日本エネルギー会議

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【オピニオン02】 田中伸男(前IEA事務局長/日本エネルギー経済研究所特別顧問)

日本のエネルギー安全保障を考える(下)

原発再稼動はアベノミクスの“第4の矢”である
昨年9月、独立機関として発足した原子力規制委員会の対応に様々な意見が寄せられていますが、「独立」と「孤立」は全く違います。海外からも規制機関として独立はしていなければならないけれども、他人の言うことを聞かないというのはおかしいという批判が寄せられます。それは、是非改めていただき、色々な観点からの意見を聞くようにしてもらうべきだと思います。その上で、どう判断するかは、それはそれで独立した機関の仕事。安全性の観点から議論する場ですから、経済や外交、安全保障などといった安全性以外の問題まで広く考えて判断すべきだ、といっても正直言って難しいでしょう。

そこは、政治の役割です。原発の再稼動を認めるにしても、誰が責任を持つかといえばそれは政治であり、政治が責任ある議論をしっかり行って、国民を説得する必要があります。全て規制委に丸投げして、そこが了承すればそれでいいというのでは責任放棄ではないでしょうか。

◆「活断層問題への対応には無理がある」
ただし、世界一厳しい基準を適用するという方針は、それはそれとしてわかりますが、いわゆる「活断層問題」についていえば、「(事業者に)活断層でないことを100%証明せよ」といっても、これは非常に難しい話です。科学的に考えても、理学の世界と工学の世界で随分と考え方が違うはずですし、工学的に可能なことをコストと相談しながら決めていくのが、モノを造るときの原則。科学的に活断層がないことを完全に証明しろというのは、そもそも最初から無理な話ではないかという気がします。確かに現在の基準では、活断層のあるところに原発は造れないのですが、高速道路や鉄道、橋、トンネルとか、いくらでも活断層をまたいで造られているわけなので、心配するとなると他にも山ほどあるはずです。

原発については、十分な安全を考えなければならないのはわかりますが、あまり細かい基準を仕様中心で決めていくと、それを守れば安全だ、という「規制の罠」みたいな話にはまる可能性があり、いままでそういう傾向があったと指摘されていますね。仕様にこだわるあまり、実効性に目が向かない危惧があります。ある一定のターゲットとする安全レベルを達成する道は色々な方法があると思うので、それはむしろ事業者サイドに任せて、どういった形で実現していくのか、それぞれが置かれた場所や経験、創意工夫で判断していったほうが、より合理的な規制につながる。これがアメリカ型といわれる規制で、そうした点を日本も学ばなければいけないのではないですか。あまり個別の問題に入り込んで、大切な視点を見落としては元も子もない。

この点では海外にも疑問を抱いている人たちがいます。私も米国のマンスフィールド財団がやっているグループの会合に参加したのですが、世界の専門家の話を聞いてみると、「日本の新しい規制機関がどのように判断するかは世界全体に大きな影響を及ぼすので慎重に考えて欲しい」という声が多く寄せられました。世界一厳しい基準はわかりますが、世界の常識とあまりにもかけ離れた対応になると他国と問題を起こす可能性が無きにしもあらず。どうすれば工学的に最も安全か、世界にいろんなルールがあるわけですから、それを参考にしながら一番いいものを作ったらいいのでは。ただ闇雲に厳しくすればいいということでは必ずしもないでしょう。

◆「電気料金再値上げの可能性あり、政治的判断こそ欠かせない」
さらに、新規制基準の通過を再稼働の条件にするというのは、本当はおかしい。もう新しい基準ができてしまいましたから、今ごろ言ってもしょうがないのですが、再稼動の話というのは本来なら新基準ができるまではもとの安全基準で判断して、再稼働は再稼働として進めていくべきだった。それをしないで放置しておいて、新しいルール、全てそれ待ちとしていたのは、行政の怠慢だと思います。

それについて行政を相手に訴訟を起こさなかった電力会社の無策でもある。そうした訴訟などでもっとはっきりさせるべきだったという気もします。ですから、日本はいつから超法規的なことをする国になってしまったのか。リーガルマインドで動かすべきものは動かす、止めるべきものは止めるっていうふうにしなかったのか。はっきりしたルールがあるところでは、そのルールに従うべきだったという気がします。

いずれにしても、安全の問題について配慮することは当然必要なのでしょうが、さらに時間をかけて、いろんな方々の議論を聞いた上で具体的、合理的に決めていく時間的余裕はないと感じます。このまま日本の原発を再稼働しないでいると年間4兆円ものコストが余計にかかり、さらに電気料金を大幅引き上げせざるを得ない。かつ、メンテナンスのために1兆円を超えるお金がかかるといわれており、とてもじゃないけどアベノミクスで金融、財政を懸命に刺激し、成長戦略を実行しても、日本経済が回らないと思います。ですから、私は原発の再稼働は「第4の矢」ではないかという気がしていて、この矢を一緒に射らないと成長戦略と言っても、みんな産油国、産ガス国に国富を垂れ流すことになりませんか、といいたいですね。そのぐらい真剣に再稼働の問題を政治家は考えるべきだと思います。

それをやらないでみんな規制委に丸投げするのは危ない。そこまで規制委に考えろと言っても無理です。これは政治がきちんと判断すべき問題。動かす、止めるという両方のリスクを見ながら、止めておくことによる大きなリスクを考えながら進めないといけないのではないですか。

◆「地球儀的に見た日本の原子力技術の貢献を考えよ」
世界の動きに目を向けたときに、日本、米国など先進国の立場とは別に、経済成長による国民生活の向上を目指そうと、新興国、発展途上国、さらに言えば貧しく、現在は電気もない生活を余儀なくされているアフリカの一部の国々などの事情も無視できない。今後の世界人口増加といった問題も考慮した場合、国際的なエネルギー戦略、同時に地球環境問題への対応が求められています。

こうした地球儀的な視点で考えると、安くて安定的で温室効果ガスを出さないエネルギー源を、これから途上国中心に大量に使っていかなくてはいけない。もちろん化石燃料も使うのですが、石炭はかなりの埋蔵量がありますがCO2を多く出すので問題があり、原油価格は今後、かなり高くなっていくでしょう。ガスは使い勝手がいいですが、これだってずっとあるわけではありません。将来のことを考えると、できるだけ化石燃料依存度を下げていかなければならない。

一つは、再生可能エネルギーですね。これは技術開発が進んでいますが、まだまだコストがかかります。これを上手く使って途上国でやるときには、大きな電源としてではなくて、むしろ分散型の小型電源として再エネを活用するべきです。そうすると送電網が小さくて済みますから。これが一つの答えです。

ただし、産業をこれから伸ばさなくてはいけない新興国、発展途上国、特に東南アジアとか中国、インドでは大きなエネルギー源が必要となるので、その場合には原発が使われていくでしょう。そういう地域で原発を活用するときに、安全に使ってもらわなければいけません。その要請に対する日本の貢献ですね。福島事故を経て、それでも日本から原発を買いたいというベトナムとかトルコ、リトアニアなどがあります。そういう国が存在することは、日本の技術の安全性とか、運用能力などに対する評価があるわけで、貢献する方法としては現在の軽水炉利用も当然あり得ると思いますね。

◆「新しい技術にも積極的に目を向けて」
さらに一歩進んだエネルギー源として、軽水炉の使用済み燃料はゴミではなくて燃料でもあるわけですから、プルトニウムとか燃えなかったウランを取り出して、燃料にする高速炉の世界がある。この次世代型原子炉の世界を、日本はリーダーの1国として開発を進めるべきだと思います。米国のようにしばらくは、シェールガス、シェールオイル、石炭もあるので、40~50年間程度は使用済み燃料を保管しておけばいいと考える人たちもいますが、そうじゃない国もある。つまり、もっと早く使用済み燃料を有効活用したいと考えている国もあります。中国やインドはそういう発想ですね。

「プルトニウムエコノミー」という言葉がありますが、そちらに向かって走っているわけです。日本とか欧州、韓国もそうですが、これらの国は軽水炉で燃やしたために、使用済み燃料を持っていて、よく言われる原発批判ですけど、放置したら「トイレ無きマンション」になってしまう。これを解決する方法として、やはり使用済み燃料の再処理と高速炉の開発・利用は、どうしても原子力を利用するには必要な技術です。

日本もこの核燃料サイクル路線を進めてきた。青森県・六ヶ所村の再処理工場は今年5月にガラス固化試験を完了し技術開発に成功しましたが、高速増殖原型炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)は上手くいっていないですね。従ってこれに変わるか、これを補完する新しい燃料サイクルメカニズムが必要だと思います。その答えはある程度あります。技術開発を進めた米国でインテグラル・ファースト・リアクター(IFR)と呼ばれます。統合型高速炉といって、再処理と原子炉が同じ施設の中にあるメカニズム。そうするとプルトニウムが外に出てきませんから、処理した燃料を運ぶ必要がないのでテロ対策上も非常に強い。

米国のアルゴンヌ国立研究所で開発され、1960年代に使われた原子炉で、その後も研究が続いています。どうして続いているかというと、使用済み燃料の処理のための技術としてこれがいいと考えられていて、スリーマイル島原発事故(1979年)で溶けた核燃料もこの技術を使って処理しているそうです。従って、福島事故の処理もこの技術を使えば対応可能といえます。

◆「新たなパラダイムも含め、前進する道を政治決断するとき」
かつ燃やし方が高速炉なので、今、軽水炉ではものの1%しか燃えるものを燃やせていませんが、残りの99%も燃やせるので、ほぼ無尽蔵なエネルギー源を手に入れられる。ナトリウムを使う高速炉ですから、「もんじゅ」と似たタイプですし、「もんじゅ」もその実験用として使える。燃料は酸化物燃料ではなくて金属燃料なので少し違いますが、金属燃料とナトリウムの熱伝導率の関係で非常に安全な原子炉だといわれ、全電源が失われても自動的に止まるそうです。

もう一つの特徴は、使用済み燃料から燃えるものはみんな使ってしまうので、高レベル放射性廃棄物が非常に処理し易くなる。放射能が早く無くなっていくということで、今の軽水炉の使用済み燃料及びそこから出てくる高レベル廃棄物はその処理をして、天然ウラン並みに放射能が下がるのに10万年かかると言われていますが、この原子炉でやると300年とされています。300年となると、地層処分というよりはむしろ管理していてもそれなりに影響が無くなっていくレベルに入っていきますので、現在の核燃料サイクル路線とは違うパラダイムですが、それを補完するためには非常にいい技術だと思います。

米国のエネルギー省もこれを進めようとしてきたのですが、今のところ高速炉路線を採っていないので、取敢えず凍結されていますが。今これをやりたがっているのは韓国です。韓国も使用済み燃料が溜まっている状態なので、米韓原子力協定を改定して、この再処理をやらせろ、日本が再処理をやっているのにどうして我々には認めないのだという議論を米韓でしていますね。これは地政学的に難しい決断なので、まだイエスが出ていませんが、韓国はどうしてもやろうとしている。

米国が原子力のパートナーとして、もし日本が原発から撤退すると韓国と組む可能性があります。その時アジアの地政学的バランスは大きく変わってしまうでしょう。私は、日本が韓国とも協力して米国と共同で新しい高速炉の開発をやったらいいじゃないかと考えています。こうした原子力開発、新しい科学の世界は極めて大きな夢のある技術なので、そこに人材を積極的に集めていくべきです。

本来なら、そういうところまで議論を進めていかなければならないのですが、現在の日本は本質的な取り組みの前で止まっている。もっと将来に向けて、いっぱいやること、日本が考えるべきことはあるので、そういう議論をしなければいけないと痛感しています。日本が福島事故後どうやって立直るかについては、世界中から注目されているわけです。なのに、前段階で、ぐるぐる同じところを回っているだけ。これでは展望は開けない。世界で起きている状況を良く認識し、日本がどういう対応をすると、日本のエネルギー安全保障に役立ち、エネルギー分野で世界に貢献できるかを真剣に考えるべきではないかと思います。安倍政権が3年間は安定運営できるなら、なおさらのこと、今こそこういった議論を前進していくべきではないでしょうか。

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