日本エネルギー会議

  • 設立趣旨
  • お問合せ

緊急時対応の国家備蓄体制に再考が必要では 小川芳樹(東洋大学 経済学部 学部長)

2019年度版のエネルギー白書が取りまとめられた。東日本大震災による原子力発電のトラブルで1次エネルギー供給の石油構成比は40%を割り込まず推移した(2010年:40.3%)が、2016年度39.7%、2017年度39.1%とついに40%の壁を下回ったことが明白となった。石油の指定席と位置付けられてきた自動車燃料を、末端で温室効果ガスを排出しない電気等に切り替える動きが進んでいる。このため、わが国でも今後の石油依存度は着実に低下すると予想されている。

2017年度と2010年度を比較すると、構成比を着実に増大させたエネルギーは、石炭(22.7%→25.2%)、天然ガス(18.2%→23.4%)、水力を除く再生可能エネルギー等(4.3%→7.6%)である。これらのエネルギーの増大が、東日本大震災前と比べた原子力の大幅な低下(11.2%→1.3%)を補って支えたということができる。原子力の再稼働は地元の強い反対など様々な問題を抱えており、東日本大震災の前の稼働への復活は容易ではない状況にあるといえる。

太陽光、風力、バイオマス、地熱といった再生可能エネルギー等も、2012年の固定価格買取制度の本格導入でこれまでになく構成比を増加させることができたが、2030年度に実現を目指す構成比の目標水準を考えると、まだまだ道のりは遠いように見受けられる。こうした中で今後の石油依存度に着実な減少が見込まれるとすれば、増大を期待できる本命のエネルギーは、化石燃料である石炭と天然ガスに結局のところ絞られてしまうのではなかろうか?

石油も含めて石炭、天然ガスといった化石燃料に依存することの本質的な問題点を考えると、第1はいずれも燃焼すれば温室効果ガスの二酸化炭素を大量に大気中に放出してしまう点である。この問題点は、どんぐりの背比べではなく、化石燃料に共通して抜本的な対策を考えなければならない。第2はいずれもわが国に大規模の国産資源はなく海外からの輸入にほぼ全量を依存せざるを得ない点である。このため突然の供給途絶に備えた緊急時対応が求められる。

80年近くさかのぼる歴史的な経緯もあって、わが国は上述の第2の問題点に対する様々な対策を長年にわたって積み重ねてきたということができる。その代表的なものの1つが緊急時対応のための国家備蓄体制である。この緊急時対策は、対応が必要な緊急事態がいざ起こった場合、その活動を支える供給源がすでに国内に存在することになるので、その意味で国産エネルギーと同様に国民に対して強い安心感をもたらすことができるものといえる。

しかしながら、これまで緊急時対応のために国家備蓄を行ってきたエネルギーは石油と液化石油ガス(LPG)である。同じく海外にほぼ100%の供給を依存する天然ガスと石炭に関しては国家備蓄が行われていない。過去は石油依存度が75%にも達して、石油の国家備蓄があればそれを放出することで緊急時対応に何らかの効果をもたらすことが確かにできたかもしれないが、石油依存度が40%を割り込むまで低下した現在、果たして対応可能であろうか?

例えば、大都市の都市ガスの場合は天然ガスへの100%転換を終えてからすでに相当の時間が経過した。昔であれば、石油を原料に製造されたガスが都市ガスとして供給されたこともあるので、石油の国家備蓄があれば緊急時対応が可能であったかもしれない。しかし、現在は単純に可能とは思えない状況である。石油構成比の低下に対して石炭、天然ガスの構成比がさらに上昇するのであれば、緊急時対応としてそれぞれの国家備蓄を考えた方がよいのではないかと思う。

また、国家備蓄を整備してきた石油に関しても、海外で発生した供給途絶に対して「伝家の宝刀として抜く」最終手段の位置づけで始まったため、国家備蓄は備蓄基地に原油を塩漬けにする発想で取り扱われてきたことが否めない。したがって、石油備蓄の放出を実際に実施して緊急時対応として国家備蓄が役立つことを国民に理解してもらおうと思っても、これまでにそのような機会を適切に持つことができなかったというのが実情である。

上述の状況を勘案すると、緊急時対応として整備する国家備蓄の重要性を国民に実感を持って理解してもらうことが何よりも肝要である。そのためには、塩漬けの「伝家の宝刀」という発想ではなく、製品備蓄、備蓄の平常時運用など国内の災害時も含めて国家備蓄をもっとフレキシブルに活用できる制度を構築することが求められる。従来の石油の位置づけが変化したことを踏まえて、わが国の今後にふさわしい国家備蓄体制を再考すべきが時期が到来しているように思う。

  • データベース室
  • エネルギーとは?
  • 世界と日本のエネルギー
  • 原子力の論点
  • 放射線と健康
Facebook Twitter