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最終回【CO2回収・利用・貯留技術(CCUS)】山地憲治(公益財団法人 地球環境産業技術研究機構(RITE)理事・研究所長)

CCUSの経済性と政策

CO2回収・利用・貯蔵(CCUS)に関する連載の締め括りとして、CCUSの経済性と政策について解説したい。

CCSの経済性評価
2005年度の評価なので最新ではないが、CCSのコストについては、現在私が研究所長を務めているRITE(地球環境産業技術研究機構)が図1のような解析評価を行っている。ここに示されているように、新設石炭火力発電所で発生するCO2を地下帯水層に貯留する場合のコストは7300円/t-CO2、既設石炭火力の場合は1万2400円/t-CO2と評価されている。コスト内訳の中では、CO2回収に関するコストの比率が高く、各々58%と63%になっている。CCSを適用すると火力発電の効率が落ちるのでkWh当たりの石炭火力のCO2排出量を1kgと少し大きめに想定すれば、新設石炭火力の場合の発電コストとしてはkWh当たり7.3円の増分になる。


図1CCSコスト評価とその内訳

最近のCCSコスト評価例としては、米国の国立エネルギー技術研究所(NETL)が2015年の報告で超臨界微粉炭火力の場合に60.5ドル/MWh(約7円/kWh)の発電コスト増分、英国エネルギー技術研究所(ETI)も2016年に微粉炭火力について31ポンド/MWh(約5円/kWh)の増分と評価している。いずれも2005年のRITEの評価と大きくは変わらない。この程度のコスト増であれば、バイオマス発電などと十分に競争可能な水準である。なお、2005年のRITEの評価では、コストシェアが最も大きいCO2回収コストは約4000円/t-CO2(新設石炭火力の場合)としているが、現在開発中の技術では分離エネルギーの減少などにより2000円台を目指している。コスト低下は期待されるもののCCS自体には金銭的な収益はないので、地球温暖化対策としての導入支援策が必要である。ちなみに、米国では2018年に45Qという法制度を制定し、EORについては$35/t-CO2、CCSでは$50/t-CO2の税額控除を行う仕組みを導入している。

CCUの経済性評価
CO2利用技術については、経済産業省が6月にカーボンリサイクル技術ロードマップを作成し、同月に軽井沢で開催されたG20エネルギー・環境閣僚会合でも水素などとともに推進すべき注目技術として取り上げられた。
経済産業省と文部科学省が連携して作成した「エネルギー・環境技術のポテンシャル・実用化検討会」の報告書(2016年6月公表)でもCCUが取り上げられており、エネルギー投入やCO2発生のLCA評価の重要性を指摘するとともにCO2削減可能性を定量的に評価している。また、同報告書ではCO2のメタネーションについて経済性評価を示している。それによると、直近のLNG価格(10$/MMBTU)並みにするには水素を約3円/Nm3で調達する必要があるとされており、経済性の壁は高い。同報告書はCO2のコンクリート吹込み(製品名SUICOM)の経済性も報告しており、埋設型枠用であればコストは一般製品の1.1倍から1.7倍、より汎用的な道路ブロックについては3.3倍から4.7倍となり、一部限定的な用途では商用化されているが、更なるコストダウンの必要性を指摘している。

CCUSへの政策対応
今まで説明してきたようにCCUS技術は地球温暖化対策として有効であるが、現在のところ経済性に課題がある。わが国政府は苫小牧におけるCCSの実証試験とともに、貯留の安全性評価技術やコスト低減を目指したCO2分離・回収技術の研究開発を推進し、貯留可能量のポテンシャル調査を実施している。また、RITEが中心となって産総研と民間会社4社で設立した二酸化炭素地中貯留技術研究組合は年間100万トン規模の貯留に向けた研究開発を行ってCCSの事業化を目指している。

CCUについても前述したように、わが国はカーボンリサイクル技術ロードマップを作成し、G20エネルギー・環境閣僚会合でもCCUを重要なイノベーションとして推進する旨を表明し賛同を得た。国際的には、国際エネルギー機関(IEA)が1991年に温室効果ガス対策プログラム(IEA GHG)を設立し、CCUS技術の研究開発の国際連携を進めている。IEA GHGはGHGT(温室効果ガス制御技術)という名称の国際会議を2年毎に開催し、世界のCCUS研究成果を共有する重要な場を提供している。RITEは、IEA GHGの日本代表機関で、2012年には京都でGHGT-11を現地実施機関として開催した。2020年にはGHGT-15がアブダビで開催されることになっている。

2003年6月には、CSLF(炭素隔離リーダーシップフォーラム)が米国の呼びかけにより設立され、CCUSの研究開発、実証、商業化のための国際協力の推進を進めている。CSLFの加盟国は、25か国・1地域(欧州委員会)で、「政策グループ」と「技術グループ」に分かれて活動しており、日本からはそれぞれ経済産業省とRITEが参加している。また、CCSの安全性に係る国際基準などの国際標準の策定作業(ISO/TC265)が進められており(RITEが国内審議団体を務める)、わが国の民間企業の海外展開を支える環境整備を行っている。最近では、CEM(クリーンエネルギー閣僚会合)が2018年5月にCCUSイニシアティブを設立し、政府・産業・金融の連携を強化し、有望なエリアを特定し早期の案件形成に向けてベストプラクティスの共有を図っている。

このように国内外でCCUSへの取組が行われているが、現実には大規模CO2利用となるEOR(石油増進回収)と組み合わせる場合の他は、既に分離されている天然ガス随伴のCO2の貯留が実施されている程度で、地球温暖化対策として火力発電所などの大規模CO2発生源に対するCCUSはほとんど進んでいない。このためには更なる研究開発によって経済性を改善するとともに、圧入に伴う誘発地震やCO2漏洩などの可能性へのリスク対応を確実に行い、CCUSの社会受容性を確保する必要がある。経済性改善については増分コストゼロにはなり得ないので、再生可能エネルギーや省エネルギー政策でも採用されているような、誘導的規制や導入インセンティブを与える制度が必要となろう。

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