。

表2 地中貯留のメカニズム

出所:茅陽一監修「CCS技術の新展開」、シーエムシー出版、2011年

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