日本エネルギー会議

  • 設立趣旨
  • お問合せ

グリーンボンドとエネルギー政策:新たな財政的仕組みの更なる活用の可能性

Clarence Tolliver(九州大学工学研究院博士後期課程)
Alex Keeley(九州大学工学研究院特任助教・世界銀行コンサルタント)
馬奈木俊介(九州大学都市研究センターセンター長・主幹教授)

1.日本のエネルギー供給・消費にかかわる政策:傾向と目標
東日本大震災による福島第一原発事故及び電力設備被害に伴う東日本の電力危機発生以来、全国の各電気事業者の原子力発電所の稼働停止をはじめ、運転停止(モスボール)されていた化石燃料発電所の再稼働等、日本のエネルギー政策の計画・目標は大幅に見直されてきた。エネルギー基本計画の最新版である「第5次エネルギー基本計画」における第一宣言で「長期的に安定した持続的・自立的なエネルギー供給により、我が国経済社会の更なる発展と国民生活の向上、世界の持続的な発展への貢献を目指す」ことが明記された。それに従い、(1)再生可能エネルギーの主力電源化・低コスト化・系統制約の克服、(2)原子力の安全性向上と依存度の低減、(3)化石燃料発電の高効率化・災害リスクへの対応強化、(4)省エネルギーの継続・省エネルギー法と支援策の実施、(5)水素・蓄電・分散型エネルギーの技術開発により、2030年までに温室効果ガス排出の26%削減に向けて歩みを進めることが優先事項の一部となった。また、2030年に向けて35%のエネルギー効率の改善、そして総発電電力量に占める再生可能エネルギーの比率を22~24%程度・原子力の比率を20~22%程度とする目標が日本のパリ協定への「自国が決定する貢献」(英:Nationally Determined Contribution、略称:NDC)に組み込まれた。

再生可能エネルギーの利用を拡大することを支援する政策について、2009年11月1日から電力会社に太陽光発電の余剰電力の買い取りをすることが義務付けられ、太陽光発電の普及拡大が進んだ。更に2012年7月1日に開始した「再生可能エネルギーの固定価格買取制度」によって、太陽光発電のみならず、風力・水力・地熱・バイオマス発電も対象範囲に含まれ、再生可能エネルギーを基にした売電事業は全国的に急速な拡大を見せ、日本のエネルギー自給率の向上を推し進めている。図1は日本の再生可能エネルギーによるエネルギー供給の傾向を示している。

太陽光発電による電力供給量は2009年の買い取り開始から2017年までで、228.5石油換算キロトン(英:kilotonnes of oil equivalent、略称:ktoe)から5,267.5 ktoeと約22倍に急速に増加した。そして、数十年前から重要な再生可能エネルギー供給源として活用されている地熱と太陽熱の供給量は減少傾向にあり、反対に特に2012年の固定価格買取制度制定以降、バイオガソリンと風力発電のエネルギー供給量は、その導入量は依然として少ないながら増加傾向にある。
日本の「エネルギー基本計画」の見直し・パリ協定に係るNDCの策定・固定価格買取制度の制定といった各種政策的支援は、長期的に安定した持続的・自立的なエネルギー供給システムの構築において重要な後押しとなっているが、太陽光以外の再生可能エネルギーの導入拡大、化石燃料発電の高効率化、省エネ等の促進においては、更なる経済的又は財政的な仕組みを通した支援が必要となる。

2.画期的な財政的仕組みとしてのグリーンボンド:特徴及び役割
グリーンボンドは、柔軟な支払いスケジュール、信用補完の手法、長期のプロジェクトスケジューリング、レバレッジオプション、およびその他の債務証券のコスト削減といった数多くのメリットを有することから、企業及び公的プロジェクトの資金調達スキームにおける利用が世界的に増加してきている。国際資本市場協会によると、グリーンボンドとは債権による収益が環境に優しい(グリーン)プロジェクトへの融資又は再融資に利用される債権の種類の名称である。グリーンボンドの対象となるグリーンプロジェクトの分野は以下の通りである:(1)再生可能エネルギー、(2)エネルギー効率向上、(3)公害防止及び管理、(4)環境に優しい生物資源と土地利用の管理、(5)陸上生物・水生物の多様性の保全、(6)排出量の低い交通機関の促進、(7)持続可能な淡水・排水管理、(8)気候変動による影響への適応、(9)環境効率的な循環経済に適合した製品・生産技術・プロセス、(10)国内的又は国際的な認証を満たすグリーンビルディング。

上述した特徴に加えて、グリーンボンドを発行する主体は、グリーンボンドを活用したグリーンプロジェクトの環境改善効果を測定し、レポートとして開示することが促進されている。このような環境・社会・ガバナンス(ESG)に関わる情報の開示は、企業のパフォーマンス向上に繋がり、環境的な投資を優先していることを社会的責任投資家(SRI)にアピールすることができる。更に、グリーンボンドは資本集約的なインフラストラクチャー金融スキームにおける地方自治体の予算不足を補完する際にも適切な財政的仕組みであると言える。

2007年に欧州投資銀行がグリーンボンドを発行して以来、2018年までにグリーンボンド市場は約161兆円(1.45兆米米ドル)の水準を超えた (Climate Bonds Initiative, 2018) 。図2は世界におけるグリーンボンド総発行量を地域ごとに分類して示している(背景にある緑色の区画が未払いのグリーンボンド量を示している)。その内、グリーンボンドを発行した56の大手民間企業・政府・自治体等は、総合収益約6.5兆円(58億米ドル)のうち2.9兆円(26.7億米ドル)を再生可能エネルギーに関するプロジェクトと資産へ割り当てており、そして2016年以来毎年グリーンビルディングに関するプロジェクトと資産、及び低炭素輸送に関するプロジェクトと資産にも約5億円(3億米ドル)の資金を割り当ててきたことが公表されている。これらのグリーンボンドの活用によって、約1千万のCO2換算トンの排出削減と1,500GWの再生可能エネルギー容量増加に繋がっていたことが分析により明らかとなっている(Tolliver et al., 2019)。総収益分配額の2分の1が再生可能エネルギーに分配されたことは、エネルギー政策の中でグリーンボンドが世界的に重要な役割を果たしているということを示している。

日本のグリーンボンドについては、2014年の約32億円(29千万米ドル)の発行から、2017年には約328億円(2.9億米ドル)の発行量に急増しており、総額557億円(5億米ドル)が発行されている。最大金額を発行した5主体とその発行量は(1)日本開発銀行の約239億円(2億米ドル)、(2)三菱UFJ銀行の約134億円(1.2憶米ドル)、(3)住友みつい銀行株式会社の約120億円(1億米ドル)、(4)トヨタの7.8億円(7千万米ドル)と(5)みずほフィナンシャルグループの約6.5億円(6千万米ドル)であった。そして、ほぼ全ての収益分配金が世界の傾向と同様に、クリーンエネルギー・低炭素交通機関・グリーンビルディングの資産・プロジェクトに割り当てられている。グリーンボンドの発行量増加は、「エネルギー基本計画」の自立的・環境に優しいエネルギー発電インフラの導入拡大を促進し、NDCの排出削減目標を進めるための対策となりうると言えよう。

3.まとめ
本稿では、日本の近年のエネルギー政策と排出削減目標および再生可能エネルギー供給傾向について簡潔に整理したうえで、世界及び日本のグリーンボンド発行量とその割り当てを明らかにし、持続可能なエネルギーシステムの構築と排出削減目標の達成におけるグリーンボンドの更なる活用の可能性について紹介した。近代のグリーンボンド発行量の傾向から、短・中期的に日本を始め他の先進国及び途上国においてもその発行量は増加し続けると予測され、環境に優しい資産・プロジェクト資金への割り当ても増加していくと予想される。グリーンボンドの活用をエネルギーに係る財政的枠組に含めていくことは、グリーンプロジェクトのコスト削減、又はエネルギー政策・排出削減目標達成の鍵となるだろう。
参考文献
1)Tolliver, C., Keeley, A.R., Managi, S, 2019. Green bonds for the Paris Agreement and sustainable development goals. Environmental Research Letters. https://iopscience.iop.org/article/10.1088/1748-9326/ab1118

2)経済産業省新エネルギー庁、2018.「第5次エネルギー基本計画」. https://www.enecho.meti.go.jp/category/others/basic_plan/

3)経済産業省新エネルギー庁、2018.再生可能エネルギーの歴史と未来.https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/tokushu/saiene/saienerekishi.html

4)Climate Bonds Initiative, 2018. Bonds and Climate Change: The State of the Market 2018. https://www.climatebonds.net/resources/reports/bonds-and-climate-change-state-market-2018

5)外務省、2016.「自国が決定する貢献(INDC)」とは:2030年の温室効果が図排出削減目標。 https://www.mofa.go.jp/mofaj/ic/ch/page1w_000121.html

図1.日本の再生可能エネルギーによるエネルギー供給、1990年から2017年まで

出典:国際エネルギー機関の再生可能エネルギーデータに基づき筆者作成

図2.国ごとの年間グリーンボンド発行量、2007年から2017年まで

出典:Climate Bond Initiativeのグリーンボンドデータに基づき筆者作成

  • データベース室
  • エネルギーとは?
  • 世界と日本のエネルギー
  • 原子力の論点
  • 放射線と健康
Facebook Twitter