日本エネルギー会議

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【オピニオン03】金氏 顯(エネルギー問題に発言する会代表幹事/元三菱重工業常務)

原子力発電所の安全性向上に向けた体制の整備を

信頼の回復こそが全ての原点である
原子力規制委員会が策定した新規制基準には色々な批判はありますが、あの基準に適合するように電力会社もプラントメーカーも取り組めば、機器設備の安全性は飛躍的に高まります。そして、現在、適合性が審査されています。しかし、合格すれば直ちに再稼働が国民の多くに受け入れられるとか、古い原発を廃止することは賛同されても代わりに新型原子炉に置き換えようという認識が国民の間に高まると簡単にはいかないのではないでしょうか。

原発には非常に高度な専門性が求められますが、多くの方々が専門家並みに理解をしてくれれば、安心感を持って受け入れてくれるかといえば、そういう問題ではない。福島事故を経て、原子力技術者や組織に対する信頼が失われてしまった。事故の当事者である東京電力だけではなく、日本の全ての原子力技術者が「あんなものなんだ」と思われている。悔しいが、大変厳しい状況にあるわけです。

とはいえ、エネルギー資源の自給率が極めて低い、いわばエネルギー資源最貧国といえる日本の将来を考えれば、原発が一定の役割を担い、プラントメーカー、電力会社、研究機関などがこれまで培った原子力技術を維持、向上していける状況を再構築していくことが欠かせないと私は考えています。そのために最も重要なのが、人や組織に対する信頼の回復です。

来年の今頃には、安全審査を終え、ある程度の原発が再稼働していると見込まれます。電力会社もメーカーサイドも、トラブルなく運転すべく必死に取り組むでしょう。安全運転の実績を積み重ね、同時に原子力技術者、関係者が謙虚な姿勢で社会に向けて情報を発信し、市民や国民と対話を継続する活動が必要であると思います。

◆責任あるエネルギー政策とバックエンド対策は国主導で
現在、電力会社の経営体力はとても疲弊しています。原発比率の高かった関西、九州、四国、北海道の4つの電力会社は再稼働できないと特に大変です。火力発電設備の点検を延ばし、いったん止めた古い設備を動かしながらギリギリの体制で安定供給を確保している。もし、これらにトラブルが発生したら大停電が起きてもおかしくない状況です。原発の再稼働が遅れるような事態となれば、各社は火力発電設備を新設しなければならない。でも、その経営体力は残っていないのが実情でしょう。

私としては、再稼働は粛々と前進していくと思っていますが。その次の段階として、古い原発を廃止し、リプレイスによる新設が進められるかどうかが問題になってきます。国民の信頼性とか電力会社の経営体力、金融機関がそれに融資をするかといったことが大きな課題として残ります。

さらに、再稼働と新設だけでなく、福島第1原発の汚染水対策から廃炉までの処理、使用済み燃料の保管、再処理、高レベル廃棄物の地層処分など原子力には取り組まなければならない問題が山積しているのも現実です。こうしたバックエンドと呼ばれる重要課題には国が責任を持って、主体的に取り組まなければならないと考えます。まずは、しっかりとしたエネルギー政策を策定し、いわゆるバックエンド対応は国が責任を持って取り組む姿勢を示す必要がある。こうした基本になる大きな方向を民間からも国に提言し、国が主体的に策定して推進していく、これまでの「国策民営」の逆、「民策国営」で進める体制変換が必要ではないでしょうか。

◆国、電力、メーカーが対等の関係で取り組んでいた時代
私が三菱重工に入社したのは1968年。その後、1970年代、1980年代と原発建設の初期段階から技術開発、新規建設に懸命に取り組んできました。この期間は原発の第1~3次通産省軽水炉改良標準化と符合しているのですが、国が主導し、国のプログラムとして認可され、電力会社やメーカーも一体となって推進しました。

この間は、それぞれに上下関係などありません。トラブルが起きたら、みんなが一緒になって原因を究明し、技術的にはメーカー中心ですが、現場に行って、それぞれが連携して再発防止に懸命に取り組んだ30年近い歳月だったと思います。振り返ると、技術、運用、規制といったそれぞれの立場が非常にうまくいっていた時代でした。

しかし、1990年代になって、電力自由化の話が浮上するなどして、政府と電力会社の関係がぎくしゃくし始め、それは結果的にコストの関係もあって、電力会社とメーカーとの間にもなんとなく溝が生まれてしまった気がします。原発の設備・機器を一番知っているのはメーカーですが、電力会社の裏方に回るような関係が生まれてしまった。残念ですが、1990年代後半から日本の原子力分野は団結力が失われていったような気がします。かつては、現場重視で電力・メーカー・規制当局がうまくいっていたと思うのですが。

そうした流れの中で、2002年に東京電力のいわゆる「トラブル隠し」問題が表面化した。あれ以降、規制当局は書類審査を厳しくし、定期検査の際には書類の束を何メートルにも積み上げて審査を行い、現場に行く暇がないなどといった話も耳にしました。このような歴史を謙虚に反省すべきは反省し、改めて原子力を安全に活用するシステムを再構築して信頼確保に取り組むべきであると痛切に感じています。

◆米国に学び民間の「司令塔」の確立を
長年、原子力技術者として活動してきた経験を踏まえて、私が提言したいのは米国における原子力関連組織を参考にして、日本も組織を見直し、早期に「原子力の安全性向上」という共通のゴールを目指して再スタートすることです。

自分のことを言うわけではありませんが、原発に関する技術力はメーカーが一番持っていると思います。設計や機器を作るという面では、十分な技術と経験を表も裏も知っているわけですから、原子力プラントの安全を守るための提案をしていく責任があると改めて感じています。今こそメーカーも前面に出て、電力会社と一緒になって原子力産業界として原子力安全を自分たちで、こうして確保、運用していくと表明するべきです。我々はこのように取り組みますから、規制当局にもこうしてもらえないかといった提案をどんどんしていけるようにしなければ。

米国には中心的な「司令塔」としてNEI(原子力エネルギー協会)があります。ここは、原子力発電会社、設計やエンジニアリング会社、燃料供給会社、サービス会社、大学や研究所、さらには労働団体などで構成される原子力発電、原子力技術産業に関する政策機構。その目的には「原子力発電ならびに技術の産業に影響する重要な法制度や政策を立案し、自ら規制当局と交渉、議会・議員などへのロビー活動も実施、その制度の実現を目指すとともに、社会・国民の福祉への貢献につながる活動を行う」とうたわれています。

また、米国の原子力発電事業者、原子炉メーカー、エンジニアリング会社などで構成され、原子力発電運転の最高レベルを追求する技術集団であることを標榜し、発電会社以上のプラント運用技術や評価解析技術を持つ優れたエンジニアを多数かかえるINPO(原子力発電運転協会)もあります。こちらでは、原子力発電における最高レベルの安全と信頼を自ら達成することを使命とし、その為の技術水準の策定、それに基づく発電所の評価活動、運転員・補修員の教育訓練、故障トラブル事象の分析評価等の活動も行っています。

こうした組織が米国原子力規制委員会(NRC)やエネルギー省(DOE)とも議論を重ね、より高い原子力安全の向上に取り組んでいる。ここでは、電力会社もメーカーも対等な関係が確保されています。昨年11月、日本版INPOを目指して、原子力安全推進協会(JANSI)が発足したが、人員・体制の拡充など、まだ課題は多い。一方、NEIに並ぶ機関としては電気事業連合会や日本原子力産業協会がありますが、原子力安全確保や政策推進などの機能の一元化が必要ではないでしょうか。

米国もスリーマイル島原発事故(1979年)の後、いろいろと曲折を経て、今日のような関係が出来上がったわけですが、日本も今こそ、米国のいいところを学んで原子力関係者が目標を一つにして取り組むように、早く踏み出すべきだと考えます。


◎略歴
金氏 顯(かねうじ・あきら) 1944年佐賀県生まれ、北九州市育ち。九州大学動力機械工学科修士課程修了、1968年三菱重工業入社。加圧水型軽水炉(PWR)国産1号機の基本設計に携わり、原発技術の国産化、信頼性向上や改良型加圧水型軽水炉(APWR)開発プロジェクトなどに従事。同社常務取締役を経て、2004年に退任。2006年、原子力学会シニアネットワークを設立し、代表幹事に就任。現在は、エネルギー問題に発言する会代表幹事。北九州市に在住し九州にて学生、市民などとの対話を行っている。

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