日本エネルギー会議

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削減目標(Nationally Determined Contribution:NDC)指標から見るパリ協定で決定された貢献の範囲と進歩

Clarence Tolliver(九州大学工学研究院博士後期課程)
Alex Keeley(九州大学工学研究院特任助教・世界銀行コンサルタント)
馬奈木俊介(九州大学都市研究センターセンター長・主幹教授)

1.はじめに
1997年に採択された京都議定書以来、2015年12月12日に、18年ぶりに196ヶ国が国連第21回気候変動枠組条約締約国会議(COP21)の国際的気候変動枠組条約に加盟し、2016年4月26日に185ヶ国が気候変動抑制に関する多国間の国際的なパリ協定を批准した。気候変動の脅威に対する世界全体での対応の強化を目的として、温室効果ガスの排出削減と吸収の対策を行う「緩和」と、温室効果ガスによる影響への「適応」という二つの対策事項が定められ、21世紀末までに世界の平均気温上昇を摂氏2度、又は1.5度未満に抑えることを目指すことが決定された。
パリ協定の特徴の一つは、各国が決めた貢献(英:Nationally Determined Contribution、略称:NDC)を策定・提出・維持する義務を課すことによって、各国が国内対策を通じて各々の経済・財政・技術開発レベルに合わせた排出削減目的を達成することを推し進めた所にある。先進国・途上国の経済的な差を含め、各国の経済・財政・技術開発レベルといった状況はNDCの策定とその遂行に大きな影響を与えると思われる。また、策定されたNDCの内容、そしてそれに伴う規制等は各国の企業運営・製造業・経済発展に影響を与えることが考えられる。そのため、各国のNDCの策定内容について定量的に指標化し、その貢献の範囲を明確化することは、NDCに伴う進捗を確認する上で非常に重要となる。そこで、本稿では、各国のNDCの策定内容について指標化を行った結果を示し、加えて主要国のNDCについてはその策定内容についてより詳細な分析を示す。

2.NDC指標の作成方法
NDC指標には次のカテゴリーが含まれる:(1)緩和の貢献の種類と範囲、(2)単年度又は複数年度の目標、(3)長期目標の有無、(4)温室効果ガス排出量の削減範囲、(5)温室効果ガス排出量削減以外の対策の範囲、(6)対象となる国内温室効果ガス排出量の割合、(7)温室効果ガス排出量削減目標の時限的な設定内容、(8)対象となる経済セクターの幅、(9)条件付きの有無、(10)透明性と進歩のトレーサビリティ、(11)国際市場メカニズムの利用・不利用。これらのカテゴリーに基づき、NDCの基礎となる政策の相対的な強さについてスコアリングを実施した。各カテゴリのスコアは正規化・合計されたうえで、各国のNDC指標の最終スコアとして算出された。図1は、本分析で評価された各国のNDC指標のスコアをランキング形式で示している。

3.主な結果
指標の作成において、各国の経済開発レベル等の差は加味せずに公平的にNDCの相対的な強さを評価しているため、多数の開発途上国(ブラジル、ウルグアイ、コスタリカ)も高いスコアを持つ国のグループに含まれた。また、欧州連合(EU)はNDCで策定されている気候変動に対する企業行動目標が強く、気候変動対策を推し進めるビジネスリーダーとしてEU全体での気候変動に対する規制と政府の政策介入を受け入れ、気候変動への取り組みを最適化することを目指しており、NDC指標のスコアが高いグループに含まれた。次の小節で、結果のハイライトについて、主要国のNDCの策定内容の詳細な分析と併せて説明する。

3.1 日本
日本は、1990年から2014年までの間に、一次エネルギー約13,000MTOE の消費と共に、約29,000MtのCO2を排出した。2015年に、地球温暖化対策推進本部において、「エネルギーミックスと整合的なものとなるよう,技術的制約,コスト面の課題などを十分に考慮した裏付けのある対策・施策や技術の積み上げによる実現可能な削減目標として,国内の排出削減・吸収量の確保により,2030年度に2013年度比▲26.0%(2005年度比▲25.4%)の水準(約10億4,200万tCO2)にすること」とのNDC目標を策定した(外務省、2016)。本分析の中で検証された国の中で、日本のNDC指標スコア(7.42)は高く、ランキングは8位となっている。先進国の中で先進的なNDCを策定し、気候変動対策のリーダーとして前進していることが分かる。

3.2 二大排出・消費国:中国とアメリカ
中国とアメリカは、世界最大のエネルギー消費国・温室効果ガス排出国である。1990年から2014年までに、中国では36,000MTOE以上のエネルギーを消費し、131,000Tt以上のCO2を排出している。同時期に、アメリカは57,000MTOE以上のエネルギー消費・133,000MT以上のCO2を排出している。2005年比の排出削減目標について、アメリカは2025年までに26~28%程度の削減、中国は2030年前後にCO2排出量のピークを達成し、ピークを早めるよう最善の取組を行い、2030年にGDP一単位あたりのCO2排出量の60~65%削減を目指している。アメリカのNDC指標スコア(6.88)は欧州連合や他の先進国より低く、中国のスコア(3.55)は本分析の中で検証された国の内下から4位となった。これは、化石燃料に基づくエネルギー消費量・温室効果ガス排出量に最大の影響を及ぼしている二つの国として、NDCを改善させ、目標の幅を広げないと、世界レベルの排出削減目標を達成するにあたって支障となり兼ねないことを示している。

3.3 欧州連合
欧州連合(EU)の28ヶ国は、1990年から2014年に至るまでに約97,000MTCO2を排出した。一次エネルギー消費データは2010年から2013年までしか存在しないが、その時期に約7,300MTOEのエネルギーを消費している。他国の2005年比2020年以降の削減目標と違い、EUは1990年比で2030年に40%の削減を目指すとしている。EUに加盟している全ての国のNDCは等しく、図1に示されている通り、EU加盟国の内本分析で検証された18ヶ国のスコアは7.13となっている。2050年までの間に63の拘束力のあるEU環境目標と68の拘束力のないEU環境目標が設定されており、NDCの目標達成の促進が図られている。例えば、EU 20-20-20目標は、ヨーロッパの温室効果ガス総排出量の20%削減、20%削減に向かうためにエネルギー効率を2020年までに向上し、再生可能エネルギーの割合を総エネルギー消費量の20%にすることを目的とした代表的な地域的枠組みである。

3.4 オセアニア
オセアニア地方に位置しているニュージーランドとオーストラリアは、NDC指標において最高スコア(ニュージーランド:8.67、オーストラリア:8.50)となっており、ランキングでもニュージーランドは1位、オーストラリアは2位となっている。ニュージーランドは、1990年から2014年までに、一次エネルギー消費量が491MTOEを超え、約736MTCO2を排出した。また、オーストラリアの一次エネルギー消費量は3,000MTOEを超え、約8,500MTCO2を排出した。これらの統計は、他の先進国より低く、経済活動に伴う環境負荷の低さを示している。2020年以降のNDC排出量削減目標について、前者が2005年比で2030年までに排出量の30%の削減目標を策定し、後者が2005年比で2030年までに排出量の26~28%の削減を目指すことになっている。ニュージーランドとオーストラリアのNDCは気候変動対策における先進的目標を持つ国として各国の参考となるものであると言える。

3.5 途上国
途上国の中では、2005年比で2025年までに37%の排出量削減目標・2030年までに43%の排出量削減目標を含むNDC策定によって、ブラジルのNDC指標スコアが8.17となり、ランキングでは3位となった。ウルグアイ及びコスタリカのNDC指標スコアは7.67とEUより高く、5位の同点となった。そして、7.00以上のインデックススコアを持つ他の途上国として、コロンビアのランキングは9位となった。データのないウルグアイを除く三ヶ国の1990年から2014年の一次エネルギー消費量は約6,100MTOE・CO2排出量は約9,800MTとなっている。これらの国々は他の途上国が参考とすべき頑強なNDCを策定しており、途上国におけるNDCの策定におけるモデルケースであると言える。

おわりに
本稿では、対象とした46ヶ国の過去の一次エネルギー消費量と温室効果ガス排出量と照らし合わせながら、2030年までの温室効果ガス排出削減目標を定義するパリ協定への自国が決定する貢献(NDC)の目標の高さを比較した。パリ協定の平均気温上昇を摂氏2度、又は1.5度未満に抑える目標を目指すことと共に、世界各国の貢献・進歩・ニーズを徹底的に検討する上で、NDCの継続的な修正・改善は重要であり、定量的にNDCの策定内容を評価できるよう、今後本指標の更なる拡大を実施する予定である。
参考文献
1)U.S. Energy Information Administration, 2019. International Energy Statistics. [Online]. https://www.eia.gov/beta/international/
2) 気候変動に関する国連枠組条約 (UNFCCC), 2017. Greenhouse Gas Inventory Data. [Online]. http://di.unfccc.int/detailed_data_by_party
3)外務省、2016.「自国が決定する貢献(INDC)」とは:2030年の温室効果が図排出削減目標。[Online]. https://www.mofa.go.jp/mofaj/ic/ch/page1w_000121.html
図1.46ヶ国のNDC指標スコアとランキング

出典:UNFCCC NDCデータを基に筆者作成

図2.16ヶ国のCO2排出量と一次エネルギー消費量、1990年-2013年

出典:U.S. EIA(一次エネルギー消費量)データとUNFCCC(CO2排出量)データを基に筆者作成

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